大崎善生の同名小説の映画化。原作は未読です。


良い意味でも悪い意味でも安心して観ていられる純愛物語になっています。ひょんなことから出会った孤独な山崎隆二と続木葉子。一旦は別れるものの、やがて、運命は隆二と葉子を結びつけ、幸せな日々が始まるかと思いきや、葉子が不治の病に犯されていることが発覚。残された僅かな日々を過ごす二人の姿を描きます。


特に目新しさのない先の読める展開ではあります。綺麗にまとまり過ぎて、やや、面白みにかける感じもし、あまりにも淡々とあっさりしすぎている感じもします。けれど、優しく美しい作品にはなっていたと思います。哀しいけれど、それまで、孤独だった二人がお互いに心を通わせることのできる相手を見つけられたことの幸せが伝わってくるようでした。


死ぬことは悲しいことですし、死ぬ人を見送ることも辛いことです。けれど、「いつかは死ぬ。」これは、人間なら誰にでも等しく与えられている宿命です。こればかりは、どんな権力を持ってしても財力を持ってしても覆せない定め。生を終えること自体が避けられないことならば、その終わりをどう迎えられるかで、その人の幸不幸が左右されるものなのかもしれません。幸薄い人生だったとしても、最期を幸せに過ごせるならば、それまでの不幸も、大きな幸福を得るために必要な試練だったと思えるかもしれない。


若くして、不治の病に罹り、治療することもできず、死を迎える。そのこと自体は、不幸だったでしょう。けれど、その最期を愛する相手に見守られながら過ごせたらなら、そして、自分の死後も、自分を思ってくれる人がいることを確信してこの世を去ることができたとしたら、やはり、幸せだったということになるのだと思います。


そして、本作で良かったと思ったのは、ラストの映像。そこでは、葉子との最後の日々のために、仕事も辞め、すべてを投げ打った隆二。その隆二のその後の人生についても描かれていました。


一旦は全てを捨てた隆二の人生が葉子と共に終わらず、隆二自身の再生への一歩を踏み出したのです。しかも、「死んでも誰の心の中にも残ることができない」と呟いていた葉子の存在を広くしらしめることができる方法で。それを、ホンのワンショットで見事に表現していました。


本当に愛情で繋がれる相手を見出せた人の幸福感が伝わってくる静かで美しい、光の溢れた映像でした。デート向けにぴったりな雰囲気の暖かい作品になっていると思います。


公式HP

http://www.kadokawa-herald.co.jp/official/adiantumblue/




アジアンタムブルー@映画生活