何とも激しい男女の物語です。

妻を亡くし、人生に絶望したジャイトは、自殺未遂をおこします。収容された病院で、ジャイトは、トルコ系ドイツ人で、イスラム教への信仰が厚い保守的な家族から自由になりたがっているシベルと出会います。シベルは、自分の家から出るためジャイトに偽装結婚してほしいと頼みます。ジャイトは、最初は拒否しますが、結局、同意し、一緒の生活を始めます。けれど、部屋をシェアするだけの愛のない生活。シベルは自由奔放に数々の男性と遊び、ジャイトはかつての恋人と、時々、会います。そんな生活の中で、ジャイトはシベルを愛するようになりますが、シベルは、その気持ちに気付かず、他の男たちとの関係を持ち続けます。やがて、ある事件が起き、シベルもジャイトを愛していることに気付きますが...。


ジャイトとシベル、この二人の生活、感情表現の激しさに圧倒されます。妻の死という大きな絶望を抱えたジャイト。(この絶望の背景にある元妻との関係については、あまり詳しく描かれていなかったので、ジャイトの絶望の程が、今ひとつ伝わってこない面もありましたが...。)そして、自分を縛り付ける家族に絶望し、家からの脱出を熱望するシベル。家族から自由になったシベルの解き放たれたエネルギーの大きさには驚かされました。


社会常識よりも自らの欲求に忠実だった二人ですが、自分の本当の気持ちに気付いてからは、逆に、自分の気持ちを理性で抑えた行動をすることになります。自分自身を見つめることを、心の中の真実に耳を傾けることを避けていた「大人になりきれていない時期」は、奔放に行動することができたのに、自分ときちんと向き合える大人になったことで、逆に、シベルは、一緒にいたい最愛の人との生活よりも、大切にすべき人たちとの生活を選ぶことになり、ジャイトも、一人故郷へ帰ることを受け入れることになります。


年齢は重ねていたけれど、傍にあったもの(ジャイトにとっては元妻、シベルにとっては家族)から離れざるをえなかった、あるいは、抜け出した時の喪失感、あるいは、開放感の大きさに自分を見失った二人が出会い、自分自身を取り戻し、それぞれが一人の責任ある大人として生きていくようになる。


激しい恋愛を通して成長していく、そして、成長したことにより、自分の果たすべき責任というもの目覚めていく、そんな二人の姿が切なくもあり、清々しくもありました。


時折、トルコ音楽を演奏する楽団の映像が挟まれます。このシーンが、この作品に舞台的な要素を与え、あまりに激しい二人の感情表現が緩和されているような気がします。このトルコ音楽の他、激しいパンクロックも用いられている部分もあり、音楽が上手く映像の雰囲気を盛り上げています。






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