角川エンタテインメント
ニュー・シネマ・パラダイス 完全オリジナル版

昨年末から今年の初めにかけてデジタル・リマスター版が劇場公開された作品です。その際に、映画館で観て、その感想はここ に書いたのですが、今回は、その「オリジナル完全版」です。


この作品は、アメリカでの公開の際に、長すぎるということで、一部をカットし、短いバージョンにして公開したのだそうです。劇場で、デジタル・リマスター版として公開されたのは、短いバージョンの方だったにですが、劇場でこの作品を観て、改めて長いバージョンのものを観てみようと思ったのです。


長いバージョンを観てわかったのは、短いバージョンにする際に、主人公、トトの恋愛の部分が大幅にカットされているということ。特に、アルフレードの葬式のために故郷へ戻ったトトとかつての恋人との再会の場面がカットされているということ。そして、このことにより、ラストの意味合いが大きく変わってくるということ。


短いバージョンを観ていると、ラストシーンのトトの気持ちとしては、郷愁の情が強かったように思えましたが、長いバージョンだともっと複雑な思いがあったように受け取れます。特にアルフレードへの気持については、長いバージョンの方では、「アルフレードへの赦し」という面がクローズアップされてくるように感じられました。


そして、トトが何を犠牲にして映画に取り組んだかが表現されることで、アルフレードやトトの映画に捧げる熱い思いがより強く伝わってくるように思えました。長いバージョンだと上映時間は3時間近くになるので、これを劇場で観るのも楽ではないでしょうし、少々、中だるみするような場面も無きにしも非ずではありますが、この「オリジナル完全版」は、より味わい深く印象的な作品になっていたと思います。




[以下、ネタバレあり]








ラストで、トトは、アルフレードからの形見として渡されたフィルムを観ます。そのフィルムは、アルフレードが働いていた映画館で神父の判断により「非道徳的」とカットされたラブシーンを集めたもの。トトの人生からアルフレードがカットしたものとこのラブシーンが重なります。


トトは、人生において大切な恋人を失ったけれど、映画監督として大きな成功を収めます。カットされたラブシーンのフィルムは、アルフレードの死後も、トトの死後も長く遺るものとなるでしょう。例え、そのために大きな犠牲を払うことになったとしても、トトなら後世に遺る作品を生み出すに違いないと信じたアルフレードの思いが込められた形見の品だったような気がしました。


トトの恋愛について丁寧に描かれ、かつての恋人、そして、恐らくトトがその人生においてたった一人、真に愛情を注いだ相手との再会が描かれたからこそ、このラストがより大きな意味を持つ味わい深いシーンになっているように思えました。


まぁ、もっとも、「男子たる者、愛する人との関係を諦めてでも、何かの道で成功を収めるべき」という考え方には、意義を唱えたいところではありますが...。この辺りは、時代、ということなのでしょうけど...。