母は、修錬を始めて、夜にぐっすり眠れるようになりました。そして、癌が発覚してから母から消えていた笑顔が、少しずつ戻ってきたのです。

 けれども、まだまだ実家に帰ると、母が心から安心して底抜けに明るい笑顔を見せてくれることはなく、ぽろっと不安を私に漏らすことが何度もありました。

 副作用も減り、食事の量も増え、体が動くようになって、私たちは母もだいぶ安心かな、と思っていました。

けれども、医者からステージⅣ、リンパ節に転移ありと告げられたことが頭から離れることはなかったのです。

表面上は心配かけまいと明るくふるまっていますが、心の中はまだまだ暗く安定していませんでした。

癌患者さんの中には、ご自身でこの問題を解決される方も見えます。

 カウンセリングを受けたり、ご自分で本を読んで何とか精神的な支えを見つけ、笑顔で生きていかれる方がいらっしゃるのを見て、本当に強い方だなと思います。

 母にも、そのような支えや、何か指針のような、生きる拠り所となるものがあれば、もっと前向きに生活できるのではないかと私は思っていました。

体の回復と並行して、精神の回復も癌治療には必要であることを痛感していました。

 そして、そのような精神的な支えとなるのが、体を動かすことなく、足を組んで目をつむり、心の中でじっと念訣を唱える静功です。

 これは、たくさんのエネルギーを体内に取り入れる功法でもありますが、同時に一心に念訣を唱えることで、悩みや苦しみが取り除かれ、心が無の状態に近づき、精神が安定します。           

 母は、ようやく階ひとを受講し終え、静功を始めることになりました。