「ひそひそ星」 | 土方美雄の日々これ・・・

「ひそひそ星」

園子温が自ら設立した独立プロダクション「シオンプロダクション」の第1回制作作品。もちろん、自らの監督・脚本・プロデュース作品である。

主人公の、乾電池で動くアンドロイド「鈴木洋子」は、四畳半風内装の、ボロアパート風外観の宇宙船で、銀河系の星々を訪ね、文字通り、孤立し、絶滅危惧種と化している人間たちに、思い出の品々が入れられた荷物を届ける宅配業者。

その彼女の、お茶を飲む、掃除をする、体内の乾電池を交換する、くしゃみをするなどの、船内での日常生活と、訪れた荒廃した星々で、その住人に宅配便を渡す様が、淡々とつづられるだけの、モロクロ作品。もちろん、ストーリィのドラマチックな展開などは、皆無である。

この作品が描く、絶滅危惧種化した人間の住む星々の、その荒涼とした風景は、すべて、震災の傷跡が生々しく残る、福島県の浪江町等で撮影されたもので、星々の住人たちも、大半が、その地元の人々。エピソードを語ることもなく、それどころか、科白さえもほとんどない作品だけに、その福島の「生」の映像の持つ凄みが、観客にダイレクトに、伝わってくる。

モノクロ映像が、たった一瞬、カラーに変わるシーンが、印象的。

園子温というと、その過剰な演出が身上というイメージが私にはあったが、それは誤解であったようだ。すぐれて、詩的で、現代アートのような秀作である。

それにつけても、被爆し、廃墟となって、今後、ウン十年、ウン百年も続くであろう、静謐な世界が、とてつもなく、恐ろしい。そんな中で、人々は絶滅危惧種となって、ただただ、立ち尽くすしかないのだろうか。

そんな中、「鈴木洋子」の仕事は、今日も、続く。たとえ、荷物を届ける人間が、どこにもいなくなったとしても・・。

新宿のシネマカリテ他で、ロードショー公開中。