「すべてのもののつながり 下地秋緒作品集」 | 土方美雄の日々これ・・・

「すべてのもののつながり 下地秋緒作品集」

下地秋緒さんが、故船本洲治さんのお嬢さんであるという、余計な知識があったので、大変、感慨深かったが、そうでなければ、正直なところ、多くの作品の中に、彼女の作品が並べてあったとして、どれほどの印象が残ったか、私には疑わしい。

彼女の出身は沖縄で、そのあまりにも短い創作活動のベースはスペインであったというのに、彼女の銅版画はくすんだ青や茶色、緑が、その基調になっている。スペインで銅版画を学ぶ前は、埼玉のコバタケ工房で彫刻を学んでいたという彼女だが、そのどっしりとした、大地に根を生やしたような、初期の彫刻作品と比べると、銅版画を手掛けられるようになってからの作風は、ずいぶんと変わっている。その作品の中から、どんどん、具象的な人物や動植物が消え、やがて、抽象画の域に至る。

それも、寂しい、寒々とした心象風景をつづったものが、日増しに多くなっていっているように、思われる。たとえ、人物を扱ったものであっても、たとえば、「ブルー」や「宇宙人との会話」「サーカスの帰り」等々のような、寂寥感、孤独感は、一体、何だろう???最後の方の作品は、ほぼ完全な抽象画。人物は登場しないか、登場しても、完全な点景となる。

スペインで、32歳の時、突然の高熱で入院、インフルエンザと診断されるが、感染症で帰らぬ人となった。まだまだやりたいことは沢山あっただろうし、無念の死だったろう。

しかし、この人は本当に幸せであったのかと、その作品集をザッと見ただけの、薄っぺらな印象で、私はそう思う。もちろん、そうであれば、いいのだが・・。

作品集のつくりについて、一言。作品はすべて額に入れられた状態で、写真に撮られている。そうした制作意図であったのかもしれないが、違和感は残る。この本を紹介してくれた友人も、そう言っていた。

現代企画室刊。定価は3000円+税。