「イースタン・プロミス」 | 土方美雄の日々これ・・・

「イースタン・プロミス」

もはや、ホラー映画の巨匠とは呼べない領域に達した感のある、カナダのデビッド・クローネンバーグ監督の新作。

私は1970年代後半から80年代の半ばにかけて、「ラビッド」「ザ・ブルード」「スキャナーズ」「ヴィデオドローム」「デッドゾーン」「ザ・フライ」といった、一連のクローネンバーグ作品に出会い、その世界観に文字通り圧倒され、夢中になった。しかし、彼が1991年に製作した「裸のランチ」は、国際的な評価の高さにも関わらず、少なくとも私にとっては退屈なだけだったし、その後、しばらく、クローネンバーグ作品から遠のいた時期もあった。

現実と非現実の境界が限りなく曖昧な、独自のクローネンバーグ・ワールド。しかし、2005年に彼が製作した「ヒストリー・オブ・バイオレンス」では、そういったクローネンバーグ・ワールドが影を潜め、リアルでシンプルな作風で、ごくフツーの人間の中に潜む、むき出しの暴力を描いて、強い衝撃を観る者に与えた。

新作「イースタン・プロミス」は、その「ヒストリー・オブ・バイオレンス」で彼が主役に起用したヴィゴ・モーテンセンを再び起用、ロンドンの移民社会におけるロシアン・マフィアの世界を描いて、そのリアルでシンプルな作風は、より一層、鋭さを増した感がある。

「ロード・オブ・ザ・リング」3部作で敷かれたヒーロー路線を捨てて、演技派の道を歩むヴィゴ・モーテンセンに加え、ナオミ・ワッツにヴァンサン・カッセルといった実力派を配し、ロシアン・マフィアの世界を舞台に、人間の中に、共に潜む「悪魔性」と「天使性」とを鋭くえぐった秀作であるが、観るのがいささかつらい、生々しい暴力シーンもあるので、そういったシーンが苦手という人は、ご注意を・・。