「こんな気がする」ディランを観て第十一弾 ● 2016年4月22日

今夜は特別な夜だ。11回目にして初めて前方の席で観たのだ。当たり前のことだが音の聞こえ方、メンバーや照明そしてステージ上の楽器やアンプ、小物の類、とてもくっきりと見え後方とは全く異なる空気が漂っている。そして観客の熱気も一味違ったものだ。ステージが始まるとディランとメンバー間のあうんの呼吸や時によっては気持ちの揺れさえもが伝わってくるようだ。そうしてみると席料が高いのも頷けるが、視界に入ってくる情報が多すぎて歌に集中できなくなったりする。全体を俯瞰しながら、ホールの空間を鳴らしている音を聴くにはやはり後方に限るのだろう。ディランの観客はリピーターが多いと聞く。熱心なあまり前方の席ばかり狙うのは解らないではないが、聴く場所によって違った印象を受けるという贅沢をお勧めしたいものだ。
ディランの公演はまだ4回残っている。

1. シングス・ハヴ・チェンジド 
センターでヴォーカル。抑え気味の声で歌い始めるが次第に荒れた声で展開。昨夜に続き今夜も動きは良いのか、軽く踊りながらウロウロし最後はしめのポーズ。

2. シー・ビロングズ・トゥ・ミー 
ディランはセンター。歌い出しはさほど崩さずに言葉も解り易く歌っているが、自由なハーモニカ演奏で何かが吹っ切れたのか、崩して歌いながらエンディングを迎える。

3. ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシング
ディランはピアノでヴォーカル。軽く歌い始めたがそのうち荒々しい声で崩しながら歌う。チャーリーのギターを軸にしてバンドがまとまってゆく流れがたまらない。

4. ホワットル・アイ・ドゥ 
センターでヴォーカル。泰然と構え余裕しゃくしゃくな雰囲気で歌う。間違いなく体の中にフランク・シナトラがいるのだろう。両手を広げてしめた。

5. デューケイン・ホイッスル
ディランはピアノでヴォーカル。ディランが音を探るようなピアノ演奏をしているうちに曲が始まり、ぬけが良いヴォーカルで痛快に歌い進む。後半に向けて演奏がまとまりをみせ、ディランはどこか心地良さそうだ。

6. メランコリー・ムード
センターでヴォーカル。声がややかすれ気味だが基本的には崩さず歌う。チャーリーのギターソロを今夜は大分気に入ったのか、演奏に合わせるように軽く踊っている。

7. ペイ・イン・ブラッド
センターでヴォーカル。軽い感じで始まるものの言葉を投げ捨てるように歌っているからか声が徐々に荒れてきた。と共にバンドの演奏がタイトにシャープさを増す。この曲でも踊るような仕草を行い、両手を挙げてしめた。

8. アイム・ア・フール・トゥ・ウォント・ユー
センターでヴォーカル。歌い始めると拍手が沸き起こる。歌詞の中の「ウォント」の歌い方が耳に残るほど独特だった。曲に身をゆだねているからだろう、心地良さ気に歌いきった。

9. ザット・オールド・ブラック・マジック
センターでヴォーカル。乾いた声でテンポよく歌い綴る。このテンポが生みだすグルーヴ感がとにかく気持ちが良く、観客もアツくなって歓声を上げる。何かに急いでいるかのように後半はやや崩して歌う。

10.ブルーにこんがらがって 
センターでヴォーカル。少し小さい声で内緒話でもするかのように歌い始めるが、歌を崩し始めると声が出てきたようだ。エンディングより早めにピアノから立ち上がりバンドを見渡して演奏をしめた。

今夜は一言多く「みなそぉーん、どうもありがとぉー」、と言ってはけ。

11.ハイ・ウォーター(フォー・チャーリー・パットン)
ディランはセンター。荒れた声ながら穏やかに歌い始める。低い声でコントロールしながら歌い進め、時々声を伸ばすようにして歌う。いつものようにギターソロでウロウロし、ダンスのような仕草も見せ、最後は両手を挙げてしめた。

12.ホワイ・トライ・トゥ・チェンジ・ミー・ナウ 
センターでヴォーカル。気持ちが入っているのだろう、どこか寂しげだが余裕を持って歌う姿が素晴らしい。一語一語を丁寧に歌う声も良く出ている。例のウロウロをした後に両手を広げてしめる。

13.アーリー・ローマン・キングズ
ピアノ演奏でヴォーカル。最初の声は低いが歌い方を変えながら徐々に凄みを利かせたものに。チャーリーのギター演奏はいつものように控え目ながらキラリと光るフレーズを放つ。ピアノからいつもより早く立ち上がり、バンドの演奏をしめた。

14.ザ・ナイト・ウィ・コールド・イット・ア・デイ
センターでヴォーカル。潤いのある声で崩すことなくしっかりと歌う。バンドの過不足無いバッキングは流石で、今のディランに彼ら以外は考えられないほど見事だ。

15.スピリット・オン・ザ・ウォー ター 
ピアノ演奏とヴォーカル。大分崩して自由に歌っているせいか言葉がスムースに次々と湧き出てくるような感じさえもする。ディランの気ままなピアノ演奏に柔軟に呼応するチャーリーのギターソロはとても品があるもので見事としか言いようがない。演奏に満足したのだろう、ピアノから立ち上がって演奏をしめる。

16.スカーレット・タウン 
センターでヴォーカル。同じメロディが繰り返される演奏を聴いていると邪悪なものに吸い込まれていきそうなイメージが生まれてくる。決して大そうに歌わないところが妙味でもある。エンディングで両手を横にあげる。

17.オール・オア・ナッシング・アット・オール
センターでヴォーカル。乾いた声で淡々と歌いながらも見事に緩急をつけて深みを出している。でもこの曲はチャーリーの曲みたいなもので、彼のギター演奏が細心で大胆で柔軟で控え目で、なんと素晴らしい事か。

18.ロング・アンド・ウェイステッ ド・イヤーズ 
センターでヴォーカル。ディランの声に挑発するようなニュアンスをはらんでおり、ハリがあって力があった。観客に向かって言葉を投げつけるような歌い方のせいか、この歌が始まるととにかく引き付けられる。

19.枯葉
センターでヴォーカル。歌い始める前にディランの姿を見て連想したのはリングに上がる前のボクサー。しっかりと歌わなければ、間違いなく伝えなければ、と言ったような覚悟と気合を感じた。

暗転して本編を終了、客席からアンコールの拍子が続く。

20.風に吹かれて
ピアノ演奏とヴォーカル。今夜は大分崩して歌っているが、それ以上にピアノ演奏は自由だ。歌にステージに立つ全員の気持ちが乗り移っているかのような錯覚を覚えた。

21.ラヴ・シック
センターでヴォーカル。サラリとした感じで歌い始めるもののバッキングの厚味ある演奏に押されてディランの声も段々と力強くなってゆく。チャーリーのソロで踊るような仕草が。

最後、メンバーたちはステージ中央へ。客席を見回し両手を広げやや頷きながら、ディランは去っていった。


●ボブ・ディラン来日公演スケジュール