ボブ・ディラン13年ぶりの福岡公演。4/19 Zepp Fukuoka公演、菅野ヘッケルさんからの日本公演通算第14夜ライヴレポートです!!ついにLast 3 Daysお次は4・21,22,23大阪公演へ!

【ボブ・ディラン、2014年4月19日Zepp Fukuoka:ツアー14日目ライヴ・レポート】

ボブ・ディラン
2014年4月19日
Zepp Fukuoka


ボブ・ディランが福岡でコンサートをおこなうのは、2001年以来、じつに13年ぶりだ。しかも、オールスタンディングで収容人数2000人のライヴハウスは初めてとなる。土曜日のコンサートは6時開演だ。ボブはのコンサートはいつも時間通りにはじまる。今夜も6時きっかりに3連チャイムが鳴り、スチュがアコースティックギターを弾きながら左手から登場した。暗闇のステージにほかのメンバーたちも登場し、最後にボブがステージセンターのマイクスタンドの前に立つ。ステージの照明がつけられると、すぐにオープニング曲「シングス・ハヴ・チェンジド」がはじまる。あいかわらず薄暗い照明の下で見ると、ボブは派手な刺繍のついた黒い上下を着用し、帽子はかぶっていない。バンドは全員黒色のスーツだ。今夜もボブはていねいに歌っている。ただ、全体的に音が小さい。そのためか、やや迫力に欠ける気がする。ドラムズのビートに体が揺らされるほどではない。2曲目は「シー・ビロングズ・トゥ・ミー」。行進曲風にアレンジされたこの歌をボブはつややかな低音のヴォーカルを駆使して歌う。スチュがエレクトリックギターで刻むリズムが印象的に響く。途中でハーモニカの演奏をはさみながら、ボブはやや崩したメリハリの利いたヴォーカルを披露する。自由度は高い。今夜もボブは、気分がいいのかもしれない。

ボブがピアノに移動して3曲目の「ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシン」がはじまる。薄暗いステージ、全体的に低めの音量で聞いていると、かつてブルースマンたちはこんな感じで、各地のジュークジョイントを回っていたのかなと想像してしまった。ボブのピアノとチャーリーのギターがマイナー調の心地いいリフを生み出す。途中でボブは、オリジナルメロディを崩して下から上に音階をたどるように歌う。新しい魅力が生まれた瞬間だ。こうした楽しみこそ、ライヴの醍醐味であり、ボブのコンサートに何度も足を運ぶ理由のひとつである。ボブがステージセンターに移動して「ホワット・グッド・アム・アイ?」に移る。ボブは感情たっぷりに低音のヴォーカルで言い聞かせるように、ていねいに歌っている。ドニーがペダルスティールで、チャーリーがギターでメロウなリフを奏でる。

今夜の5曲目は「ウェイティング・フォー・ユー」。2日前にレアな「ワーキングマンズ・ブルース#2」を歌ったスポットなので、何か変化があるかなと思っていたが、定番曲に戻った。ドニーのペダルスティールとトニーのストリングベースが奏でる美しいサウンドに、ボブが自由奔放なピアノを重ねてジャム演奏をくりひろげる。優雅なワルツが終わると、最新アルバム『テンペスト』の収録曲で陽気なロカビリーナンバー「デュケーン・ホイッスル」がはじまる。列車をテーマにしたオールドタイミーなこの曲では、途中でビッグジャム演奏が繰り広げられる。曲の後半、ボブは立ち上がってピアノを叩きながらノリノリの演奏をした。観客は大歓声で応えた。

つぎも『テンペスト』の収録曲が続く。ボブがステージセンターに移動して「ペイ・イン・ブラッド」がはじまる。手でマイクスタンドをつかみ、体をねじって半身で立つボブは、ヘッドバンギングをするようにリズムを刻むように軽く頭を上下に振る。その姿はまるでヤングロッカーのように見える。「おれの意識ははっきりしている/おまえはどうなのか」とボブが糾弾する。ステージセンターに留まったまま、代表曲「ブルーにこんがらがって」に移る。「一つ一つのことばが真実に響く/きみのためにぼくの魂が書いたことば」と歌っているが、たとえすべての意味がわからなくても、耳に飛び込んできた、印象に残る単語がいくつかあるはずだ。それだけで充分。ひとつの単語からイメージは広がる。この歌でボブはすばらしいハーモニカ演奏も聞かせてくれる。最後のパートをピアノに移動して歌い終えた。

1部を締めくくるのは、もちろん「ラヴ・シック」だ。マイクスタンドをつかんで歌うボブは、歌詞に合わせたジェスチャーをしながら、最高のパフォーマンスを見せてくれた。バンドもしまった演奏で、とりわけチャーリーが泣けるリフで、ボブのヴォーカルを支える。もちろん観客も満足感に満ちた歓声で応える。「アリガトウ。少しの間いなくなるけど、すぐに戻ってくる」、ボブはそう告げるとステージから消えた。

8時8分、3連チャイムに続けてスチュのエコーを効かせたエレクトリックギターのリフが流れはじめる。全員がステージに戻ると、2部のはじまりだ。まず、「ハイ・ウォーター」。絶え間なく響くドニーのバンジョーをバックに、ボブはことばをはっきりと、ていねいに歌っている。濁声やアップシングは使わない。観客からドニーのバンジョーソロに拍手が起きる。いつものようにストップ&リスタートで歌い終わると、ボブはめずらしく軽くお辞儀をした。ステージセンターに残ったまま「運命のひとひねり」がはじまる。よく知られた歌なので、観客から拍手が起きる。それに後押しされるように、ボブは感情を込めて、ことばを明瞭に伝わるように歌っている。ハーモニカ演奏にも感情が込められている。

曲間の暗闇のなか、ピアノに歩いていくボブに「かっこいい!」と客席から若い女性の声がかけられる。72歳のボブに「かっこいい」と声がかけられるのだ。これこそいまさにカリスマというのだろう。ピアノに移動したボブが「アーリー・ローマン・キング」を歌う。ピアノ、ラップトップ、ギターが厚みのあるブルースを奏で、ボブは1フレーズごとに上体を揺らしてパワフルな歌を展開する。エンディングでは立ち上がって、ポーズを決める。今夜の、とりわけ2部のボブはノッている感じがする。次はぼくの好きな「フォゲットフル・ハート」の番のはずだ。ノッているボブを見ていて、期待が高まる。しかし、いつもと様子がちがう。イントロがちがう。そう、今夜は「ハックス・テューン」が歌われた。4月4日の東京公演で世界で初めてライヴで歌われた、女に別れを告げる内容の歌だが、今夜が4回目のライヴとなる。今夜は両手でことばの意味に合わせたジェスチャーを交えながら、みごとなヴォーカルで歌われた。エンディングではハーモニカも演奏された。

ピアノに移動して「スピリット・オン・ザ・ウォーター」が歌われる。イントロがはじまっても、観客の反応はいまひとつ燃え上がらない。そんなときこそ逆にボブの心は騒ぎ始める軽快なジャズナンバーのこの歌を、ボブはやさしくソフトに伝えたいという思いを込めて歌っているように聞こえる。スチュがリズムを鋭く刻み、ボブはピアノでメロディアスなリフを叩きだす。チャーリーもメロウなリフを重ねる。ついに、ボブが「歳を取り過ぎてるってあなたは思っているんだね、盛りの時を過ぎてしまったと考えているんだね」と歌うと、観客は「ノー」と応える。ボブが「とんでもなくすばらしい時をいっしょに過ごせる」と結ぶと、観客から大歓声がわき起こった。ボブがパフォーマンスの力で観客の心を勝ち取った瞬間を見たような気がした。

照明がやや明るくなり、ステージセンターに移動したボブはマイクスタンドを右手でつかむ決めのポーズで「スカーレット・タウン」を歌う。1バース歌うたびに、観客から拍手と歓声が沸き起こる。ボブは完全に観客の心をつかんだ。ボブの思いが伝わったのだ。ピアノに移動して「スーン・アフター・ミッドナイト」がはじまる。ドニーのペダルスティールがもの悲しいストリングスのような効果を出している。ステージ背景に星空のような模様が投影され、甘いポップスのような調べが会場を包み込む。だが、実際に歌われる世界は、甘い心地のいい世界ではない。「ノット・ダーク・イエット」で扱ったような宿命を歌っているように聞こえる。

ステージセンターに移動したボブは、2部を締めくくる「ロング・アンド・ウェイステッド・イヤーズ」を歌う。明るくなったステージに立つボブの姿は、勝ち誇ったヤングロッカーのようにぼくの目に映った。9小節の心に焼き付くメロディにのせて、ボブはことばを吐き出していく。その度に、ドヤ顔でポーズを決めまくる。最後に手を挙げて「ローーーング・アンド・ウェイステッド・イヤーズ」と締めくくると、軽くお辞儀をして客席を見回した。いつもならここで照明が落とされ、ボブはステージを去っていくのだが、今夜はちがった。2部が終わった時点で、ボブを中心にバンドメンバーが横一列に整列したのだ。すぐに照明が落とされボブとバンドはステージを去っていった。

アンコールを求める観客の拍手と歓声は高まるばかりだ。しばらくするとボブがステージに戻ってきた。アンコール1曲目はもちろん「見張り塔からずっと」。スチュがアコースティックギターで聞き慣れたリズムを刻む。ボブは1バース目から大胆にメロディを崩して、自由なヴォーカルを聞かせる。観客は大興奮だ。ボブはピアノでも自由なリフを叩きだす。上から下に降りてくる音階のようなピアノのリフに、ヴォーカルも合わせて歌われる。いままでステージ左端でベースを弾いていたトニーがステージセンター近くまで出てきて、ピアノを叩くボブの手の動きに合わせて、バンド全体をコントロールしている。2000回以上ライヴで歌われてきたこの歌に、新しいエネルギーが注入された瞬間だ。もちろん、最後は立ち上がって「どうだ」のポーズを決める。アンコール2曲目は「風に吹かれて」。アップシングを取り入れた今夜のヴォーカルはすばらしい。観客も大歓声を上げる。ボブは、ときに詩の1行を無理矢理1小節に押し込んで歌う。抜群のリズム感を持つボブにしかできない歌い方だ。最後はピアノを離れ、ステージセンターに出てきて、ハーモニカを演奏してすべてを終えた。そして2度目の整列で観客に応えてから、ステージを去っていった。(菅野ヘッケル)



Bob Dylan
April 19, 2014
Zepp Fukuoka


Act 1
1. Things Have Changed (Bob center stage)
(『Wonder Boys"(OST)』 2001/『DYLAN(2007)』他)
2. She Belongs To Me (Bob center stage with harp)
  (『Bringing It All Back Home』 1965)
3. Beyond Here Lies Nothin' (Bob on grand piano)
(『Together Through Life』2009)
4. What Good Am I? (bob center stage)
(『Oh Mercy』1989)
5. Waiting For You (Bob on grand piano)
(『Divine Secrets of the Ya-Ya Sisterhood』)
6. Duquesne Whistle (Bob on grand piano)
(『Tempest』 2012)
7. Pay In Blood (Bob center stage)
(『Tempest』 2012)
8. Tangled Up In Blue (Bob center stage then on grand piano)
(『Blood on the Tracks』1975)
9. Love Sick (Bob on center stage)
(『Time Out of Mind』 1997)

(Intermission)

Act 2
10. High Water (For Charley Patton) (Bob center stage)
(『Love and Theft』2001)
11. Simple Twist Of Fate(Bob center stage with harp)
(『Blood on the Tracks』1975)
12. Early Roman Kings (Bob on grand piano)
(『Tempest』 2012)
13. Huck's Tune (Bob center stage)
(『Lucky You OST』2007&『The Bootleg Series:Tell Tale Signs』)
14. Spirit On The Water (Bob on grand piano)
(『Modern Times』2006)
15. Scarlet Town (Bob center stage)
(『Tempest』 2012)
16. Soon After Midnight (Bob on grand piano)
(『Tempest』 2012)
17. Long And Wasted Years (Bob center stage)
(『Tempest』 2012)

(encore)
18. All Along The Watchtower (Bob on grand piano)
(『John Wesley Harding』1967)
19. Blowin' In The Wind (Bob on grand piano with harp then center stage)
(『The Freewheelin Bob Dylan』1963)

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おまけ付属物の絵柄などこだわりのポイントも。1973年『ディラン』は20年ぶりの日本盤化!初来日公演のライヴ盤1978年『武道館』は初版ポスターやブックレット復刻!


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