ボブ・ディラン名古屋第一夜。4/17Zepp Nagoya公演初日、菅野ヘッケルさんからの第12夜ライヴレポートです!!

名古屋公演、日本公演中もっとも小さい会場、いや世界中で考えてもこんなに小さな会場でやるのは超レア!そんなこともあって海外のディラン・ファンのみなさまが結構お越しになっておりました。どこからもステージから近い!そんな親近感からか、名古屋のファンはラッキー!『モダン・タイムス』からの「Workingman's Blues #2」が日本初登場!最後はファンの方から投げ込まれた花束を受け取って、かかえて去っていきました!

【ボブ・ディラン、2014年4月14日Zepp Sapporo:ツアー11日目ライヴ・レポート】

ボブ・ディラン
2014年4月17日
Zepp Nagoya


ボブは不思議な人だ。今夜はだれも予想しなかった曲を歌ったのだ2006年のアルバム『モダン・タイムズ』の収録曲、「ワーキングマンズ・ブルース#2」を歌った。19曲のほぼ固定リストでおこなわれている今回の日本ツアー、いままでにレアな歌は「ブラインド・ウィリー・マクテル」と「ハックス・テューン」の2曲だけだったが、今夜3曲目のレア曲が登場したというわけだ。Zepp Nagoyaは収容人数が1800人、今回の日本ツアーでもっとも小さなライヴハウスだ。この少人数のファンだけが、生で貴重なボブの1曲を聞くことができた。

午後7時きっかり、場内の明かりが消され、いつものようにスチュがアコースティックギターを弾きながら左手から暗闇のステージセンターに出てきた。やがて右手からバンドメンバー、最後にボブが登場し、それぞれが定位置に着いた。すぐに「シングス・ハヴ・チェンジド」がはじまる。バンドは黒のスーツ、ステージセンターのマイクスタンドの前に立ったボブは、派手な刺繍飾りのついた黒の上下を着用し、帽子はかぶっていない。オープニング曲からボブのヴォーカルは生き生きとしている。自由度の増したフレージング、歌にとけ込んアップシング、ニュアンス豊かに崩した歌い方、今夜はヴォーカルナイトになりそうだ。2日間の休養がボブの声にいい影響を与えたようだ。ビッグエンディングで歌い終わると、2曲目「シー・ビロングズ・トゥ・ミー」に移る。マーチ風にアレンジされたこの歌でも、アップシングを交えて自由に歌う。途中のハーモニカブレークも決まった。今夜のハーモニカは力強い。ボブがピアノに移動して「ビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシン」がはじまる。今夜もボブは座ってピアノを弾いている。ピアノの低音域を中心に、下から上に流れていくリフを繰り返し何度も何度も演奏する。ボブは気に入ったリフを見つけると、それをしつこいくらいに繰り返し演奏する傾向がある。4曲目はステージセンターに移動して「ホワット・グッド・アム・アイ?」。ボブのヴォーカルの低音が艶やかに伸びる。ていねいにことばを伝えるように歌うボブに、親密感を抱いてしまう。

5曲目に異変が起きた。いつもなら優雅なワルツ曲「ウェイティング・フォー・ユー」が歌われるのだが、ボブはステージセンターにとどまったまま、聞き慣れないイントロがはじまる。一瞬とまどったが、すぐに「ワーキングマンズ・ブルース#2」だと判明した。しかも、曲の途中にマイナー調のブレークを入れた新しいアレンジで歌われた。「ワーキングマンズ・ブルース#2」は、2010年のツアーで25回(うち1回は東京)ほど歌われたが、その後は11年に1回、12年は0回、13年に1回(ピアノで歌った)と、ほとんどライヴで歌われなくなった曲だ。レアな曲の登場にファンは熱狂する。観客の興奮が冷める間もなく、ピアノに移動したボブが「デュケーン・ホイッスル」を歌いだす。トニーのスタンドアップベースが機関車のエンジン音のように心地よく響く。ボブもことばをはっきりと歌う。ボブは座っているが、上体をを大きく揺らしてリズムを取り、今にも立ち上がりそうなほどノリノリのピアノ演奏を聞かせる。最後は全員で楽しそうにジャム演奏を繰り広げる。

ボブがステージセンターに移動して「ペイ・イン・ブラッド」を歌う。右手でマイクスタンドをつかみ、左手を腰に当てる得意ポーズで、軽くヘッドバンギングをしながら歌う姿は格好いい。それにしてもボブのヴォーカル・デリヴァリーのすごさに、改めて脱帽させられる。ただただ「すごい」の一言だ。ボブはステージセンターに立ったまま「ブルーにこんがらがって」を歌いだす。ボブのストーリーテラーとしての本領が遺憾なく発揮される歌だ。濁声やアップシングを混ぜながら、自由なフレージングで物語を伝えていくボブを聞いていると、ボブがだれにも真似することができないリズムとタイミングを持ち合わせた達人、ヴォーカリストであることがわかる。最後はピアノに移動して終わる。1部を締めくくるのは「ラヴ・シック」。スチュがエレクトリックギターで歯切れのいいリズムを刻み、チャーリーが不気味さを倍増させるようなリフを加える。ステージセンターのマイクスタンドの前で、ボブは腕をのばしてリズムを取りながら、ポーズを決める。最後は両腕を前方に突き出し、得意の決めポーズを残して1部は終了した。「アリガトウ」と日本語で告げ「すこしいなくなるけど、すぐに戻ってくる」と言い残してステージを去っていった。

(ブレーク)
「東京で見たけど、あまりによかったので、急遽、なんとか都合を付けて名古屋まで見に来た」休憩時間に会った知り合いが話してくれた。おなじような話を、ほかからも聞いた。そう、ボブのパフォーマンスの魅力に取り付かれた人が大勢いる。もちろん全公演を追いかける熱狂的なファンは何人もいるだろう。同時に今回の日本ツアーは熱烈な新しい多くのファンも続々と生み出しているようだ。

午後8時20分、3連チャイムが鳴り、いつものようにスチュのエレクトリックギターのリフで2部がはじまった。まず「ハイ・ウォーター」。ステージセンターのマイクスタンドの前に立ったボブは、右手でスタンドをつかみ、左手を腰に当てたポーズで歌う。危機感が伝わるボブのヴォーカルのバックで、スチュがエレクトリックギターでオープンコードのリズムを刻み、ドニーがバンジョーで洪水が迫ってくる切迫感をかきたてる。チャーリーがブルージーでメロディアスなリフを加える。ストップ&リスタートを組み込んだエンディングが効果的だ。2曲目はハーモニカのイントロで「運命のひとひねり」がはじまる。優しさの極みとでもいうべきボブのヴォーカル、自由なフレージング、効果的なアップシングに引きつけられる。

ボブがピアノに移動して強烈なピアノブルース「アーリー・ローマン・キング」がはじまる。座ってピアノを弾くボブは、1フレーズごとにリズムに合わせて左足を上下させる。時には正面を向いてポーズを決める。若い。格好いい。まさにライヴの醍醐味だ。一転して、ボブがステージセンターに移動して「フォーゲットフル・ハート」がはじまる。この歌はいつ聞いても、何度聞いても感動がこみ上げてくる。トニーの弓で弾くベース、ジョージが素手で叩くコンガ、ドニーのヴァイオリン、スチュのフィンガーピックのようなアコースティックギター、チャーリーの効果的なリフをバックに、ボブはことばを一言一言ていねいに伝わるように歌う。切なさ、悲しさ、寂しさなど、人生をある程度歩んできた男の心情がみごとに伝わる。最近のディラン芸術の極致だと言っても決して過言ではない

次は、ボブがピアノに移動してジャズ風の軽快な「スピリット・オン・ザ・ウォーター」がはじまる。ボブがピアノの低音部を中心に自由なリフを叩きだし、それに呼応してチャーリーがメロディアスなリフを重ねる。まさにジャズだ。ボブはときおり右手1本でピアノを弾きながら、座ったまま体を正面に向けてポーズを決める。続いてステージセンターに移動して「スカーレット・タウン」がはじまる。両足を大きく広げてマイクスタンドの前に立ったボブは、右手でスタンドをつかみ、左手を腰に当てる得意ポーズで、歌う。ぼくはこの歌を聞きながら「ボブはヴォーカルの魔術師」だと思った。ボブの歌の世界に引き込まれたら、そこから抜け出すことはできない。

ボブがピアノに戻って「スーン・アフター・ミッドナイト」がはじまる。今夜もステージ背後の黒幕に星空模様が投影され、ポップスのような甘い調べが流れる。チャーリーも甘い単音のリフを低音部で奏でる。心地いいサウンドに酔いしれるが、最期を迎えつつある男の思いを歌っているのかもしれない。どうだろう? 2部を締めくくる「ロング・アンド・ウェイステッド・イヤーズ」はパワフルなパフォーマンスだ。いままでずっと信じられないほど薄暗い照明のステージが続いていたが、この歌ですこし明るくなる。ようやく遠目からでもボブの表情がすこしわかる程度になった。ブリッジもコーラスもない、短い9小節のメロディを繰り返すだけの単純な構成の歌だが、ボブのパフォーマンス力によって、いまでは1フレーズごとに観客が大歓声で応える代表曲となった。ボブは歌うというよりも、かなり派手に手を動かしながら、吐き出すように、あるいは吠えるようにことばを聞き手にぶつける。もちろん最後はドヤ顔。「どうだ」と決める。

アンコールは不動の2曲。「見張り塔からずっと」と「風に吹かれて」。今夜のボブは自由気まま、フリー度が高い。ヴォーカルに入れ込みながら、ピアノで新しいリフを探し出す。思いついたリフが気に入ると、それをしつこいぐらいに繰り返す。「見張り塔からずっと」の途中、不安さと不気味さを引き出そうとバンドが押さえた演奏から次第に盛り上げて一気に爆発させる箇所で、ボブは自分が弾いているリフに夢中になりすぎたのか、バンドの盛り上がるタイミングとずれそうになった。トニーがあわててボブの近くに移動し、ボブの思いを確かめながらバンドをコントロールしていく。卓越したミュージシャンたちだから、最後はうまくまとめることができた。「風に吹かれて」でもボブの自由奔放なパフォーマンスが続いた。最後はピアノを離れ、ステージセンターに出てきて、ハーモニカの演奏で終えた。別れのあいさつ代わりに整列したボブとバンドメンバーに、今夜も花束が投げ込まれる。ボブは花束を拾い上げ、ポーズを決めて去っていった。(菅野ヘッケル)



Bob Dylan
April 17, 2014
Zepp Nagoya


Act 1
1. Things Have Changed (Bob center stage)
2. She Belongs To Me (Bob center stage with harp)
3. Beyond Here Lies Nothin' (Bob on grand piano)
4. What Good Am I? (Bob center stage)
5. Workingman's Blues #2 (Bob center stage)
6. Duquesne Whistle (Bob on grand piano)
7. Pay In Blood (Bob center stage)
8. Tangled Up In Blue (Bob center stage then on grand piano)
9. Love Sick (Bob on center stage)

(Intermission)

Act 2
10. High Water (For Charley Patton) (Bob center stage)
11. Simple Twist Of Fate(Bob center stage with harp)
12. Early Roman Kings (Bob on grand piano)
13. Forgetful Heart (Bob center stage with harp)
14. Spirit On The Water (Bob on grand piano)
15. Scarlet Town (Bob center stage)
16. Soon After Midnight (Bob on grand piano)
17. Long And Wasted Years (Bob center stage)

(encore)
18. All Along The Watchtower (Bob on grand piano)
19. Blowin' In The Wind (Bob on grand piano with harp then center stage)