恐山を降りて、時間があったら尻屋崎に行って、寒立馬を見に行こうかとも考えたけれど、諦めた。
またの機会にしようと思う。



今晩泊まるのは、下北半島の最北端に近い下風呂温泉郷という小さな温泉街。
恐山から1時間ぐらい走ったと思う。


ここは風間浦村という本州最北端の村だ。
風間浦村のWebサイトにそう書いてある。
大間のほうが北じゃないかと思うけれど、大間は「町」である。
村に限定すると最北端ということになるらしい。
下風呂村、易国間村、蛇浦村の3つが合併して、それぞれの文字をとってこの名前がついている。


ここが今日泊まる、さつき荘という温泉宿だ。
この温泉街は温泉もさることながら、漁村にあるだけあって海の幸をたらふく食べられるということも楽しみにしてきた。

まずは風呂に入る。
ここのお湯は、日によって色が変わるそうで、今日は灰色をしていた。
黒い色の日もあるそうだ。



この下風呂温泉には3つの源泉があり、大湯、新湯、浜湯というのがあるそうで、浜湯を使っているのは、このさつき荘だけだそうだ。正確に言うと、他にもこの源泉を使った旅館があったのだけれど廃業してしまい、今はさつき荘だけになったそうだ。
大湯と新湯は無色透明で、この浜湯だけが濁ったお湯なのだそうだ。

ここの温泉はみな温度が高く、熱い。その中で、さつき荘は「ぬるめ」なのだと女将さんは言っていたが、43度ぐらいの暖まりやすくて入りやすいちょうど良い温度だった。
蛇口にホースがついていたけれど、おそらく熱くなりすぎたときはあのホースでうめるのだと思う。今日はうめる必要はなかった。

口に含むと、だしの味がした。
このお湯、本当にいいお湯だった。
とろみがあって、柔らかくて今回入った中で一番好きなお湯だった。



風呂の後は食事。
噂に聞いていた通り、海の幸がてんこ盛り。
ウミタナゴの南蛮漬け、マスのばっけ味噌(ふきのとうのみそ)、ほやの酢のもの、たことわかめのしゃぶしゃぶ、やりいかの煮つけ、サメの和え物など。
これに寿司が六貫ついた。イカの寿司のおいしかったこと。

これを下北半島の地酒、関の井でいただいた。この関の井、端麗辛口で美味しい酒だったが、流通量が少なく、ほとんどが下北半島で消費されてしまうらしい。

端のほうに少し、ニシンの切り込みがついていた。
女将さんにこれを何と呼んでいるか聞くと、やはりこのあたりでも切り込みと呼んでいるらしい。僕が育ったあたりでも切り込みと呼んでいる。

どちらから伝わったものなのかはわからないけれど、北海道にはニシンを追いかけてヤン衆がたくさん渡ってきたから、青森から伝わったのかも知れないし、北海道からヤン衆たちが持ち帰ったのかも知れない。

女将さんの話を聞くと、このあたりは北海道のテレビが写るそうだ。
だから文化は津軽とは違い、南部の文化+北海道の文化という風土だそうだ。

<DATA>
pH 5.859
成分総計 4.605g/kg
含硫黄-ナトリウム・カルシウム-塩化物泉(低張性弱酸性高温泉)

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ほろ酔いで浴衣に旅館の下駄をはき、タオルを持って出かける。
この下風呂温泉には共同浴場があるのだ。

この下風呂温泉で一番古い大湯はこの日は定休日だったため、もう一つの新湯へ行く。
新湯も大湯も坂の上にある。これは大湯の前から坂を見たところ。


大湯の前を通り過ぎ、山をひとつ乗り越えたところに新湯があった。


店の外の自動販売機で入浴券を買い、番台で渡すシステム。


新湯の浴槽がこれ。洗い場が贅沢にもヒバだ。
新湯も大湯も熱いと、どこのブログを見ても書いてある。

僕は熱い風呂が好きなので、どれほど熱いのか躊躇なく入ってみた。
おお、熱い、熱い。熱くて足はビリビリするけれど飛び上がるほどではない。
漁師が入る温泉はこのぐらいだろうと思う。
うちの田舎の港町に近い風呂も、このぐらいは熱かった。

地元の方が二人入浴していて、知り合いらしく話をしていた。

「今日も朝からパツンコ屋さ行ってら」
「いっつもどごさ行ってら?」
「ィースさ行ってら。マルハンだら年に一回が二回しか行がねんだ。いっつもィースさ。」

ィースは、エースというパチンコ屋のことだろうと思う。

「おおはだもさぐら、さいだってね」(大畑も桜が咲いたってね)
「んだんだ、今日さいだぃんた」
「ひろさぎに娘、嫁さいってらから、毎年ひろさぎささぐら見に行ってらんだけども、こどしは、むすめこっちさ帰って来たから、見らいねがったじゃ」

さつき荘のおかみさんが言っていた通り、このあたりの言葉は津軽の言葉とは違う。
僕にも聞き取ることができた。

さつき荘とはタイプが違うけれども、これもまたいいお湯だった。
下風呂温泉、また来たいとしみじみ思った。
ここは本当にいいところだ。

上がってから飲んだコーヒー牛乳がまた美味しかった。

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今日は4回風呂に入った。