今日の朝刊に、「昨日のテレビ討論で、総選挙の民主党マニフェストでも約束し、新政権が来年度から導入をすることとしている「子ども手当」に関し、その支給について所得制限を付するべきか否かの議論が行われた」ことが報じられていました。「子ども手当」については、高額所得者にも支給をするのか、或いは、その支給の財源をどこから調達するのか等の議論がありますが、今日は、その点について触れてみたいと思います。

 先ず、
「子ども手当」の概要を簡単にご紹介すれば、「0歳から中学卒業するまで、子ども一人当たり毎月2万6千円(年31万2千円)の手当を支給する」というものです。もし、子どもが3人いれば、年間100万円近くの「子ども手当」が支給されることになりますし、子ども3人で15年間にわたって支給されれば約1400万円の「子ども手当」が支給されることになります。

(所得制限の導入)

 子ども手当の支給に所得制限をつけるべきか、との点については、「子ども手当」の支給は、その財源の一部として「扶養所得控除」の所得控除の廃止が提案されていることを併せて考慮すべきと考えます。なお、マニフェストでは「配偶者所得控除」の廃止も提案されていましたが、来年度予算編成では、「配偶者控除」の廃止は見送られそうです。

 つまり、所得控除は、所得税が累進税率制度を採用しているために、所得の多い人ほど税金減額効果が大きいのですが、「子ども手当」は、経済的に見れば、この所得控除を「税額控除」に変えるものなのです(無論、「税額控除」は、税金を支払っている人でしか恩恵に預かれず、税金を払っていない人達にとっては、負の所得税(=給付)になります。)。

 例えば、妻と子どもが二人のいわゆる「標準世帯」を例にとって見ましょう。最高税率(40%)が適用される高額所得者(A)は、所得税における配偶者控除と扶養控除によって45,6万円{(扶養控除38万円×2人+配偶者控除38万円)×40%}の税金減額になっているのに対し、最低税率(10%)しか適用されない低額所得者(B)は、11、4万円しか税金減額になっていません。

 
ABにとって、子ども手当(2人分)が支給されるということは、それぞれ62万4千円の税金が減額されることと同じ経済効果を持つわけですから、所得控除の場合と比較すると、Aには16,8万円の減税、Bには51万円の減税となります。
以上を見れば、「子ども手当」の支給について、あえて所得制限を付する必要があまりないことがお分かりになると思います。

(高校生、大学生、障害者の扶養控除)

 扶養控除の廃止に関しては、「0歳から中学校卒業までの子どもについては『子ども手当』があるからいいけれど、高校生、大学生、障害者、高齢者等、家族で養っていかなければならない人がいる場合、それらの人に対する扶養控除の廃止は問題ではないか。」との指摘があります。

 この点については、これらの人に対する扶養控除の廃止だけを取り出して考えればその通りですが、その他の政策と合わせて考えなければなりません。例えば、高校生については「高校の授業料の実質無料化」の政策、大学生については「奨学金の拡充・充実」の政策があります。障害者や高齢者については福祉政策のあり方とも関連します。関係する政策のあり方と総合的に判断する必要があると思います。

(配偶者控除の廃止)

 ところで、「子ども手当」の財源として、扶養控除の他に配偶者控除を廃止することについては、「扶養控除を廃止するのは良いとしても、配偶者控除を廃止することに筋が通らないのではないか。」という指摘があります。扶養控除については「扶養控除が無くなる代わりに子ども手当が支給される」と考えることができますが、配偶者控除の廃止は、単に増税となるだけだからです。

 確かに、理屈から言えばそうも思えますが、子どもがいる家庭については、「子ども一人の世帯で最高税率(40%)適用所帯」でも、配偶者控除廃止の経済的損失30,4万円{=(扶養控除38万円+配偶者控除38万円)×40%}よりも子ども手当受給の経済的利益(31,2万円)の方が大きいのです。最高税率適用世帯以外の世帯では、当然に、経済的利益の方が大きくなります。

 問題は、子どもがいない世帯については、配偶者控除廃止が丸々税金増になることですが、「0歳から中学校卒業までの子ども」が一人もいない家庭で専業主婦をしている世帯について、配偶者控除を認めてあげる必要性がどれだけあるのかも考えてみるべきではないでしょうか。また、子どもがいない世帯でも、自分達が高齢者になれば若い世代から支援を受ける(年金支給の国庫負担など)ことも併せて考えてみてはどうでしょうか。