本日、長妻・厚生労働大臣は、2007年調査の我が国の「相対的貧困率」が15,7%であったことを発表しました。「相対的貧困率」とは、「国民一人当たりの所得の中間にある人の所得額の半分に満たない人が、全体でどのくらいの割合でいるか」を示したもので、15,7%という割合は、先進国30カ国の中で4番目に高い貧困率になるようです。そして、このような状況になった要因の一つとして、我が国の雇用状況があると言われています。

 そんな中で、今年の年末に向けて、一層雇用状況が悪化することが心配されています。鳩山総理は、昨年の「年越しテント村」が再発しないよう、菅・国家戦略局担当大臣に雇用対策の作成を指示し、23日には、一先ず「緊急雇用対策」を作成することとしました。この「緊急雇用対策」は、時期的に言って、新たな予算措置を伴わないものとなり、いずれ、補正予算や来年度予算で予算措置を伴う本格的な雇用対策が講じられることになります。

 そこで、今日は、現在の我が国の雇用状況について、労働経済ジャーナリストの小林美希さんからお話を伺いましたので、その話を皆さんにご紹介しつつ、雇用対策のあり方について考えてみたいと思います。

 現在の日本では、製造業から医療・福祉分野へ労働人口のシフトが起こっているそうです。医療・福祉分野は、これからの高齢化社会(医療、介護等)や男女共同参画社会(保育等)を考えれば、この分野で働く人への需要は増加していくでしょう。農業も、食料自給率が低水準にあるわが国においては、政策的に労働者を増やしていかなければいけない分野である、と小林さんは考えています。

 先ず、医療や介護の分野では、求人や求職者は増えているそうですが、病院で看護補助員を雇うための看護補助加算や事務補助加算が手薄のため、雇用が増えても非正規職員であって低賃金となっており、仕事を辞める人が後を断たないそうです。また、異業種からの転職も目立っていますが、これらの分野で素人であるため、病院や介護施設での教育費負担が重くなっているだけでなく、仕事でミスを犯す危険もあるそうです。

 従って、適正な賃金確保と教育負担の軽減が、雇用政策として必要な政策になります。小林さんによれば、①診療報酬の看護補助加算の引上げ、②新人教育の負担への補助導入、③(利用者負担の引上げを伴わない)介護報酬の10%程度の引上げ等が必要としています。ただし、これらの施策だけでは医療費などが増加してしまいますから、予防医療や予防介護をセットで対策を打つ必要があるとしています。

 次に、農業の分野では、農業に興味を持っている若者は多いそうですが、賃金が低すぎる(月12万から16万円、時給でも最低賃金)し、農業を教えてくれる人がいないことが難点となっているそうです。そのため、雇用政策としては、スタート時点で副業的に農業を気軽に始められる支援を行ったり、義務教育の中で農業実習を経験させたり、「教える人」への支援を行ったりすることが必要、と小林さんは考えています。

 更に、各地域の中小企業での雇用確保も重要な課題ですが、小林さんは、人材養成や教育が大事であると指摘しています。つまり、現代は、厳しさに耐え抜ける若者が育っていないことが、中小企業における就職の大きな障害となっていると言うのです。富山県立商業高校の「TOMI SHOP」が、社会の厳しさを学び、これによって、離職率が極めて低くなっている好例となっているそうです。

 以上、雇用の現状と対策について触れましたが、私は、「現在の雇用政策を考えるに当たっても、20年から30年後のあるべき日本の社会構造、産業構造、就労構造を描いた上で具体的な雇用政策を考えるべきとの視点を忘れてはならない」と思います。そこで、小林さんに「20年から30年後の社会はどうあるべきと考えていますか。」と尋ねましたが、小林さんは、「絶望しています。家の周りで畑を耕して、自給自足の生活をするだけでいい。」言われました。

 小林さんみたいに考える人がいてもいいとは思いますが、それでは、日本経済が持ちません。何とか、20年から30年後でも持続可能な日本の社会構造、産業構造、就労構造を構築する必要があり、それに応じた雇用政策を今からでも講じていく必要があります。「緊急雇用対策」と言えども、その視点から具体的な施策を講じていくべきであると考えます。