最近、航空自衛隊の田母神(たもがみ)俊雄・幕僚長が、懸賞論文で政府見解に反する論文を投稿したことにより、幕僚長を更迭され、「部付き」空将となったことから定年で退職した、という一連の出来事がありました。この事件については、①政府見解に反する論文を投稿したことに対する処分の問題、②論文投稿のための手続を取らなかった問題、③懸賞論文を主催した者との癒着問題、等々色々な問題が指摘されています。

 これらの色々な問題については彼方此方の報道機関で具体的なことが指摘されていますので、それらの指摘をご覧になって戴きたいと思います。ここでは、田母神空幕長が、空幕長を更迭されて「部付き」空将となったことから、定年退職扱いされ、延いては、自衛隊法に基づく懲戒処分が何にも行われなかったことについて、私が疑問に思っていることを述べてみたいと思います。

 田母神空爆長に対して何らの懲戒処分手続が取られることなく、田母神空爆長が定年退職したことについては、浜田防衛相は、
記者会見で、概要次のように説明しています。即ち、

 「田母神空幕長は、空幕長を更迭されたことにより、空幕長としての62歳定年が適用されなくなり、空将(部付き)としての60歳定年の適用を受けることとなった。田母神空将については、60歳定年の延長期限は残り1ヶ月しかないため、仮に懲戒処分をしようとするとその手続期間(約10ヶ月)が足りなくなる虞がある。そうなった場合には、何らの懲戒処分をすることもできずに在職期間中の給与を支払うことになってしまうことから、この時点で定年退職とした。」

 しかしながら、浜田防衛相の説明に不自然さを感じるのは私だけではないと思います。浜田防衛相の説明をそのまま聞き入れるとすれば、本来懲戒処分に付すべき自衛官が何らの処分を受けずに定年退職してしまう事態を認めてしまうことになるからです。「
懲戒処分を完了する前に定年に達してしまうから」という理由で、懲戒処分の手続を採ることを見送って定年退職した事例は、今まであったのでしょうか。甚だ疑問です。

 このような問題が生じてしまうのは、定年延長に関する規定の解釈に問題があるからだと、私は考えています。そこで、定年延長に関する規定をご紹介しますと、「定年に達した日の翌日に退職する」(自衛隊法第45条第1項)が、「自衛隊の任務の運行に重大な支障を及ぼすと認めるときは、・・6月以内の期間を限り、・・引き続いて自衛官として勤務させることができる」(同条第3項)となっています。
 
 この規定に基づいて、防衛省は、「田母神空幕長は、5ヶ月前に空将の定年である60歳になっており、空幕長を更迭されたら、既に定年に達した人として、定年延長は60歳になった日(定年に達した日)から6ヶ月までしか認められない。従って、定年延長期間として認められるのは、残り1ヶ月しかないのだ。」と解釈した上で、定年退職を認容する運用をしたと思われます。

 しかし、このような解釈をしてしまうと、「自衛隊の任務の運行に重大な支障を及ぼす」ことを避けるために設けられた定年延長の規定(自衛隊法第45条第3項)が生かされない事態が発生する虞があると思います。定年延長の規定が設けられた趣旨を考えると、田母神空将が「定年に達した日」は、「62歳定年である空幕長から60歳定年である部付き空将に更迭された日」であると解すべきだと思います。

 従って、田母神空将の定年を「空幕長から更迭された日」から6月以内で延長し、その延長された期間を利用して、田母神空将に対する懲戒処分の手続を進めるべきであったと考えます。防衛省がそうしなかったのは、
結局、懲戒処分の対象となった空幕長を任命した防衛大臣、総理大臣の任命責任の追求を逃れるために定年退職としたのではないかと考えるのは、私だけではないと思います。