「保険はギャンブル」という愚考 | 池上秀司のブログ

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自称保険コンサルタントの後田亨さんという似非専門家がメディアでもてはやされるようになり「保険はギャンブル」という感じの論調を散見するようになりました。最近目にする機会の増えた「ガンは放っておけ(治療は不要)」という近藤医師などのような後田さんと似た論調はメディアに重宝され、「保険会社にだまされる」「医療に殺される」となります。

今回はその「保険はギャンブル論」について、長くなりますが図を交えて考えていきたいと思います。まずはギャンブルですから競馬で考えてみます。



馬券を購入して、当たれば購入した額を差し引いた金額が利益になります。当たらなければ、購入金額分は損をするということになります。その損失を被る確率が高いか、低いかを考えますが、多くのギャンブルでは損失を被る確率が高いので「リスクが高い=ギャンブル」という感じでしょうか。

では、競馬の話を保険に当てはめるとどうなるでしょうか。

保険事故が発生し、保険金(給付金)を受け取ります。それまで支払った保険料以上は利益となり、保険事故が発生しなければ、保険料分は損をするということになります。保険事故は頻繁に発生しませんから、「損をする可能性が高い=リスクが高い」という感じですね。



しかし、ギャンブルと保険には決定的な違いがあります。それは何でしょうか?ギャンブルにはなくて保険にはあるものを考えてみてください。それは「保険事故による経済的損失」であり、これこそが「リスク」です。「保険がギャンブル論」は保険料の支払いを損失と考えており、「保険事故による経済的損失(リスク)」を軽視(無視)しているといえるでしょう。



「保険事故による経済的損失(リスク)を測り、預貯金、公的保障、そして民間保険をどう組み合わせて考えるか」がリスクマネジメントです。確率で考えて保険が不要と切り捨てられるなら、自動車保険も同じです。それこそ任意保険に入ってトクする人はいません。彼らの論調通りに考えるならば、「自動車保険はギャンブルだから入らない方がいい」という結論になりかねません。確率だけで保険を考えられないということは、このことからもお分かりいただけるでしょう。

とはいえ、万一があったら、仕事ができなくなったら、入院したらなどなど、保険事故を考え始めたらキリがありません。「ガン」という病気に関しても「積極的な治療は望まない」という方もいらっしゃれば、「最先端の医療を受けたい」というご希望があるかもしれません。前者であれば「保険は要らない」という結論になるかもしれませんし、後者であれば「先進医療特約のついた医療保険やガン保険に入っておきましょう」ということになるかもしれません。

ですから、その人それぞれの考え方をまとめ、その対策をどう取るかを考えることが大切であり、そのお手伝いをするのが私達FPの役割ではないでしょうか。あってはならないことですが、一家の大黒柱に万一があったら「いくらがいつまで必要か、それはどうやって賄うか」、その結果、生命保険が必要となれば「保険種類、保険金額、保険期間、払込期間」といった要素の組み合わせを考えていく訳です。

もちろん、その際に「確率」を検討事項に入れることも大切な要素の一つであることは間違いないでしょう。しかし、小さなお子さんがいらっしゃれば確率が低いことはわかっていても、保護者の方に万一があった場合を考えて保険に加入することは十分考えられます。この場合も、確率よりも損害の大きさを優先しています。ですから「ケースバイケース」「人それぞれ」な訳です。人それぞれなのですから「保険は要らない」という生き方も尊重されるべきでしょう(それ自体は「それを他人にも当てはめること」とは別です)。

私達は日常的に「保険を掛けて」という言葉を使います。「電車が遅れたりするかもしれないから、保険を掛けて待ち合わせ場所に10分前に着くようにしよう」「セミナー参加者は30名だけど、当日参加もあるかもしれないから保険を掛けて2、3部資料を多めに用意しよう」というような感じでしょうか。

待ち合わせ時間に2時間前に行くのは大変ですが、10分前が許容できるならば、電車が遅れず10分前に着いても「損をした」とはならないですよね。結局セミナー参加者が30名だったとして、予備が30部ならば話は別ですが、2、3部ならばよくあることですよね。保険とはそういうものではないでしょうか。

ですから、「待ち合わせ場所に何分前に着くか、どうやってそこまで行くか」「資料の予備は何部用意するか」これと同じ作業を保険商品に関してもやる訳です。もちろん、「待ち合わせ時間ピッタリに行く」という方はそうすればいいでしょう。だからといって、10分前に着く方を卑下することもないですよね。遅れなければいいだけなので、人それぞれな訳です。



では、「保険料の支払い」とは何でしょうか?これは損失ではなく、保険事故が発生した際の経済的損失を補う(リスクを回避する)ための「費用(コスト)」です。保険におけるコストとは、保険会社の経費でも、保険代理店の手数料でもありません。「保険料そのもの」です。「保険はギャンブル論」は、損失と費用を混同しています。



とはいえ、コストの負担にも限界がありますから、対策すべき保険事故の優先順位や妥当な保険金額、保険期間などの組み合わせを合理的かつ経済的に考える必要があるでしょう。「万一のとき、1億円までは要らないだろう」とか「保険料の負担が多くなりすぎるから、この特約には目をつぶろう」といった場面が想定されます。

「保険は要らない」という確固たる意思のある方は、お金を払って私に保険の相談をしようとは思いません(下世話な話ですが、私にとっては商売にならないマーケット)。ですから、私が考えるべきは「保険が必要」という方に、どういったお手伝いをするかです。そういった方達にまでろくに話も聞かずに「保険は不要」といい放つのはただの無責任です。

以上から「保険はギャンブル論」 とはリスクを見誤っている愚考であり、こんなものを広めることに躍起になっても、実際の契約傾向から考えれば評価されていないことも明白です。こんなものにしがみついている人間も、それをもてはやす人間も、いい加減に本当に困った人達の役には立っていないということを自覚するべきではないでしょうか(しているのかも知れませんが)。