「頭金は2割必要です」という誤解 | 池上秀司のブログ

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ファイナンシャルプランニングに関することを中心に、好き勝手に書きます。

住宅購入の際、話題になるのものの一つが「頭金」です。

頭金は物件価格の2割、できれば3割必要です

といった言葉をよく目にします。前回の「高金利期は短期固定、低金利期は長期固定」と同様神格化されている感がありますが、これは今のような低金利の時代は意識する必要がなくなりました

なぜ、「頭金は2割必要」ということがいわれるようになったのか、住宅ローンの歴史・変遷から考えてみます。バブル期と現在では住宅ローン事情(市場)は異なっていて、バブル期に住宅購入をする場合は「住宅金融公庫(現・住宅金融支援機構)」から資金調達をするのが主流でした。先日、1996年頃の住宅ローンの解説本を手に入れたのですが、それには以下のように記載してあります。

住宅ローン利用を考える場合、まずまっさきに検討したいのが公的ローンです。
公的ローンは金利も低く、長期の返済が可能なので月々の負担も少なくてすみ、利用者にとっては非常に有利なローンです。

前回のエントリーに金利推移を記載しています。バブル当時民間金融機関は変動金利しか扱っておらず、著しく金利が高かったのですから公庫を中心に考えるのは賢明です。そして、その住宅金融公庫で借り入れる場合に考えなくてはいけなかったのが「融資金額は物件価格の8割まで」というもの。

公庫中心で資金計画を立てる ⇒ 公庫からは8割までしか借りられない ⇒ 必然的に頭金は2割必要

こういうことになります。ですから、頭金が2割必要だったのです。当時は頭金を計画的に貯めるため頭金用の貯蓄商品があり、公庫の融資を有利にするためにもそれらを利用していました。最近ではまったく目にしなくなった「つみたてくん」というのはその代表といえるでしょう。他にも「住宅積立郵便貯金」を利用すると「275万円まで公庫の割増融資が受けられる」といったこともありました。これらは古いFP試験のテキストにも書いてあり、少し懐かしい感じがします。

他にも「月々の返済額の5倍以上の月収が必要」といった基準もありました。月々10万円の返済をするには月収50万以上が必要だったということ。今とはまったく異なります。では、なぜ今とこんなに異なるのでしょうか。それは「金利水準」が違うからです。参考までにバブル期(金利5%)と現在(金利2.5%)で月10万円(35年返済・総返済額4,200万円)で調達できる資金を比較してみました(下表参照)。



同じ返済額なのに、借入できる金額は800万円も違います。

貸す側から考えると、毎月の返済額は同じでも回収できる資金が違います。1回目の返済の利息と元金を比較してみましたが(下表参照)、同じ10万円でも大きく異なります。5%の方は10万円の返済額に対し初回の元金充当額はたった17,436円です。もしお客様が返済できなくなってしまった場合、貸した側はできるだけ損をしたくありません。同じ10万円でも元金返済が少ない(資金回収が遅い)ので、担保評価を厳しくみます。つまり、貸し出す金額を少なく(頭金を多く払う)してそのリスクを軽減するということ。こういった担保評価の観点から当時は頭金が2割必要だったといえるでしょう。



しかし、今は金利が大幅に下がり、公的融資よりも民間の金融機関の方が低金利なのですから、今の時代に適応した考え方で資金計画を立てればいいと思います。少なくとも多くのFPがいっている「その後の返済がラクになるから」といった話は、住宅ローンの歴史・変遷から考えると根拠に乏しい観念的な概念であるといえます。ましてや「頭金がなくても買えるというのは業者が売りたいがためのセールストーク」などと住宅販売の方達を蔑むようなのは同業者として軽蔑するレベルです。

1億円の物件を買おうと思った場合、年収500万円の方は頭金が5割あっても買えませんが、年収1,500万円の方は頭金が1割でも買えます。年収500万円の方が4,000万円の物件を頭金2割で購入すると借入額は3,200万円。頭金なしでも物件価格が3,000万円ならば借入額は3,000万円。月々の負担が少ないのは頭金なしの方です。このことからも「頭金〇割」は今の時代は大した意味がなく、シンプルに「購入する物件がいくらで、それが資金調達可能か?」を考えてみてください。

住宅購入資金相談会では「父が年収の5倍位までが借り入れの上限だといったのですが…」というご相談は一定量あります。この場合、お父様のおっしゃっていることも正しく、お父様がご購入された当時は金利が高かったというのが起因しています。しかし、当時よりも金利が大幅に下がったのでもっと多くの額を借りても月々の負担は大きくなりません。35年返済が可能な年代(44歳以下)の方であれば、厳密な審査では増減がありますが、税込年収の6.5倍を借入額の一つの目安としてみてください。(この段落をわかりやすくするために修正しました)

頭金を貯めるというのは借入額が少なくできるというプラスがありますが、反面「ローンの開始(終了)が遅くなる」「その間家賃を負担する」というマイナスがあります。私がご相談を受けてきた中で、生涯生活設計を考えた場合「ローンが早く終わる」ということは将来非常にプラスになるということを実感しているので(キャッシュフロー表を作れば明らか)、現在ご購入を検討されていらっしゃる方達は時代遅れの概念に囚われることなくどんどん前向きに進んでいただいていただければと思います。