自分のアタマで考えるべきは本人 | 池上秀司のブログ

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ファイナンシャルプランニングに関することを中心に、好き勝手に書きます。

「ちきりん」というよくわからない人がいます。本人は「社会派おちゃらけブロガー」を名乗っていますが、私からすればブログのページビューを稼ぐためだけに特異なことをいい続ける哀れなブロガーにしか見えません。先日教育論について訳のわからない価値観の押し付けをしていたのですが、その中に住宅ローンに関する記述があったので、今日はそれについて書いておきます。

下から7割の人のための理科&算数教育

残りの 7割の人には、今教えられてる内容に替えて(=その時間を使って)「生活するために必要な科学知識」を教えてほしいです。

たとえば、算数の時間には、
・リボ払いを選んだ場合の利子の額
・大半の人が選んでしまう住宅ローンの“元利均等払い”の恐ろしさ
とかを(台形の面積の計算方法や、ルート2=?とかを暗記させる代わりに)教えてほしいし、

元利均等返済が恐ろしい(ということは、元金均等返済の方がいい)とのことですが、いったいどこのなにが恐ろしいかが書かれていません。無根拠に不安を煽る時点で無責任だと思います。恐らく単純計算による「総返済額の多さ」を気にしているのだと思いますが、それすらないのでツッコミようもないのですが、そもそも元利均等返済は多くの方が利用できているのですから恐ろしくもなんともありません

では、デフォルト(返済不能による破綻)という面から見てみます。以下は日銀の論文の抜粋です。

住宅ローンのリスク管理 ~金融機関におけるリスク管理手法の現状~

一般に住宅ローンのデフォルト率は、融資実行当初は低く、その後一定期間に亘って上昇し続けた後、再度低下すると言われている。融資実行後の経過年数とデフォルト率との間にこのような関係が生じる理由としては、①ローン実行時には長期的返済計画が組まれているため、外部環境がほとんど変化していない当初段階では、返済が円滑に行われている可能性が高いことに加え、当初は住宅を購入したばかりであり、債務者の返済意欲も高い、②その後、数年間を経ると返済計画の前提に変化が生じ、無理をして借入を行った債務者のデフォルトリスクが徐々に具現化する、③10 年程度を過ぎると、信用力が相応に高い債務者がポートフォリオに多く残存していることに加え、ローン元本の弁済が進んでおり、債務者のローン完済意欲が増すことから、デフォルト率は徐々に低下するといった事情が指摘されている。

■融資後経過年数とデフォルト率


住宅ローンを支払えなくなる方というのは当初10年にかけて上昇し、その後低下するということがわかります。

では次に、元利均等返済と元金均等返済の返済額の推移を見てみます。3,000万円・2.5%・35年返済で返済額を比較したグラフを作成しました。



元金均等返済の返済額が元利金均等返済の返済額を下回るのは181ヶ月目(16年目)です。この2つをまとめてみると、

・デフォルトリスクは当初10年上昇し、その後低下する
・元金均等返済の月々の返済額は、当初15年間元利均等返済を上回る

となるので、返済不能によりローン破綻のリスクが高いのは明らかにちきりんお勧めの「元金均等返済」です。ですから、元利均等返済は恐ろしくもなんともありません。

次に、総返済額という観点で見てみます。一般論として「元金均等返済がトク」といわれているのは「借入額・金利・返済年数」を同条件にした場合の比較です。この条件で比較をすれば、元金均等返済の方が総返済額が少ないのですが、なぜかというと「1回目の返済額」が異なるからです。そして、その原因(?)は元利均等返済の元金部分であることが以下の利息・元金の内訳を見ればわかります(3,000万円・2.5%・35年返済)。



元金返済が少ないのですから、総返済額が多くなるのは当然のことですね。しかし、返済プランというのは自由に考えられるのですから、ここで思考停止をしないで「1回目の返済額を同額にしたらどうなるか」を考えてはいかがでしょうか。そうすると返済月数が異なり、以下のようになります(3,000万円・2.5%)。



元利均等返済は約25年で返済が終わり、総返済額も元利均等返済の方が少ないことがわかります。元金均等返済は毎月返済額が下がるといいますが、このケースで毎月下がる額はたった149円です。大人であれば1回も地下鉄に乗れない金額しか下がりません。ちなみに、「毎月いくら下がるか?」の計算は簡単で1回目の利息を返済回数で割るだけです(3,000万円×2.5%÷12÷420≒149円)。

ですから、「毎月の返済額は元金均等返済で大丈夫だけど、149円しか減らないのか…」と思われる方はわざわざ返済額を下げて長期間返済をする元金返済返済ではなく、元利均等返済を選んで返済年数を短くしてもいいのではないでしょうか。毎月149円を下げることを優先するか、返済額は下がらないけれども返済年数を約10年短くすることを優先するかは、各自がお好きな方を選べばいいだけの話です(しかし、私のお客様でこの話をして元金均等返済を選んだお客様は一人もいません)。

それこそ、元利均等返済の30年返済でもいいでしょう。そうすると、毎月の返済額は118,536円。元金均等返済・35年の返済額がこの118,536円を下回るのは105ヶ月目です。それまでの返済額は元金均等返済の方が多いのですから、当初10年間の総返済額が少ないのはちきりんが恐ろしいといっている元利均等返済です。この方法なら、元利均等返済の総返済額は元金均等返済よりも約50万円少なて済みます。当初10年の返済不能という事態から遠く、総返済額が少なく、返済が5年早く終わるのが元利均等・30年返済です(下図参照)。



このように元利均等返済は恐ろしい返済方法ではありません。ちきりんのような無根拠かつ薄っぺらな知識の人間がこちらの世界に土足で上がり込み、消費者に無用な不安を煽るなら私は黙っていませんし、そんな不勉強な人間が偉そうに教育を語るのは社会にとって迷惑です。彼女の著書に「自分のアタマで考えよう」というタイトルの本がありますが、自分のアタマで考えるべきはちきりん本人です

ちなみに、ライフネット生命とちきりんは仲良しですが、類は友を呼んでいるのでしょう。まぁ、自分のアタマで考えられる人はライフネット生命には加入しないと思います。

そんじゃーね