おかしな記事の確認 | 池上秀司のブログ

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ファイナンシャルプランニングに関することを中心に、好き勝手に書きます。

さて、誠ブログで住宅ローン金利について再確認しましたが、この機会に気になった記述をピックアップしておきます。数年後検証すると面白いかもしれません。パッと目に入ったものだけですが、どこがおかしいかと一緒に列挙しておきます。


■雑な記述

住宅ローン「変動」から「固定」に借り換えるタイミングは?
「長期金利上昇後に変動金利も上がります」


それは当たり前。問題の本質は「いつ、どの程度上がるのか?」。「1年後に2%」「3年後に0.2%」も同じ「金利が上がる」ですが、その影響は全く違います。そういった点が欠落しており非常に稚拙。


■返済額変更ルールの理解不足

【アベノミクスはサラリーマンの敵だ】地獄を見るのは変動金利の住宅ローンだ

「変動金利で住宅ローンを組んでいる人はもともと、月々の支払いに余裕がない。そこに金利上昇が重なれば、返済ができなくなります。日本でもサブプライムローン破綻のようなことが起こるのです」


サブプライムローンは「金利上昇→返済額上昇→破綻」でしたが、日本のほとんどの変動金利型住宅ローンの返済額は5年間一定です。5年後の返済額変更においても、それまでの返済額の1.25倍までという規程なので、金利上昇が返済額に与える影響は限定的であり破綻に直結していません。基本的な商品概要の理解が不足しています。


そもそも上記記事には「余裕がない」という根拠がありません。変動金利で余裕がなければそれより高い固定金利なら即破綻。問題の本質は借入額なのに変動金利の問題にスリ替えられています。


ちなみに、この記事に携わっている山田和弘さんという方は以前私が指摘をした八ツ井慶子さん と同じく「家計の見直し相談センター 」という会社所属。そこのトップは藤川太さんというメディアにはよく登場する人。この藤川さんは10年前から「金利上昇」を煽って固定金利に誘導 してきた第一人者(近日中に最近の女性週刊誌に載っていた藤川さんのトンデモ記事を紹介します)。揃いも揃って不適切なコメントのオンパレードです。


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上記のコラムでは最後に調子に乗った編集が「専門家の間では変動金利が3、4%になるとみられている。やっぱり、アベノミクスで庶民にいいことはひとつもない。」と書いていますが、これはどこの専門家でしょうか?(笑) 今すぐ3%、4%には100%ならないし、変動金利(短期金利)が上がる=景気回復なんだからアベノミクス大成功ということ。景気回復しないのに変動金利が上がると思うような輩が専門家ならこの世の終わりです。


■日銀法と日銀の金融政策に対する理解不足

どうなる? 住宅ローン金利 ~借り換えと新規購入の両方に言える事~
「インフレ率が2%になるまで日銀は短期金利を上げない。だから変動金利もそんなに簡単に上がらない」と中途半端に知識がある人ほど誤解しているようだが、そうならない可能性は十分ある。政策は一度決まっても変更はいくらでもありうるので、注意が必要だ。」


金融政策変更の可能性はゼロではありませんが、国民が困窮するような(変動金利が急騰するような)金融政策は日銀法で制限されているので採用されるとは常識では考えられません。その点を誤解しています。なにより「そうならない可能性は十分ある」と書いている割にはその可能性が一切記載されていないので説得力がありません


また「固定金利を選ぶことが正しい」といっていますが、変動金利よりも高い固定金利を選んだ場合の「利息・元金・残高」が記載されていません。ですので、返済額を上げ、利息負担を多くする返済のどこが「正しい」のか、それについての数値的根拠がありません。


なにが正解かはFPが事前に断定するものではなく借主の考え方によって決まるもの。文章は長いのですが核心に触れておらず、他人を「中途半端な知識」と揶揄している本人の知識と常識が中途半端以下に思えます。


金利が上がると、変動金利の住宅ローンはどうなるの?
「借りてすぐに2%になると」


「変動金利が1%上がる」とは「日銀が政策金利を1%上げる」ということ。政策金利はサブプライムローン問題発生前でも今より0.4%しか高くありません。今の日本で「1%上がると」と平然といってのける人間が経済ジャーナリストを名乗るのは肩書き詐称。「経済の専門家」として扱うのは、「卵かけご飯」や「どん兵衛」程度作れない私が「料理人」を名乗るのと同じ。


変動金利のリスクを知ろう

未払い利息について言及しています。多くの変動金利型住宅ローンが「未払利息」が出るしくみになっていることは間違いありませんが、出るかどうかは別の話です。「日銀がそんな金融政策を取るのか?」まで考える必要があります。「物価と金融の安定」を司る日銀の金融政策の影響を受ける変動金利が、今現在そんな状況に簡単になるとは考えにくいのですから、


未払利息が出ることを前提に物事を考える=可能性の低い方を優先する=一か八かに賭ける


となるので、これもリスクの「有無」しか見ておらず「高低」を無視したリスクの高い選択といえます。ここまで記載しなければなんの意味もありません。


■番外編
固定金利への借り換え、「今でしょ」「まだでしょ」、あなたはどっち?


的外れも甚だしく、読んでいるコチラが恥ずかしくなる記事。「バブル時代の変動金利は8%」とありますが、その頃の住宅ローン事情は今と大きく異なるので「江戸時代はちょんまげを結っていました」というのと同じ位、現代には意味のない記述。バブル期は住宅金融公庫メインで借り入れていたし、当時その頃の変動金利は「長期プライムレート連動」だが今は「短期プライムレート連動」が多数。


いかがでしたでしょうか。どれもこれも基本的なことに対する理解不足といえますが、こんな情報ばかりが世間に氾濫しているのですから恐ろしい限りです。一日も早く、こういう状況が改善されることを願ってやみません。最後に、議論するべきなのに伝えられなかったことを記載して今回の〆にします。


■変動金利の金利変更ルール
「固定にしましょう!」みたいな空気を感じましたが、仮に5月に短期金利が上昇してもそれは10月1日の金利見直しに影響が出て来年1月返済分から反映されるので、今年の返済には影響がありません。しかも上昇したのは変動金利に直接影響を与えない長期国債の利回り。特にこの点をまったく目にしませんでした。これは金利に右往左往しているだけで基本的な商品知識の欠如を証明しています。


ちなみに、来年の1月から6月の返済は今年の10月1日時点の金利を使います。それまで日銀の金融政策決定会合はあと3回。その間に物価上昇率2%が達成し政策金利が上がるとは到底考えられないので、1年後の変動金利も今と変わらないと考えるのが妥当な判断といえるでしょう。


■固定にした場合の利息負担
金利を上げるのだから返済額が上昇するのは誰でもわかります。それよりも気にするべきは返済額が上昇するのに、元金返済が減り利息負担が増えるということ。この点を伝えない(知らない)FPばかりなのは大問題。これは「変動金利で将来金利上がった状態に、わざわざ残高の多い時期に自分からする自爆行為」です。金利だけにバカ騒ぎして「利息・元金・残高」が欠落するFPには近寄らないことをお勧めします。時間の無駄です。