どこがおかしいか | 池上秀司のブログ

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ファイナンシャルプランニングに関することを中心に、好き勝手に書きます。

さて、日経マネーで同じページに私と深田晶恵さんのコメントと写真が載るという画期的な事が起こりました。私も深田さんも「プロ」と称されていますが、深田さんの解説はプロとは思えないところがあります。「変動金利は危険だ」しかいえない人に共通していますが、非常に基本的なことです。


深田さんは以下のような図を用いて変動金利と10年固定を組み合わせて返済する「ミックスプラン」という返済方法を推奨していますが、図が適切ではありません。


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まず、44ページに借入から5年経過した人が借り換えしたらどうなるかという試算が載っていますが、当然、今回の記事は借入からその程度の期間が経過した方達を対象としています。ですから、主となるのは30代後半や40代の方達でしょう。44ページの試算では残りの返済年数は30年、その時点の残高も2,700万円程度。ですから、借り換えが有効だということです。


ここから問題点を抽出します。非常に基本的なことですが、10年固定は借入から10年経ったらどうなるでしょうか?






変動金利になります。10年固定というのは「変動金利で借り入れして、特約で10年間金利を固定している」ということです。10年後は自動的に変動金利に切り替わりますが、お客様がお申し出をすることによって、再度その金融機関で扱っている固定金利特約(3年、5年、10年など)を指定することが可能になります。自動的に10年固定を更新していく訳でもありません。


深田さんは本文で「変動金利適用分を60歳まで返済できれば」としていますが、それならば60歳以降も10年固定金利特約期間である必要があります。すなわち、彼女のアドバイスは50代中盤から後半の方を対象とせざるを得ません。40代、30代の方は60歳手前で全額変動金利が適用されています。

しかも、上記の図は10年の固定期間だけで終わっていますから、残りの返済年数が10年である必要があります。借り換えを検討するべき対象者に合っていません。ですから、正しい図は以下の様になります。


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「全額変動金利は危険だ」といいますが、彼女のアドバイスでは10年経ったら全額がその危険な変動金利です。変動金利は固定金利に変更できますが、別のところで深田さんは「変動金利から固定へ変更は実質的には無理」とまで断言しています。つまり、自分で自分が危険だといった方向に誘導していることに気がついていませんし、なにより、10年固定は10年で固定金利特約が終わるというごくごく基本的な事柄が明らかに抜け落ちています。恐らく彼女は借り換えの実務をやったこともなければ、あの金利プランで実行したこともないでしょう。日常的に実務をやっていたら絶対に気がつきます。


記事には「金利はなにが起きてもおかしくないので全額変動は薦めない」と書いてありますが、それが通用するのは10年間だけです。それこそ、自分の主張通りに11年目以降にそのなにかが起こったらどうするのでしょうか?当初の10年しか考えていない、もしくは金利固定期間が10年を超えても続くと誤解を与える、とてつもなく無責任な発言だと思います。

ちなみに、この点について私は3年前にブログに書いています
が、この記事はYahoo!googleで「変動金利」で検索すると未だに10番以内に出てきます。ちょっと情報収集すれば一般の方でもわかる(入手可能な)情報です。


さらに、深田さんはじめ多くのFP60歳で払い終えろというようなことをいいますが、住宅ローンが支払えなくなる確率(デフォルト率)というのは、借入から10年程度は右肩上がりですが、その後ずっと低下していくというのが実態です(これは後日解説します)。ですから、60歳以降支払えなくなる確率というのは時間が経過とともに下がっていっています。


今回の日経マネーは「老後難民」なんて言葉使って別のページには60歳以降も支払いが残るのは何%とか残高はいくらなんて記述もしていますが、それ以降ローンが支払えなく確率は下がっています。なにより、それが危険なら賃貸住まいの方達も危険なはずです。しかし、それについては誰もが指摘しないということから考えても、彼らの主張は冷静でも公平でもなく不用意なだけです。本当に人の役に立ちたければ、賃貸住まいの方のライフプランについても語るべきです(絶対にやりゃしない)。

また、「金利は将来なにがあるかわかりません」とありますが、それは金利に限ったことではない当たり前のことです。「なにがあるかわからない」とは「道路を歩いていても鉄骨が落ちてくるかもしれないし通り魔に襲われるかもしれない」「飛行機に乗ったら墜落するかもしれない」「車に乗ったら正面衝突するかもしれない」といっているのと同じです。将来なにがあるかわからないから頭を使って考える訳ですが、彼女は考えることを放棄しています。それがプロでしょうか?私個人の価値観ですが、プロとは睡眠時間が減ろうが、白髪が増えようがお客様のために必死に考える人間のことをいうと思っています。

変動金利は日銀の金融政策における無担保コールレート・オーバーナイト物に連動しています。ですから、日銀の金融政策を見ておけばいいのです。つい先月大型の金融緩和を発表 したばかりです。それは来年末まで実施予定です。さらなる追加緩和策まで取りざたされています。日銀の金融政策決定会合は4月と10月は月2回、それ以外の月はほぼ1回ですし、来年6月まではその日程も決まっています

本文には「金利動向に常に気を配っておこう」と書いてありますが、そんなことは不要です。「低金利政策をしばらく続ける」と日銀が宣言している訳ですし、「金利が上がるか?」なんて普通に生活していれば誰でも耳に入る情報です。「変動金利は危険です」なんていう人間はほとんどが「日々のチェックを」なんていいますが、そういう本人がいかに本質を理解していないか、こういうところからもわかります。

2年後、3年後はわからない」といったところで、日銀が金融調節を行う際は「 物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。」と日銀法 (第一章第二条)に規定されています。いきなり明日から1%上がるとか、23倍になるというものでもありません。常識で考えれば、景気が回復しないのに利上げするとは思えませんし、国民の住宅ローンの破綻者が続出するような金融政策を行えば日本の金融システムが崩壊します。そんな策を日銀が選ぶとは思えませんし、それは日銀が不法行為を行うともいえます。日本中で日銀相手の裁判が続出する事態です。そんなことを前提に物事考えたらそっちの方が危険です。

それに金利が上がってもほとんど場合、変動金利型住宅ローンの返済額は5年間一定ですし、5年後上昇したとしてもそれまでの返済額の1.25倍までとなっています。「破綻」とは返済が滞ることをいいますが、その予防策は講じられています。


深田さんの理屈とは「よくわからないけどとにかく危険」です。要は「あるかどうかわからない将来の金利急上昇を前提にして、わざわざ余計な利息を払う」ということ。私はその方がとんでもないリスクだと思っています。ですから、長期固定こそギャンブル なのです。


それは今回の取材で誌面の都合で記載できなかった「5年前に変動金利で借り入れした人の例」で証明しています。5年前に変動金利で借り入れした方は、その後金利が0.4%下がっています。金利が下がっても返済額は5年間一定ですから当初の予定よりも元金が減っています。5年後の返済額の見直しでは返済額が下がります。これが事実です。

彼女は5年前(というよりずっと)「変動金利は危険だ」と叫んできましたが、この事実を目の当たりにして果たしてそれが正しかったといえるのでしょうか。自分の失敗、弱点を隠蔽し続けながらこれからも「先生面」していくのでしょうか。「なにが起こるかわからない」ということは、金利が下がることもあるかもしれない訳です。同じことをいい続けていないで10回に1回でも事実を伝えたらどうでしょうか。「なにが起こるかわからない」といいつつ、金利が下がった事実を伝えないのは「金利が上がる」と断言しているのと同じ。明らかに不適切です。

今日はここで終わりにしますが、まだおかしいところはあります。ミックスプランについての解釈を次回にします。というか、こんなにボロクソ書いたら次から取材は来ないでしょう(笑)