セパンサーキットからホテルに戻り、暇つぶし(笑)にツィッター(http://twitter.com/hideakimachida)を覗いてみると、昨日、自分の書いたコメントに対してご質問を頂いていました。


日本は中流といわれる層からレースが出来るからでしょうか??そこからが間違いなのでしょうか??今後の日本のレース界について、@hideakimachidaさんに聞きたいです!!

昨日、つい本音で「アジアでレース活動をしていると、ジャパンマネーどころか、日本がイチバン貧乏のような気がします」というような主旨のことをつぶやいてしまったからです。

そのコメントを頂いた方のプロフィールをみると、モータースポーツを生業としていらっしゃるようなので、あまり日本のモータースポーツに否定的なコメントをするのは忍びないのですが、商用原稿ではないし(笑)、自分なりの考えを書いてみようと思います。



まず、もともとのコメントの主旨は、「世界は広い」と言いたかったんですね。
140字のツィッターでは書き切れなかったのですが、僕がアジアでレース活動をするようになって、つくづく世界は広いと思っているわけです。

アジアF3選手権に参戦していた時、仲良くなったチャンピオンドライバーに、「ところで仕事は何しているの?」と尋ねたところ、「晴れたらゴルフで、雨が降ったら家のプールで泳いでる」と、まったく的を得ない答が返ってきました。もう一度同じ質問をしても、まったく同じ答え。
そう、彼は働いていなかったんです。

当時、町田が契約したチームのオーナーも、北京のゴールデンポート・サーキットに着くなり、ざっと周辺を見渡して、「ウチの親父の家の庭より狭いな」って(笑)。

そりゃそうですよ。給料が日本円に換算して4万円ぐらいの国からきてるのに、1回で300万円近く使うわけですから、F3走るのに。そんなことできる人、向こうならお金持ちに決まってます。
(町田はなんとかスポンサーさんのお金でやり繰りできてました)

アジアのレースって、安くできると勘違いされがちですけど、レースのタイヤ代は日本でも中国でもマレーシアでも似たようなもんだし、オイルやガソリン(確かに税金は違うかな)も、大差ない。

パーツに関しても、中国はオリジナルから複製を作り上げるという荒技があるけど(笑)、純正パーツは基本的にヨーロッパから買うから、ヒューランドのミッションはそれなりの値段だし、マシンだってそこそこします。

町田も以前、AF2000シリーズがなくなって、アジアでフォーミュラBMWが始まった時に、1500万円も出して、新車のフォーミュラBMWを買ったんです。
(なんと、日本のBMWオートローンが使えました!!)

そういえば、そのマシンを中古で売った相手が、当時のミナルディ(懐かしいね)・アジア。ようするに、マーク・ゴダード選手に売ったわけで、いま、僕がマネージメントしているドライバーが走っているチームのチーム・オーナーだったりするわけです。
(本当に、いま突然思い出して、自分自身驚いてます。シャシーナンバー調べてみなくちゃ)

だから、結局、アジアのレースで何が安いかというと、サーキットの貸し切り使用料や、1回の走行料金、メカニックやエンジニアさんたちの人件費や食費、ホテル代なんですよね。

それは確かに圧倒的に安いと思いますし、魅力的です。とくにアジアはLCC(ローコスト・キャリア、低運賃飛行機)が発達しているので、転戦費用も大幅に安くあがります。

数年前、『A1チームJAPAN』を運営していた時に、イチバン頭を悩ませたのが移動経費やホテル代等の部分なんですね。スタッフやドライバーと共に、世界各国を転戦する移動経費だけで約1億円。死ぬかと思いました。(それで人生の方向性が狂ったかも知れません)

サーキット使用料も全然違ってて、たとえば昨年まで3年間、某イベントで某サーキットをお借りした時は、週末の2日間で1000万円を越えるお金を請求されていました。
アジアなら、1日60万円もあれば充分でしょう。

国によってですが、食事も100円~300円で充分満足できますからね、アジアは。

で、そんなアジアのモータースポーツに興味を持って、コストを安くあげながら、ヨーロッパでのレース活動の準備期間として練習にきているドライバーが世界各国から集まっているわけです。

コロンビアのオスカー君は、13歳の頃から兄弟とマレーシアに住んで、2年間近くもセパンサーキットをフォーミュラBMWで走り込んでいます。年間80日も走り込んでると、金額も相当です。

他にも、タイのお金持ちのご子息や、ジンバブエのドライバー、オーストラリアやシンガポール、インド、中国、韓国、イギリス、ドイツ、ロシア、フィリピン、マレーシアといった国々から若手ドライバーがアジアに集まっています。

そうですね、フォーミュラBMWで、練習量にもよりますけど、年間1500万円~2000万円ぐらいの予算で走ってますね、皆さん。ウチのドライバーもそうです。


話が最初に戻りますが、日本のモータースポーツの問題点。それは大きなふたつの誤解から生まれていると思います。
1億総中流階級意識と、スカラシップ。そのふたつ。

まずは自分が中流階級であるという意識と、その定義から。

確かに日本は中流階級でもレースができます。かつての自分もそうでした(笑)。

しかし、その中流の定義をよく考えてみると.....。

たとえば、年収300万円を中流階級だとすれば、FJだってできません。
でも、年収1000万円を中流階級だとすれば、なんとかFJぐらいは自費でできます。
(もちろん借金背負う覚悟でいけば、年収300万円でもFJはなんとかなります)

FJ日本一決定戦で勝てば(若いという無情な裏条件があるとは思いますが)F4に乗れます。
年収1500万円を中流階級だとすれば、FCJだって視野に入ります。
(年収1500万円を中流階級と呼ぶならば....ですよ)

でも日本でいう、いわゆる中流階級では、悲しいかな、そこまでです。(酷い言葉だなぁ)

もしかしたら、世界でいう中流階級は、年収2000万円あたりをいうのではないでしょうか?
もしかしたら、日本は相対的に、とても貧乏な国になっているのではないでしょうか?

カートだって、年間300万円は軽くかかっている時代なのです。
日本で中流階級に生まれた以上、レーシングドライバーを夢みるならば、
あとは自動車メーカーの支援に頼るしかありません。

全日本F3のナショナルクラスに参戦しようとすると、3000万円最低かかります。
スポンサーなんて、ほとんど親の仕事の関係者ぐらいしかついてくれません。無理です。

(こんな夢のない話書いてていいのかなぁ)

だから、若いカートあがりの選手やFJドライバーが、自動車メーカーの支援が得られる(ように見える)FCJのスカラシップや、そのためのトヨタ、ホンダ・レーシングスクールを目指すわけです。

スカラシップ、それが第2の誤解。

ようするに他人のお金でレースをしようと考えるからダメになるんだと思います。
昔、FJやるためには年間500万円必要でした。いまも同じぐらいの金額だと思います。
昔(20年ぐらい前)は、みんな自腹でレースをやっていたわけです。

みんなバイトを掛け持ちして、必死になってお金を貯めて、
そのお金を全部レースにつぎ込んで、本気で自分に賭けてました。

FJあがりでF1乗った片山右京選手、野田英樹選手、服部尚樹選手、みんな死ぬ気で働いてました。
もちろん才能もありました。でもそれ以上に、世界をつかみたいという情熱が強烈でした。

何が言いたいのかというと、最近はスカラシップが認知されて、それが当然になってしまった。
だから若いドライバーが、メーカー支援以外に自費で練習するとか、なくなってきたのです。

以前、モナコGPの時、某スポンサーの社長から200万円ぐらいチップをもらってカジノで遊んだ某氏は、「自分のお金で賭けてないカジノなんて、全然スリルがなくて面白くなかった」と言っていました。他人から頂いたお金ではなく、自分で何年も働いてコツコツ貯めた200万円を、チップに変えた瞬間、その興奮と緊張はかなりのものになるはずです。勝たねば、死ぬ。そんな意気込みです!


レーサーは、練習量が速さの差です。
アジアで走り込んでいるドライバーたちは、本場ヨーロッパを目指してます。
ただ、最初からヨーロッパで同じだけの走り込みをすると、とんでもない費用がかかるわけです。
実力もないのに、カートから欧州のフォーミュラにステップアップして、勝てるわけがありません。
その実力をつけるために、皆、アジアで走り込んでいるのです。

言いたいことが、ちょっと見えづらくなったかも知れません。

ようするに、投資の考え方だと思います。

F1以外に、レースではお金を稼げないのです。他のカテゴリーはお金を費やすだけ。

そのため、いかに最低限の投資で最短時間でF1に到達するか?
それだけを考えればいいのです。

そのために、どれだけの投資を必要とするか?
それだけを考えればいいのです。

モータースポーツをやる以上、上達するために自己投資は必要です。
その金額が1億円だとした場合.....。

どう使うか、それこそがF1を目指すレースキャリアであるべきなのです。
中流階級でもなんでもいいのですが、お金を集める才能があるか、否か。
走り込む方法論があるか、否か。

ちなみに、全日本F3選手権のナショナルクラスは、低コストで参戦するためバジェットキャップで年間3000万円となっています。で、格差がでないように、年間使用できるタイヤのセット数で、練習距離を制限しています。 それって、本質的に間違っていないですか? 走り込むべき時期に、走り込めないカテゴリーって、世界を目指す人にとっては魅力的じゃないです。


長くなってしまったので、突然ですが、今日はこのへんで(笑)。
日本のモータースポーツ界を語るほど、自分は偉くないですから。

なんか、とてつもなく長~い、つぶやきでした。

続きはまた。