人間は理性では動かない、感情で動く

人間は感情の動物である。人間がやることは理屈通りにはいかない。気持ちが違えば結果が違うのです。

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人間は感情の動物である

 私は27才、紡糸工場で3交替の職長として、著名な訓練リーダーの米山武氏の『TWI』の『人の扱い方』のリーダー研修を受けました。この時に受けた衝撃が私の今の仕事の原点の一つになっています。

 研修の終りに近く先生から「人間は理性の動物である--YESかNOか」という質問がでました。

 大学を出たばかりの若い私は、理工出の自負から、「絶対にYES。人は正しいことをする。正しいことは必ず実現する。正しいから答えが出る。理性で動くから人間ではないか。理性で動かなければ人間ではない。ただの動物だ。」と気負い込んで答え、間違いであるはずがないと胸を張っていました。

 それからしばらくみんなの意見を聞いた後、先生が「それでは具体的にどんなことがあったのか」と聞かれ、一人づつ研修者の具体的な事例について検討を加えていって、ついに「人間は感情の動物である」という結論になり、私はまったく声が出なくなってしまいました。

学生時代を思い返して

 マネージャーとして私は、選手のわがまま、大勢の部員の不満、部費の不足などに悩まされながら、なんとかテニス部の活動を支障なく回してきました。

 対抗戦では頑張っている選手を応援しながら、試合中の選手の気持ちの変化が試合の流れを左右することをいつも見てきていた。

 米山先生の話を聞きながら、学生時代のことを思い返し、「人は理性にしたがって結果を出しているのではない、気持ちとか感情によって行動し、結果を作っているのだ」とはっきりと納得し、その時からこれを信じることになりました。

気持ちが違えば結果が違う

 その頃、工場では2-3ヶ月に1度、映画会が開かれていました。ある時、仕事がちょっと多く仕事を片付けるためには誰かが残業しなければならないことが予想されました。

 私が班長さんに残業する人を午前中に決めておくように依頼したところ、「皆と相談したら、残業する人がかわいそうだ。だから、皆で頑張って仕上げるから、できたら皆で行っていいですか?」という答えが返ってきたのです。

 「できたらいいよ」と答えたら、その日の仕事の早いこと、時間前にきれいに終り、現場の掃除まですっきりとすませて、全員で映画を楽しんだということがありました。

 人間がやることは理屈通りにはいかない。気持ちが違えば結果が違うのです。

理性と感性

 私は人の頭の中には理性軸と感性軸の二つの直交している軸があると考えています。

 理性軸とは数字で計算できるもの、論理的なもの、くだいていえば損得で考えられることです。

 これを縦軸とすれば、一方の感性軸はそれと直交している横軸になります。

 感性軸には好き嫌いとか、嬉しい、悔しい、悲しい、怖い、楽しい、面白いというような気持ちや、誇り、恐れ、怒りといった理屈で割り切れない感情がならんでいるのです。

 直交していますから、嬉しいとか楽しいという気持ちと損得は必ずしも関係がないのです。

 損しても楽しかったり嬉しかったりするのです。得しても嫌な気持ちになることも多いのです。

話を聞いて動くということ

 誰かの話を聞いたとき、どうしたら人は動くようになるのでしょうか。

 人の話を聞いても「理屈、勘定は分かったけど、まだ納得できない」という状態は珍しくないのです。

 これは「理性軸で説明を聞いて話は分かった。しかし、私の気持ちはOKを出していない」ということです。

 人は「理性で分かったら、動ける」というものではないのです。

 「理屈で分かった」に何らかの感情(誇り、怒り、恐れなど)、気持ち(楽しい、面白い、悔しいなど)が加わって、「やろう」と決心してはじめて、自分から動けるようになるのです。

 理屈だけでは動けないのが人間なのです。

 しかしながら、一方で、人の話を聞いて、感情が先に揺さぶられたら、理屈抜きで動いてしまうのもまた人間なのです。

 話す人の気持ちや感情は、話の内容とは別に、直接聞いている人の感性に伝わっていくのです。
 その人の気持ちや感情が伝わり、自分の気持ちが動いたら、人は自分から動けるようになるのです。

現場の作業は数字で動くのか?

 現場の作業は作業条件、原料投入量、出来高、不良数などすべて数字で規定されて進められています。

 これはもちろん、製品を保証するための前提ですからきちんと守られなければいけません。

 そして作業は、計画の受領から、条件設定に始まり、仕事がすんで、きめられた書式に、いろいろな数字を書き込んだところで終了するのです。現場の作業は数字で始まり、数字で終わっていることになります。

 先日、ある工場の研修会で、午後の眠気ざましに3人ずつグル-プを組んで、お喋りタイムをやったのです。

 「先週の作業で、自分のやったことをお互いに数字で説明して下さい。時間は15分」 とやったのですが、さっぱり盛り上がりません。

 5分ほどして、「話題を変えて下さい。先週、会社であった『悔しかったこと』をお互いに話して下さい」といった途端に、研修室が盛り上がりました。

 作業の結果の数字は日報を書いたときにもう自分と関係のない無意味な数字になってしまうのです。

 「悔しかったこと、嬉しかったこと」はみんな自分のやったこととして覚えているのです。

 現場の仕事は数字でなく、一人ひとりの気持ちで動いていると考えた方がいいのです。

ベイスタ-ズの権藤監督の話

 『昨年、プロ野球界の頂点に立った権藤監督は「私は投手コ-チ」といってはばからない。

 監督の真骨頂は投手心理のコントロ-ルの巧みさにあった。

 ピンチになると自らマウンドに足を運ぶ姿がおなじみになったが、なにを話したかと思うくらいすぐに帰る。

 「打者はタイミングがあっていないんだから、普通になげろ」「真ん中でいい」。

 苦しんでいる投手に「高めはダメ」と難しい注文をつけても始まらない。自らの経験に基づいた一言がピンチにある投手を救った。』

 新聞の解説で読んだ権藤監督の話を参考までに。

投資家も感情、本能には勝てない。だからポジションサイズを小さくして、小さい感情の振れにすると理性である程度抑えられる。