磯田道史 著 『日本史の内幕 戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで』(2017年)
中公新書 定価 (本体840円+税)
磯田道史氏の講演を聴いて以来、書店で氏の本をみると無性に読みたくなり、今回も天神のジュンク堂書店のベストセラー本棚からか買って読みました。期待通り、面白かったです。
中央公論新社の紹介文です。
「西郷隆盛の性格は、書状からみえる。豊臣秀頼の父親は本当に秀吉なのか。著者が原本を発見した龍馬の手紙の中身とは。司馬遼太郎と伝説の儒学者には奇縁があった――日本史にはたくさんの謎が潜んでいる。著者は全国各地で古文書を発見・解読し、真相へと分け入ってゆく。歴史の「本当の姿」は、古文書の中からしかみえてこない。小説や教科書ではわからない、日本史の面白さ、魅力がここにある!」
“まえがき”で著者は「この本は、古文書という入り口から、公式の日本史の楽屋に入り、その内幕をみることで、真の歴史像に迫ろうとする本である。」と述べられています。古文書という歴史の一次資料から歴史を読みとき、紹介されており、歴史好きにとって興味をそそる内容でいっぱいです。
7章構成で63項あります。
第1章…古文書発掘、遺跡も発掘
・油酒樽に詰まった埋蔵金、・初期古墳を守れ、・城の便所の天井は高く、・羽生君、「殿」を演じる、・今も生きる「慎み」の教え、等
第2章…家康の出世街道
・三方ヶ原の戦いの真相、・天下人、敗走中の気配り、・真田の首に語りかけた言葉、・水戸は「敗者復活」藩、等
第3章…戦国女性の素顔
・家康の離婚伝説、・美女処刑と信長の死、・秀吉は秀頼の実父か、等
第4章…この国を支える文化の話
・信長と同時刻生まれの男、・毒味をさせた「毒味役」、・かぐわしき名香の物語、・「信繁」も加わり兜に香、・上方の富くじは太っ腹、・江戸期の婚礼マニュアル、・「寺子屋」文化の遺産、・我々は「本が作った国」に生きている、等
第5章…幕末維新の裏側
・龍馬の書状「発見」二題、・西郷書簡と日本の歯科、・「民あっての国」、山田方谷の改革、・吉田松陰の複雑な側面、等
第6章…ルーツをたどる
・黒田家は播磨から流浪か、・福岡藩主のミステリー、・忍者子孫たちの交流、・中根東里と司馬遼太郎、等
第7章…災害から立ち上がる日本人
・江戸人と大火、・江戸の隕石いずこに、・安政地震下、江戸商人の日記、・熊本城サグラダ・ファミリア計画、・熊本城石垣の補強法
私が興味深かった内容の一部を引用させていただきます。
・(映画『殿、利息でござる!』の実話から) …ところが穀田屋たちは「慎み」の約束を結ぶ。金を出して宿場を救った自分たちは子々孫々の代まで上座に座らない。やったことを人前で自慢しない。道の端っこを歩くように町で暮らす。というのである。(P28-29)
・…ところが、出演者の阿部サダヲ、瑛太、妻夫木聡を圧倒する存在感の「殿」を演じる俳優探しに困った。そこで中村義洋監督と松竹の池田史嗣氏が相談して「スケートの羽生君にお願いしてみよう」となったらしい。私の原作本を羽生君のお父さんに持って行って読んでもらったら、親子で考えてくれ、しばらくしてOKがきた、という。(P32)
・権力の都合で情報は操作される。ゆえに国家機密の保護は必ず後日の情報公開とセットでやらないと、検証が不可能になり、国を誤る。(P70)
・ちなみに家康は大坂城を落としてから一か月近く城内をくまなく捜索させ、倉庫の焼け跡から「精金一万八千枚、白銀二万四千枚」を発見、回収している。夢のない話で申し訳ないが、たぶん今の大坂城に埋蔵金は残っていない。(P80)
・「こんなふうに美女を大八車で引きずりまわし、幼子ともどもに殺したら、信長の評判は落ち、本能寺で襲おうという流れにもなるな」。私は、そうつぶやきながら、とぼとぼ河原を歩いて帰った。(P105)
・実は、日本史上の重大な問題がある。肥前名護屋のこの御殿で秀吉が淀君を抱いていなければ「豊臣秀頼は秀吉の子ではない」ことになるのだ。(P118)
・信長は実証主義者である。本当に星占いが正しいか、生年月日が人間の運命を決めるものか確かめようとした。すなわち、配下に命じて、自分と同年同月同日同刻に生まれた者を探しだし面会しようとした。…(P126)
・細川家の毒味役は毒味をさせる係であって毒味をする係ではなかった。毒味をするのは調理した者と御膳を運ぶ者であったのだ。(P130)
・現代の宝くじの控除率(運営側=胴元などの取り分)は約55%でかなりとられる。しかし、江戸時代の富くじは寺社への奉納金が一割前後、販売手数料などを考えても、現代の宝くじよりずっと低かった。世の中はだんだん世知がらくなっているということか。ちなみにそれを知る私は、一度も宝くじを買ったことがない。(P142)
・日本が植民地にならず独立を守れたのは、単に遠い島国だったからではない。島国というならフィリピンもスマトラも、みな植民地になっている。日本が独立を保ってこられたのは、自らの出版文化を持ち独自の思想と情報の交流が行われたからである。歴史家としていいたい。この社会はその重みをもう一度かみしめなくてはならない。(P156)
古文書の解読から著者が得た日本の歴史の内幕を、わかりやすい文体で述べられて、本当に興味津々に読みました。今後、磯田氏が出される本も楽しみです。
お読みいただき、ありがとうございます。
日本史の内幕 - 戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで (中公新書)
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