つい先日、ジェイソンステイサム主演の「ハミングバード」のDVDがレンタル開始となった。
何の間違いか、TSUTAYAではレンタル1位!
まさかステイサムが首位を取るとは・・・
誰もが同時にレンタルが開始されたラッセルクロウの超大作「ノア」が首位を取るだろうなあ・・・という予想を覆し、ステイサムの「ハミングバード」が「ノア」を裸締めで落とす様相を呈した。
正にステイサム学会に戦慄が走った瞬間だった。
思えば公開当時、興行収入ランキングTOP10にすら入れなかった作品が、こうして1位になるのは実に喜ばしいことである。
だが、俺としては喜ばしい反面、複雑な感情を抱いていた。
映画館で見てやれや!!と。
「ハミングバード」、「バトルフロント」という、一年に二回もステイサム映画を見れるというのに、どちらも「ホットロード」や「好きっていいなよ」に負けるとは・・・
大丈夫か?日本!!
俺が勝手に日本の心配をしている間に、「相棒・劇場版」がレンタル開始されると、「ハミングバード」は電光石火の速さで首位から陥落!
まさに三日天下。
ぬか喜びじゃねえか・・・
と、これまたステイサム学会に戦慄が走ったのだった。
そんな風に西野カナのように震えっぱなしのステイサム学会なわけだが、ここ最近、新たな学説が浮上してきた。
それは「ステイサム=ハリウッドの高倉健説」である。
ステイサムといえば、軍隊格闘技仕込みのリアルかつ圧倒的なアクションに目がいきがちだ。
実際、映画で披露されると見ているこっちもウットリしてまうのだが、ステイサムの魅力は、それだけではない。
大体の作品で、ブルーカラーに近い武骨な役柄、男の哀愁、背中及び表情で物事を語る、そして損得抜きの人との繋がり=仁義を重んじる役柄を一貫して演じているのも、ステイサムの魅力のひとつだ。
たとえ「いつものステイサム」と揶揄されたとしてもだ!!
一方の健さんも、任侠映画で悪人をバッタバッタと倒す作品から、ヒューマンな作品に出ても、変わらずに仁義を守り続けている。
時代が移り変わっても、映画において高倉健が高倉健であるように、ステイサムもステイサムという点では共通している。
ステイサム版「居酒屋兆治」や「あなたへ・・・」が、これから公開されるのではないだろうかというのが昨今のステイサム学会の見解である 。
そんなもん需要ねえよ・・・といわれようが、少なくとも俺は見に行く!!
どうかシュワルツェネッガーやスタローンのように間違ってもステイサムが妊娠!? とかステイサムがマザコンの紙おむつを履いた刑事!?とかやらんでほしいものである。
話はそれたが、今回は、そんなステイサムの高倉健ぶりがストップ高を記録した作品、「PARKER」をご紹介します。
かつて昼下がりに麻薬中毒者のような状態で本作をアーウー言いながら見ていたのだが、正直、帽子のツバがやたらデカい、という印象しか残らなかった。
だが、改めてシラフで鑑賞すると、ステイサムがどうかというほど仁義を通す任侠映画なのであった。
本作は、高倉健が「幸せの黄色いハンカチ」だとすれば、いうなればステイサムの「血まみれの赤いハンカチ」だ!
というわけで本作のあらすじ。
田舎の遊園地。
ミス田舎を決めるコンテストが開催されるなど、土日ということでにぎわってやいた。
そこに1台の車が乗りつける。
あっ!髪のあるステイサムだ‼︎
車から現れたのは神父というには物騒な目つきのヅラを被ったステイサムであった。
見るものを唖然とさせたまま、赤文字でドンとPARKERの文字が躍る。
その後、遊園地をブラつき、途中で歯の抜けた子供の代わりにダーツの景品をゲットするなどヅラ以外 は自然にいい人ぶりをアピールするステイサム。
ああ、今回のステイサムは人のいい神父さんなのかなあ・・・と一瞬俺に思わせた。
当たり前だが、そんな事は無かった。
会場の放火をきっかけに集金所へ殴り込むピエロ2名とステイサム神父。
そう、今回のステイサムは強盗のプロフェッショナルことパーカーだったのだ。
ヅラおよび神父のコスプレを脱ぎ棄て、颯爽と現場を立ち去るステイサム。
「火事を起こす場所は展示館の裏だ!」とステイサムが無駄な犠牲を出した仲間の若手を殴りつけるなどのいざこざはあったものの、まんまと大金を強奪するのだった。
野郎ばっかを乗せて田舎の道をひた走るステーションワゴン。
ここでバタービーンそっくりの仲間が「もうひと稼ぎしねえか?」とステイサムに持ちかける。
だがステイサムは「断る。俺の取り分だけ寄越せ。」と取りつく島もない。
途端に険悪になる車内。
この光景は、かつて俺が野郎4人でドライブに行った際、俺を含めた3人が回転寿司を食う気満点なのに「いや、俺はラーメンが食べたい。」 と言った俺の知り合い(デブ)を思わせた。
映画に話を戻すと、バタービーン曰く、ステイサムの取り分もなければ次の仕事に取り掛かることはできないぞ、と。
だが、怯むことなくステイサムは頑固に断る。
「俺はラーメンを食う。お前らは仲良く寿司を食え。」といわんばかりに。
どうにも話がかみ合わない車内。
次第に険悪なムードが立ち込める。
こうして、野郎ばっかの狭いステーションワゴン内で銃撃戦が開始されるのだった。
だが、銃を持っていないステイサムは、肘打ち、および隣に座るロン毛が持つショットガンで運転手の黒人の耳を吹っ飛ばす、など孤軍奮闘するものの、バタービーンから至近距離で弾丸を2発食らう。
なんとか走行中の車から飛び降りるもののアスファルトに叩きつけられ、更にトドメの弾丸を喰らうステイサム。
至近距離で弾丸を3発も食らい、ステイサムの命も尽きたかに思われた。
だが、偶然通りかかった農家に発見され、奇跡的に一命を取り留めるのだった。
しかし農家の人も道端にステイサムが捨てられていてびっくりしだろうなあ!
そんなわけでステイサムが目覚めると隣にはスターウォーズのC3PO のような声の爺さんがいる。
どうやら病院に搬送されたようだ、と気づくステイサム。
しかし、このまま病院にいれば犯罪者としての身分がバレてしまう。
爺さんを担当する気の良い黒人の看護師を締め落としたステイサムは、爺さんを人質に病院を脱出!
救急車を当たり前のように盗み出し、傷の回復を待つのだった。
師匠のニックノルティに「復讐なんて考えるな。奴らのバックにはシカゴマフィアがいる。今回は手を引きなさいな。」 と言われても「俺は自分の取り分を貰うだけだ。」 と忠告を無視!
3発も弾丸を喰らったにも関わらず、1日かそこらで回復したステイサムは、また当たり前のように車を盗み、コンビニへ行く感覚で押しこみ強盗を敢行!
その足でステイサムは偽造ID屋で金持ちのボンボンという偽の身分を手に入れる、強盗わらしべ長者ぶりを披露する。
大体、傷も癒えてきたところで「よし!反撃だ!」といわんばかりに、冒頭でぶん殴った仲間の若手の兄貴が経営するバーへ景気良く殴りこむステイサム。
屈強なボディガードを消火器で殴る、など病み上がりには思えない絶好調ぶりであった。
ひとしきり暴れた後、バタービーン一味の次の仕事はフロリダのパームビーチ、という事実を突き止めるステイサム。
フロリダのパームビーチはFacebookにオシャレなメシを毎日アップするような上流階級が住む街だ。
どうやら奴らは、ここで行われる宝石オークションを狙っているらしい。
やたらツバがデカイテンガロンハット、そして爽やかなブルーのスーツという成り上がりファッションに身を包んだステイサムは、一味のアジトを探る為に、不動産会社に勤務する実家暮らしのジェニファーロペスに接触する。
一方、ステイサムに殴られた若手の兄貴から「ステイサムが殴り込んで来たぞ!どうなってんだ!?」 との一報が入ったバタービーン一味。
「お前、あん時ステイサムにトドメ刺せと言っただろう!責任取れ 」と問い詰められる若手だった。
こうして、若手はマフィアのボスである父親に頼んで、ナイフを使う味のある殺し屋を差し向けるのだった。
果たしてステイサムは追ってくる殺し屋を振り払い、一味に復讐を遂げられるのか!?
本作のステイサム、とにかく「恩は恩で返す、仇は仇で返す」が、どうかというほど徹底している。
例えば、ニックノルティに自分の娘(劇中のステイサムの恋人)が「殺し屋に狙われている、お前は自分の道理の為に死ぬのか?」と告げられようが「それはそれ!これはこれ!人はいつか死ぬ!これを許したら世の仁義が守れない!」と全く妥協する気ゼロなのであった。
かといって本命の彼女を蔑ろにしているかといえば、そうでもない。
ひょんなことから協力者となったジェニファーロペスから生活感丸出しの下着姿 で「車のリース料が払えない」「仕事も上手く行ってない」「旦那の浮気が原因で別れたのに借金の肩代わりをしている」 など切実過ぎる生活事情を吐露される。
しまいには涙ながらに「もう40近い実家暮らしの私にチャンスなんてありはしないのよ」 と聞いてもないのに倍プッシュするのだった。
しかし、いくら熟女と言っても、相手は腐っても下着姿のジェニファーロペスですよ。
普通の男なら情が移って間違いの1つや2つを犯しても不思議ではない。
だが、ステイサムは「・・・分かった。服を着ろ。」と言い放ち部屋を出る。
口当たりの良い言葉や中途半端な優しさは、優しさとは言わない、と言わんばかりに。
SNSなどで女の子やらアイドルに媚びを売りがちな男がいる昨今、ハードボイルドな態度を貫くステイサムであった。
ましてや本命の彼女がいますからね。
最近では「昼顔」という不倫ドラマがあったが、このステイサムの揺るがない姿勢は、男ならぜひ真似したい。
そして今回のステイサムは珍しいことにインディーズ時代の大仁田厚ばりに傷だらけ、血まみれになる。
背後の相手を見ずに腰に差したままの銃を発砲し足を打ち抜く、バタービーン一味のアジトに潜入して、あらかじめ銃を使用不能にする、などの神業を幾つか唐突に披露するものの、戦闘レベルはいつものステイサムより比較的常人に近い。
特に差し向けられた殺し屋とホテルの一室で繰り広げる、命を獲るか獲られるかのタイマン血まみれ残虐ファイトは、今までのステイサム作品で近年稀に見るほど苦戦を強いられているといっても過言ではない。
一進一退の攻防の末、風呂の角に殺し屋の頭を打ち付けるステイサム。
フー、と一息ついていると背後から死んだと思っていた殺し屋がナイフ片手に襲ってくる!
まさかの不意打ち!
エクスペンダブルズ2のスコットアドキンス戦でも、ここまでのピンチはなかった。
だが、そこはステイサム。
眼前まで迫ったナイフを自分の手のひらを貫通させてキャッチ、高層ホテルのバルコニーへ自分ごと殺し屋と共にリリースする、捨て身のキャッチ&リリースを披露する。
このシーンは、もしホテルの一室でナイフを持った殺し屋に背後を襲われたら、ぜひ真似したい名シーンだ。
その後、死闘の応急処置もそこそこに、バタービーン一味のアジトへ殴り込む。
俺なら半年は有給を使うところだが、ボロボロになっても己の流儀を通すステイサムなのであった。
そして、復讐を協力したジェニファーロペスと、道端に捨てられたステイサムを拾った農家へ仁義を通し、自分の命を狙ったマフィアのボスへきっちり落とし前をつけるラストの展開はフロリダの空のように爽やかだ。
今更というか、かなり強引なこじつけだが、ここらへんは高倉健の「幸せの黄色いハンカチ」の爽やかなエンディングを彷彿とさせた。
・・・・・・言いたいことは分かる!だが彷彿とさせたんだ!!
ともすれば「いつものステイサム」といわれがちな本作。
だが、この血まみれになってでも己の仁義を通す本作のステイサムに、世知辛い現代社会は学ぶ所が多いのではないだろうか。
そんな、明日から真似したくなる漢の映画である。