鼓笛隊の襲来 | お役に立ちません。

お役に立ちません。

本・漫画・映画のレビューブログ。
本は月に10冊ほど、漫画は随時、
映画はWOWOWとTSUTAYAのお気持ち次第(笑)

鼓笛隊の襲来/三崎亜記
¥1,470
Amazon.co.jp

鼓笛隊の襲来 三崎亜記、第4作品目。

戦後最大の鼓笛隊がやってくる。
わたしの家族は、年老いた義母を迎えて、ひっそり自宅でやり過ごそうとするが。
日常と非日常の間に潜む奇譚短編集。

うーん。
面白かった。
んだけど、前3作品に較べると、小さくまとまりすぎちゃったかなぁ、って印象。

突拍子も無い設定をリアルに感じさせる手腕、
日常のちょっとした違和感を増幅して、明示するテーマ性、
なにより、小説としての完成度、
相変わらず、むしろ、より冴えてきてはいるんだけども、
器用貧乏というか、読みやすくなりすぎて、さらっと読み飛ばしてしまえる。
心に引っかかるものが少ない。
となり町戦争の奇矯さ、失われた町の壮大さは無く、
また、バスジャックの突拍子もないのに、サプライズのある作品としての面白さもない。
これと並行して、もしくは、このあとにまた長編1本控えていて、
そのプロローグ、または腕慣らしとして書いたのかなぁ、って思っちゃう。
前作がごっつりSFだったから、SF苦手な日本人のために、世にも奇妙な物語風に取っ付きやすく工夫したのかな?
ワンアイディアSFでなくとも、もっとがっつりSF風味でも良かったし、
もしくは、テーマをしっかりと入れて欲しかった。
バスジャックも短編だったけど、特にラストの話なんか、喪失感をどうするか、っていうテーマがすごく良かったもん。

悩むのが、面白くないわけじゃないんだよね。
この人の、日常に潜む違和感を、リアルな非日常空間で鋭くえぐってみせるっていう手腕は大好きだし、
読みやすいのに、妙に非人間的というか、淡々と感じる文章も好き。
それらがかなり冴え渡ってるとは思う。これ。

表題の鼓笛隊の襲来なんかは、アイディア的には台風のジョークみたいなのに、
近代化するに連れて失われたもの、
忌避することによって、馴染めるはずのもの(おそらく自然)と敵対するようになってしまった、
というテーマは良かった。

ぞうさん滑り台のある町も、
リアルぞうさんを滑り台にしちゃうっていう奇妙さ、妙に腰の低いぞうさんと、
新しいのに廃れていく新興住宅地のもの寂しい風景が、今の、そしてこれからの日本を象徴しているみたいで
哀しく美しくて良かった。

ボタンは、さすが、もと市役所勤務。
市民に嫌われるお役所と、一般市民の関係をぐっさり書いていて読み応えあった。
お役所仕事って、本当融通聞かないうえに、気持ちが入っていない場合が多い。
それは問題。
でも、様々な条約やら、規則やらって、身勝手な一般市民の要求で作られていくんだよね。
このへんが、理解し合わない役所と市民を浮き彫りにしていて身をつまされるようだった。
こっちが、アレを直せ、これを止めろ、というから、それを拾って条約が出来るのに、
それで失われるものがあるんだよねぇ。
役所とかの、第三機関を通さなくても、市民レベルでなんとかすればいいのに、
それをしなくなってるから色々問題が。
分かりやすく言うと、110番に、傘持ってこいとか、非常識な問い合わせがあるとか、
119番をタクシー代わりに使っちゃうとか、そういう最近問題と、根は一緒。
一部の非常識、もしくは過剰反応で、不便を被る人が出てくるという。
でも、それは、役所の問題だけではなくて、市民レベルの問題でもあるんだよね。

どれもテーマは違うけれども、
しいて言うなら、昔あったもの、でも今は失われていくもの、ってとこかなぁ。
それを、非日常を舞台にすることで、くっきりと浮かび上がらせるという。

うまいんだよ。
うまいんだけど、もっと強い動機で描かれる、熱のある物語が読みたい。
誰にでも読みやすい物語じゃなくてもいいから、SFが好きなら、それをもっとがつんと出してもらってもいいし。
専業作家になったんだから、これからもっと書けるはず。
次に期待しよう。
なんのかんのいっても、ずば抜けて力量のある、大好きな作家さんだから。
期待してるんだー。

しかし、言葉のセンスがいいなぁ。
”鼓笛隊の襲来”って、良く見る言葉がこんな奇妙な響きを持つなんて。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ