- 告白/町田 康
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これで年を越しました。
熊太郎はごろつきである。
しかし、芯から性根が腐っていてそうなのではない。
”普通”の人生を上手く生きられない、不器用な男の一生。
途中までは抜群に面白かった。
町田節が冴えているし、人物の掘り下げが非常に重厚。
主人公が何を考え、どう行動したのか、じっくり書き上げられているから、
人間とは人生とは、みたいなもんを自然と考えてしまう。
しかし、後半三分の一はなんだかなぁ。だった。
前半がある意味、やじきた的面白さがあるのに対し、
物語が、あるべき終末へ暗く落ち込むせいでもあるし、
主人公の性格にいらいらし、結末に呆然とするからでもある。
とにかく、主人公の男についての描き方が凄い。
個人を徹底的に描くことによって、人間そのもの、人間のこころの不確かさを存分に描き出してる。
主人公は、小さな頃から甘やかされて育てられた。
自分はとても優秀な人間だと思い込んでいたのが、あるきっかけで、
実は単に甘やかされているだけの、普通の人間だと気付いてしまった。
人より優れているわけでもなく、むしろ、世間の常識や空気を感じ取れない自分に気付いてしまった。
以来、ストレートで、一般的な生き方が出来なくなってしまう。
基本的に頭が良いんだけど、それを表現することが苦手なために、
思っていることと違う方向に進んでしまったり、
ムラ社会に馴染めなかったりするところが主人公のキモ。
考えたことを、考えたようにストレートに表現できない、ってのは、結構誰でも思い当たる節があるんでは。
思ったことを、思ったとおりに表現できたら、
自分と世界の齟齬がなくなって、それは素晴らしいんだろな、とか思うし。
とはいえ、もしも表現できたとしても、相手がそのまま受け入れてくれるかどうかはわかんないわけだけど。
いざとなると緊張してしまう性格や、なんとなく間が悪く、また運のない主人公の冴えないながら、
軽妙で、愉快なこともある人生や、
はぐれもの同士の道中話なんかが、河内弁で豊かに語られていて面白い。
明治に入ったくらいの時代の話だけど、
読みにくさはなく、文体が固い割に洒脱でさくさく読める。
周囲に上手く馴染めず、不器用な故にやくざものになってしまってる主人公に対し、
一般生活者として成功しているもののほうがこずるくて、
性根は真のやくざものなのに、人を利用し、立ち回ることで
ムラに完全に馴染んで、中心人物となっているのが切ない。
結局、人生、立ち回りの上手いやつのが美味しいんじゃないの、
利己的で、自分のためだけに生きてるやつのが上手くいっちゃってるじゃない。
ってのと、
かといって、不器用な主人公が純朴、真正、いいやつなわけではなく、
基本的にだめ人間で、道を踏み外していくのも、自分が悪かったりするわけで、
そのへんの、自己正当性を主張する語り口と、
読者からの客観性では、でも、あんたもわるいよね、ってのが、深い。
後半が嫌いなのは、まず、女の子を大切にしないこと、
考えすぎること、
周りの悪徳なやつがひどすぎること、
それがたいして是正されないこと、あたりかな。
好きな女子と結婚できたのに、気恥ずかしさから全く大切にせず、
好きな気持ちを表現しないのは、いくら性格とはいえ、納得いかなかった。
いままで、努力や、真面目に生きよう、と決心しても、外的要因で頓挫することが多かったせいもあるだろうけど、
基本的に努力しない主人公で、
自分の性格に問題があることがわかっていても、治す気はなし。
奥さんが浮気したって怒るけど、その前に、自分は奥さん全然大事にしてなかったよねぇ、
しようとしなかったよねぇ、と。
奥さんも、大分問題のある性格であるけど。
にしても、奥さんと対話せず、勝手に自分の中で神格化し、また、けなし、
てのはこのへんちょっと、自分に都合よすぎるんじゃない?と。
また、森の子鬼はなんだったんだ、と。
物語にとって非常に重要なエピソードなんだけど、
どうも、主人公の幻想らしい。
不如意な人生や、理不尽さの象徴?なのか?
その他にも幻影が現れ、意味不明なまま終わってしまったのでスッキリしない。
そして、周りの身勝手な人々。
人間なんて所詮、動物なんです。
悪意なんです。
万人の、万人による闘争なんです。
みたいな。
だから、ラストの絶望的な流れに繋がっていくわけだけど、
結末があまりに破滅的。
とはいえ、一人の男の内面を詳細に描ききることで、
人間関係とか、世間と、生活のことについてとか、あ
深く考えることの出来る、読んで良かったと思える作品。
町田康の作家としての力量が最も現れている作品。