重力ピエロ | お役に立ちません。

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本・漫画・映画のレビューブログ。
本は月に10冊ほど、漫画は随時、
映画はWOWOWとTSUTAYAのお気持ち次第(笑)

重力ピエロ/伊坂 幸太郎
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バーゲンに惑わされています。

複雑な事情を孕むも、仲の良い兄弟。
連続放火事件と、それにまつわる謎解きに挑んでいくうち、
見えてきた弟の秘密とは?

伊坂さんはこれをきっかけに大ブレイクしたんだよね。
主題とする事件よりも、登場人物の抱える問題が大きく、
ミステリの形(と、力)を借りた家族ドラマ。

物語の主軸がとにかく重い。
恋空とか、ケータイ小説なんかじゃ、物語を刺激的にするために簡単にレイプが取り扱われるけど、
レイプって、こういうことだよね。
犯罪と結果、その重さとやるせなさ。
そこにさらに、家族の病まで混じってしまうという、へヴィの三段重ね。

だけど、キャラクターが明るく、魅力的で、構成、文体ともスキッとしてぐいぐい読ませるから、
ただただ気鬱になって先が読めない、ということはない。
そこは凄いと思う。
これは泣かせるための物語じゃなくて、提示された問題について考えるための物語だから。
エンターティメントとしても成立していて、身構えずに読めるし。

家族が皆、良い人たちだから救われる反面、より、シンプルに問題が浮かび上がっている気がする。
ここまで出来た家族はいないだろう?みたいな、奇麗事、とも取れるかもしれないけど、
これはドキュメンタリーじゃないし、
こういう問題についてどう考えますか?こういうことだってあるんですよ。
という、ひとつの主題についてきちんと考えるためにとった手段なんだと思う。
『僕たちは仲の良い兄弟だから』
それが真実でも、どうしようもないこともある。

弟の”春”の明るさと危うさがとにかく魅力。
誰でもともだちなりたいと思わせるような雰囲気(性格も容姿も)持ちながら、
出自の問題の為に、どこか危ういところがある。
その、半ば暴走と思えるような行動と、謎が物語を引っ張る。

登場人物も少ないし、舞台もそんなに移動しない。
小さな世界での物語なんだけど、だから余計に中身が濃密。
前半は、謎解きをわくわくしながら楽しみ(これがまた良く出来てる)、
後半は、春と主人公の心と行動の行方にはらはらする。

結末は納得だな。

『面白いから絶対読んでみて~~』
というより、
『読んだ方がいいよ。この本。絶対いいから』
というタイプの本。

こうやって3日書き連ねてみると、伊坂幸太郎って偉大だな(笑)
やっぱ、全作品読んでみようかな~~

懐こいけれど、エキセントリックなキャラクター、
奇抜な事件、
へヴィな人間関係を3者取り混ぜつつ、
抜群の構成力とストーリーテリングでぐいぐい読ませるところがとにかく秀逸。

謎解きも好きだけど、
人殺しがどうだ、なんだ、なんて殺伐としたものなんかじゃなくて、
誰でも陥る可能性のある、マイノリティとその問題について、
優しく、真摯な視点が常に向けられているんだよね。
そしてそれが、ウェットでなく、明るさとスタイリッシュさで描かれるという。

そこが好きだ。