シンセミア | お役に立ちません。

お役に立ちません。

本・漫画・映画のレビューブログ。
本は月に10冊ほど、漫画は随時、
映画はWOWOWとTSUTAYAのお気持ち次第(笑)

阿部 和重
シンセミア(上)
阿部 和重
シンセミア(下)

だれにでも悪意はある。

けれども、誰の悪意も目に見えるというわけではないし、

近しい人や近所の人なら尚更。

普段はいい面しか見えないものだ。


田舎町に起きた殺人事件。

それに絡みながら複数の人物の複数の事件。

大人しく真面目な教師が異常な趣味と関係を持っていたり、

平凡な主婦が麻薬常習者だったり。


多数の人物が少しづつその実質を描かれていくたび、

真っ黒な悪意が見えてくる。

このひとも、このひとも、

出てくる人皆。


嫌になる。

と、同時に段々と、「この人はどんな悪意を持っているのかな?堕落してるのかな?」

とワイドショー的な興味が湧いてくる。

露悪的な自分を自覚する。


作者も、同様。

作中にファンの女子高生に卑猥なメールを送る自分を登場させる。


自分も含めて、読者のあなたもこの町の人々と変わらないんだよ、

いやらしくて、どうしようもない部分を持ってる。


そう云われているようだ。


読後は全然爽やかじゃない。

物語はきれいに終らない。

だけど、これもまた、人間の姿。

普段見ないようにしている部分をはっきりと、しつこいまでに描き出し、

自覚させる。

そういう、作家。