- 阿部 和重
- シンセミア(上)
- 阿部 和重
- シンセミア(下)
だれにでも悪意はある。
けれども、誰の悪意も目に見えるというわけではないし、
近しい人や近所の人なら尚更。
普段はいい面しか見えないものだ。
田舎町に起きた殺人事件。
それに絡みながら複数の人物の複数の事件。
大人しく真面目な教師が異常な趣味と関係を持っていたり、
平凡な主婦が麻薬常習者だったり。
多数の人物が少しづつその実質を描かれていくたび、
真っ黒な悪意が見えてくる。
このひとも、このひとも、
出てくる人皆。
嫌になる。
と、同時に段々と、「この人はどんな悪意を持っているのかな?堕落してるのかな?」
とワイドショー的な興味が湧いてくる。
露悪的な自分を自覚する。
作者も、同様。
作中にファンの女子高生に卑猥なメールを送る自分を登場させる。
自分も含めて、読者のあなたもこの町の人々と変わらないんだよ、
いやらしくて、どうしようもない部分を持ってる。
そう云われているようだ。
読後は全然爽やかじゃない。
物語はきれいに終らない。
だけど、これもまた、人間の姿。
普段見ないようにしている部分をはっきりと、しつこいまでに描き出し、
自覚させる。
そういう、作家。