ダウン・ツ・ヘヴン | お役に立ちません。

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本・漫画・映画のレビューブログ。
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森 博嗣
ダウン・ツ・ヘヴン―Down to Heaven

 白鳥は哀しからずや 空の青 海のあをにも 染まずただよふ

(若山牧水)


この歌を小説にしたらこれになるんでしょう。

巨大企業が世界を支配し、戦争を続ける未来世界。

空の上のみに自由とこころの解放を見つける、戦闘機乗りのこどものはなし。

シリーズ3作目になるこれは、2作目『ナ・バ・テア』に続いて 草薙水素(クサナギスイト) 主人公です。


前編を彩るのは、まさに孤高に飛びつづける白鳥、水素の飛行描写と心理描写。

息を潜めて動きのない、劇を見ているような小説です。


醜い大人、安全な所でいのちのことなんて何にも知らずに世界を動かしてるおとな、

いのちというものを知っていて、おとなに利用されるこども。

けれど戦いとは何かを知り、空を飛ぶ事で自由を得るこども。


水素は完全に孤立主義で、愛するものが居てもそばにいて愛し合うより空で命を掛け合うほうを選ぶ少女。

戦闘機に乗りつづける、空でいのちを駆けつづける。

醜い世界の一片の真実、本当に生きている瞬間。そして解放。

それをのみ求める純粋性は美しい。

けれども全てに背を向けていることでもある。

この、主人公を好きになれるかどうかでこの物語を好きになれるかどうかが決まるんじゃないかなあ?


周りに完全な壁を作り、大人を嫌い、醜さを批判する。

そしてそれが賛美されている。

けれどもそれを飲み込んで、周りと触れ合って、

変えていくことが成長する事で、大人=悪ではない。

こども=純粋なものではない。

だから、耳を塞いでしゃがみこんで自分の中に入り込んでいる子供の独白が全篇を彩っている様で。

だからこれは、立ち止まったままの小説、

スカイ・クロラへと繋がる、長い長い背景。




大人への怒りを感じて自分に没頭したいなら、最高の小説。


だけれど、突き詰めれば 大人になることに背を向け続ける小説。