1976(昭和51)年、私は中学4年生であった。

 前年、原因不明の胸の苦しさに悩まされ、2学期の大半を欠席。今から思えば、学校嫌いを発端とした身体的症状による、一種の不登校の形だったと言えるかもしれないが、とにもかくにも、卒業は出来たとしても進学は無理ということで結局希望留年し、改めて中学3年生を仕切り直していた。

 しかし留年したからと言って、学校嫌いが治る訳ではない。むしろあまりにも環境が変わってしまったことで、かえって教室の雰囲気に馴染めず、翌年は1学期から欠席日数を増やすばかりとなっていた。それでは進学する為の留年が、意味のないものとなってしまう。何としても、無理やりにでも気力を振り絞って学校へ行く努力をしなければいけなかった。

 そして、私が学校へ行くきっかけのひとつとなったのが、友達を作ること。
 朝教室に一番乗りをした私は、兄に借りて家から持参したモータースポーツ専門誌「AUTOSPORT」の臨時増刊号を開いた。
 私は小学生の頃から自動車レースが大好きで、模型自動車やミニカーをたくさん持っていて、兄や友人たちとレースをしたり、テレビや雑誌などから得られるモータースポーツ情報を細かくチェックしたりしていた。
 その年、そんな私の胸を熱くさせるニュースがあった。自動車レースの最高峰とも位置づけられるF1(フォーミュラ・ワン)レースが、日本で初めて、富士スピードウェイで開催されることになっていた。しかも世界選手権の最終戦として行われ、マクラーレンのジェームス・ハントとフェラーリのニキ・ラウダによるチャンピオンシップポイント争いの決着が見られるということで、ファンの間ではこの上ない盛り上がりを見せていた。
 私が学校へ持っていった「AUTOSPORT」は、丁度日本初となるF1開催の特集号。折からのスーパーカーブームも手伝って、私の周りに一人また一人と同級生らが集まってきてクルマ談議に花を咲かせる毎日が始まり、それをきっかけとして多くの友人を持つことが出来、いつの間にか通学が楽しくなり、結果的に晴れて中学を卒業、高校進学を果たすことに繋がっていった。


 あれから38年……、あの年のF1のハントvs.ラウダがハリウッドの実写映画『ラッシュ/プライドと友情』となって、明日待ちに待った日本公開の日を迎える!
 私の人生に少なからず影響を与えてくれたと言っても過言ではない、あの日、あの時が、今、甦る。様々な思いを胸に、映画館へ足を運びたいと思う。






(写真は1992年に発売されたCD)


1976年F1CD