War and Peace | First Chance to See...

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 2015年1月1日、BBC ラジオ4で トルストイの長編小説『戦争と平和』のラジオドラマが放送された。それも全10話、計10時間の一挙放送。元旦早々、リアルタイムで放送を聴いたイギリス人は一体何人いたのだろう。

 幸いなことに、今ではリアルタイムでラジオにかじりつかなくても、放送から一ヶ月間、BBCのiPlayerのサイト で聴くことができる。とは言え、確かに私はたまたまロシア文学を偏愛していて『戦争と平和』にも馴染みはあるけれど、だからって何が悲しくてロシア語の小説を英訳したラジオドラマなんぞを聴かねばならん。

 ……が、しかし。この長大なラジオドラマに、私が偏愛しているロジャー・アラムがクトゥーゾフ将軍役で出演しているとなれば話は別だ。別だったら別なのだ。これがもし、私が読んだことのないバルザックだのプルーストだのだったらあきらめるが、『戦争と平和』なら大体のストーリーも主要なキャラクターも大体分かっている。史実はどうあれ、小説『戦争と平和』のクトゥーゾフ将軍がトルストイからどれほど英雄扱いされているかも知っている。

 これはもう、ファンの意地で聴くしかないでしょ、聴くしか!

 ということで、頑張りましたよ、全10話、計10時間。ロジャー・アラムのクトゥーゾフという、鼻先にぶら下げられたニンジンの効果は絶大だった。

 原作小説が時系列に沿って進むのに対し、ラジオドラマでは戦争が終わって平和になった時代に、主要キャラクターとその子供たちが集まって、各々の過去を振り返ったり、戦争について子供たちに説明する、という構成を取っている。この構成のおかげで、ラジオドラマがナレーションだらけにならずに済んだが、でもそうと知らない最初のうちは猛烈に戸惑ったのも確か。え、第1話なのにもうこの人とこの人が親しげに話しているよ、っていうかこの子供たちは何者なの、そもそもこの大人数の集まりは何なの?!と。ひとたび脚本の仕組みが分かってしまえばこっちのものだったが、でも私と逆に、ストーリーもキャラクターも全く知らない人は、こういう構成で聴いていて混乱しなかったのかな?

 ともあれ、ロジャー・アラムのクトゥーゾフ以外にも、ジョン・ハートのボルコンスキー老公爵とか、サイモン・ラッセル・ビールのナポレオンとか、ビッグネームのキャスト が並んでいる。それぞれに良かったけれど、くどいようだが私の目当てはロジャー・アラムのクトゥーゾフ。ということで、以下、全10話でクトゥーゾフの登場シーンだけを列挙したので、ロジャー・アラムは好きだけど『戦争と平和』なんか知らないし英語もそんなに得意じゃない、という方がいらっしゃったら参考にしてください。彼の台詞を拾って聴くだけでも、値打ちは十分あります。

 内容が内容だけに、当然、ネタバレ(?)を含みます。何も知らずに新鮮な気持ちで『戦争と平和』を聴きたい/読みたい、という方は——そもそも読まないかw


では、まいります。

第1話
約53分頃に、ロジャー・アラム扮するクトゥーゾフ将軍が初登場。原作小説では、第1部第2篇3章の辺り。ナポレオンを迎え撃つべくオーストリア軍と合流したクトゥーゾフは、ロシア軍をわざとボロボロな格好に着替えさせる。これは、オーストリアの将軍にロシア軍をアテにさせないための策略。クトゥーゾフはオーストリアの将軍に対し、「ゆっくり話されるひとつひとつのことばに思わず聞き惚れるような、言いまわしと抑揚を気持ちよく上品にひびかせて」話す。出番は約3分。

第2話
ジョン・ハート扮するボルコンスキー老公爵はクトゥーゾフの昔なじみの友人であり、老公爵の息子アンドレイはクトゥーゾフの側近だ。約21分頃、アンドレイはロシア軍に合流し、クトゥーゾフと再会する。ここでクトゥーゾフがアンドレイに語る絶望的戦況と戦術は、第1部第2篇14で読める。
約53分頃、クトゥーゾフは再登場。アウステルリッツ前夜の戦略会議で居眠りし、延々続く退屈な会議に心底うんざりして「戦闘の前に必要なものは、たっぷりの睡眠だ」と言い放ち、その場を去る。

第3話
サイモン・ラッセル・ビールなナポレオンが部下たちに激を飛ばしているのに対し、ロジャー・アラムなクトゥーゾフは自分の指示通りに事が進まないことに怒声を上げる。約11分頃。
が、何と言っても第3話の白眉は、アンドレイが果敢に敵陣に突撃し倒れるまでの一部始終を目撃していたクトゥーゾフが、その様子をアンドレイの父ボルコンスキー老公爵に宛てて自ら書いた手紙だ。14分半の時点から約1分間、R・アラムの朗読が堪能できる!

第4話~第7話
アウステルリッツの会戦で大敗した上に負傷したクトゥーゾフは、更迭。よって、この間は出番なし。

第8話
アンドレイとデニーソフ中佐が話しているところに、クトゥーゾフが馬に乗って登場。16分頃から約2分半、原作小説では第3部第2章15-16にあたる。デニーソフはクトゥーゾフにフランス軍の補給船を断つ作戦を提案してゴーサインを貰い、アンドレイはクトゥーゾフに父の死を告げる。先にも書いた通り、アンドレイの父ボルコンスキー老公爵はクトゥーゾフの古い友人でもあったから。にしても、クトゥーゾフに戦場で死んだかもと思われたアンドレイは生きていて、クトゥーゾフからアンドレイの行方不明を知らせる手紙を受け取ったボルコンスキー老公爵のほうが先に死んでしまうなんて、皮肉な運命ですな。
第8話の後半は、ボロジノの会戦。まずはナポレオン側の様子が描かれ、続いてクトゥーゾフの陣営へと移る。47分50秒頃から約2分間、原作小説では第3部第2篇35にあたる。その後、51分20秒頃、クトゥーゾフは断腸の思いでロシア軍の撤退とモスクワ放棄の命令を下す。

第9話
モスクワ、炎上。クトゥーゾフ、出番なし。

第10話
クトゥーゾフは、モスクワに居座るナポレオンを追撃するよう要請されても断り続ける。ロシアの兵士を危険に晒すまでもなく、フランス軍が自滅して退却するのを待っているのだ。これが、15分半頃。
その後、クトゥーゾフの読みが当たり、ナポレオンは全軍を率いてモスクワを離れた。夜中に起こされて報告を聞いたクトゥーゾフは、涙声で神に感謝する。"Russia is saved!" 19分過ぎから約1分半。
が、クトゥーゾフは皇帝らの要請を無視して、逃げるナポレオンを追撃しようとはしない。何故? その理由を、47分半頃からクトゥーゾフが語る。ナポレオンがロシアから去るのであれば、これ以上の戦いは必要ない。「十人のフランス兵に対して自分は一人のロシア兵も犠牲にしない」。原作小説では、第4部第4篇5。
そしてクトゥーゾフの最後の演説を、デニーソフが回想する。49分半から約2分。原作小説では第4部第4編6にあたる。ウラーーーーー!