First Chance to See...

エコ生活、まずは最初の一歩から。


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 ジョセフ・コンラッドの長編小説『密偵』(1907年)を、BBCがテレビドラマ化。各話1時間で、計3話。


The Secret Agent

 『密偵』とかThe Secret Agentとかいうタイトルからハードなスパイドラマを想像するかもしれないが、これはむしろテロリストの話である。なので、かつてこの小説をアルフレッド・ヒッチコックが映画化した際、The Secret Agentという映画のタイトルに『サボタージュ』という邦題を付けたのはある意味正しい——ただ、英語で'sabotage'というと破壊工作とか妨害行為を意味するけど、カタカナでサボタージュと書くと、何だか仕事をさぼって業務の進行を邪魔することみたいだから困ったもんだが。

 そんなことはさておき。

 トビー・ジョーンズ扮するヴァーロックは、しょぼいポルノ店を営むしょぼい一庶民としての顔の裏で、アナキストとしてロシア大使館から金をもらって隠密活動をしていた。と言っても、実際にやっていたのは過激思想のチラシを作るとかせいぜいのその程度。ところがある日、とうとう否応なしに本格的なテロ行為に荷担させられることになる。ヴァーロックに下された命令は、「グリニッジ天文台を爆破せよ」。

 ヴァーロックの妻ウィニーは、ヴァーロックがアナキストっぽい思想を持っていることや、店にヴァーロックを訪ねてくる人たちが同類っぽい人たちだという程度のことは知っているが、まさか自分の夫が警察から目を付けられているような人物だとは夢にも思っていない。むしろ、自分の年老いた母親や、知恵遅れの弟スティーヴィーを邪険にしないで一緒に暮らしてくれる、良い人だと思っている——というか、年老いた母親や知恵遅れの弟のためにも、ウィニーには元下宿人だったヴァーロックと結婚する手しかなかったし、ヴァーロックはヴァーロックでウィニーは自分の裏の顔を隠すには絶好の結婚相手だったが、それは原作の設定で、ドラマではそこまでの裏事情は説明されていなかった(はず)。

 原作の『密偵』を読んで私が凄いと思ったのは、今から100年以上前に書かれた小説なのに、既に「テロ行為とは何か」がきちんと見定められていたこと。テロ行為はどんな理由があろうと絶対に許されないことではあるが、少なくともそれを行う人は(たとえどんなに現実とズレていようとも)本気で何らかの理念を信じ、何らかの理想を求めているのだろう、と、つい考える。が、『密偵』ではそれがない。政治思想について、テロの正当性について、喧々諤々の議論をやったり高邁な理念を唱えたりする人々は登場するが、実際のところはどいつもこいつもアナキストな自分に酔っているだけ、所詮「ごっこ遊び」にすぎない。だから、テロ事件を起こして世界を混乱に陥れた後、具体的に何をどうしたいということもない。

 そんな「ごっこ遊び」で爆破テロ事件なぞ企画されてはたまったものではないが、でも悲しいかなこのほうが世界の実相に近いのではないか、と私は思う。だからこそ、安易に過激思想なぞ弄んではいかんのだよ、ヴァーロック君。映画『サボタージュ』はかなり原作を改変していたが、今回のテレビドラマでは、この先、どこまで原作小説の過酷な展開に沿っていくのか、楽しみだ。
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 イギリスのSF作家J・G・バラードが1975年に発表した小説『ハイ・ライズ』が、トム・ヒドルストン主演で映画化されたのを機に、このたび創元SF文庫で出版された。初版にはもれなくかっこいいトムヒの栞が付く、ということで、私も発売と同時に購入。

文庫本『ハイ・ライズ』

 J・G・バラードは、最近はご無沙汰だったけど、大学生の頃はよく読んでいた。『結晶世界』とか『時の声』とか。『コカイン・ナイト』や『スーパー・カンヌ』といった後期の作品も読んだけど、私が好きだったのはどちらかというと初期の作品群だった。『ハイ・ライズ』を読むのはこれが初めてで、映画の配役に従い、ドクター・ラングにトムヒを、建築家のロイヤルにジェレミー・アイアンズをがっつりイメージしながらページをめくることに。

 離婚したラングは、40階建て1000戸の巨大高級マンションに引っ越してくる。最初のうちは、高級マンション特有の「平和と静寂と匿名性」を堪能していたラングだったが、1000戸すべてが埋まった頃から、マンションの階層——最上階に暮らす、このマンションの建築家ロイヤルを中心とした超セレブと、中間層に暮らすラングたちと、下層階で何となく抑圧されている気分の人たちとの間で、さまざまなきしみが生じてくる。そのきしみは、やがて高級マンションを暴力と荒廃が渦巻く危険な場所へと変えていくが、それでもマンションの住民たちは皆マンションの中に留まり続け、マンションの外の世界と隔絶する道を選ぶ。

 あくまで私見だが、バラードの小説がおもしろいのは、マンション内で進行する破壊行為の描写を読んでいるうち、いつしかそれが3人の心象風景の描写であるかのように思えてくることだ。バラードの「人間が探求しなければならないのは、外宇宙ではなく内宇宙だ」という言葉はあまりに有名だけど、初期の『沈んだ世界』『燃える世界』『結晶世界』の三部作に代表されるような、外宇宙の描写が内宇宙と重なり合う、あるいは共鳴し合う様は、この『ハイ・ライズ』でも健在で、「やっぱりバラードはこうでなくちゃ!」と嬉しくなる。マンションの荒廃が進むから人の心も荒むのか、人の心が荒むからマンションの荒廃も進むのか。ニワトリが先かタマゴが先か、それが問題だ(←またテキトーなことを……)。

 映画版がどうなっているかは知らないが、小説はラングに加え、建築家のロイヤルとテレビ製作者のワイルダー、計3人の視点で物語は進行する。マンションの上・中・下が、そのまま上流/中流/下流、というのは単純すぎる図式に思えるかもしれないが、私が暮らす大層庶民な10階建てマンションでも同じような空気感は確かにあって、そこらへん妙に身につまされたりもした。マンションの総会で、ゴミ置き場に近い低層階の住民たちが害虫の問題を提起する一方、上層階は「これだから、余分に高いお金を払ってでも上の階のマンションを買っておいてよかった」とつぶやく、とかね。ちなみに私は中間階なので、トムヒなラングと立場は同じ。同じったら同じ!
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 数ヶ月前までNHKで放送されていたイギリスのテレビドラマ「刑事フォイル」、私も大好きで毎週楽しみに観ていた。第二次大戦下のヘイスティングスを舞台にしたミステリーだが、殺人事件の謎解きもさることながら、当時のイギリスの世相をうまく取り込んだ脚本が秀逸(今の日本で同じような脚本を書いたら、「自虐史観」と言われて却下されること間違いなし)で、脚本家アンソニー・ホロヴィッツの名前は私の中で要チェック案件となった。「刑事フォイル」の放送が終了した寂しさを紛らわせるべく、彼が書いたシャーロック・ホームズの公式続編『絹の家』まで読んじゃって、私はあまりこの手のパスティーシュに手を出さないから出来不出来は断言しづらいけど、「刑事フォイル」同様、読んでてすごく感じが良かったのは確かだった。

 さてさて、そんなアンソニー・ホロヴィッツが、BBCで「New Blood」とかいう新作ドラマの脚本を手掛けているらしい、と気付いたのは、ドラマの放送が始まってから3週間くらい経った頃だっただろうか。全7話のうち、放送済みの第1話から第3話までを慌ててiPlayerにダウンロードして、何の予備知識もないままあわあわと見始めたのだが——

New Blood

 設定は、現代。イギリス系の製薬会社がインドで行った治験でトラブルが発生。アルバイトで治験を受けた者たちは、その後イギリスに戻っていたが、数年後、事故死に見せかけて次々と殺されていく。そんな製薬産業の闇を、イランからの移民二世で、制服警官だったが洞察力を見込まれて刑事見習いになったばかりのアラシ・サイヤードと、ポーランドからの移民二世で、SFO (Serious Fraud Office=重大不正捜査局)の下っ端スパイのステファン・コワルスキーは、全く別の角度から真相を追いかけるうち、出会うべくして出会い、最初のうちは喧嘩ばかりしていたけれど、少しずつお互いを認め合うようになっていく。

 金もうけ優先な製薬会社による悪質な隠蔽工作も、反発し合う二人の若者の友情物語も、ありきたりのお約束ネタばっかりである。妙に若い視聴者層を意識してるっぽい編集や撮影も、時々ちょっとイタい。うーーむ、アンソニー・ホロヴィッツ、若者ウケを狙いすぎてドツボにハマったか、とかひどいことを思いながら、第2話目くらいまで観ていたんだけど、第3話まで進んだところで、いきなりド派手なアクションシーンの連続となり、そこでようやく気が付いた。「刑事フォイル」や『絹の家』の先入観でつい勘違いしてたけど、このドラマは「移民系の二人を主人公に、現代社会の闇を描く社会派ミステリー」じゃなくて、「若い兄ちゃん二人によるアクション満載のバディものミステリー」だったんだ、と。

 そこで思い出したのが、ITVの「Vicious」 。サー・イアン・マッケランとサー・デレク・ジャコビという超大物を起用しておきながら、すこぶるぬるくてゆるいシットコムで、おかげで私も笑いどころの9割はフォローできたとはいうものの、こんなにゆるくていいのかしら、とも思ったのも確か。が、実はこのゆるさこそが作品のミソなのだ——ゲイ・カップルが主役だからってエキセントリックである必要はない。むしろゲイのカップルが当たり前のゆる〜い日常にとけ込んでいることこそ意味がある。

 同様に、イラン系とポーランド系の若者が主役だからって、社会派ミステリーである必要なんてない。アングロサクソン系イケメンではなく、サイヤード君とコワルスキー君による、陽気なバディものドラマが当たり前のようにあってしかるべきなのだ。

 と、悟りを開いてからというもの(?)、このドラマが一気におもしろくなった。バディものの鉄板ネタとして、二人で殴り合いもするし、二人で敵に捕まって縛り上げられたりもするし、サウナ風呂で乱闘騒ぎをやらかしたりするし、殺し屋に追われて高いビルから真下のプールにジャンプしたりもする。シリアス・ドラマにあるまじきド派手なアクションの連続に、SFOのお偉いさんであるエレノア(演じるはアンナ・チャンセラー!)が部下のコワルスキー君に向かって渋顔で言った台詞がこちら。

"but may I remind you,
this is a serious organization,
this is not The Man From UNCLE."

 わはははは。

 生真面目なサイヤード君は、お調子者のコワルスキー君が自分の妹にちょっかいを出しそうで気が気じゃないし、そんなこんなで揉めてばかりいるものの、第3話の終わり頃には早くも二人で一緒に暮らそうか、という話まで出てくる始末で、あーーもう楽しいったらない! 第2シリーズも製作されるといいなあ。
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