Cabin Pressure | First Chance to See...

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 「Cabin Pressure」とは、BBC Radio4のコメディ・ドラマのこと。MJNエアーという飛行機会社のCEO兼キャビン・アテンダントのキャロリンと、機長のマーティン、副操縦士のダグラス、キャロリンの息子でキャビン・アテンダントの仕事を手伝うアーサーの計4人が、MJNエアーが所有するたった1機の小さいチャーター機(通称「ガーティ」)を舞台に繰り広げる、シチュエーション・コメディである。2008年から第1シリーズが始まり、これまで、クリスマス・スペシャルを含め、第3シリーズまで放送された。各シリーズは、6話で構成されており、1話は約30分。これまでに放送された計19話は、シリーズごとにCDとして発売されているし、iTunes StoreやAudible.com でダウンロードして買うこともできる。

 ……とは言え、英語のドラマなんか、よほど英語のリスニングに自信がなければ、お金を払ってまで聴かないよね? 私だって聴かない。だが、主要キャスト4人のうちの一人がベネディクト・カンバーバッチとなると、話は別だ。別だったら別なのだ。くそう、聴けばいいんでしょ、聴けばっっっ!

 と、半ばヤケクソで、Audible.com からダウンロードしてみたのだが。

 これが、おもしろい。びっくりするくらい、おもしろい。

 私の英語力では、せいぜい3割くらいしか理解できていないと思う。それでも、十分以上に楽しめる。通勤電車の中で聴いていて、一体何度吹き出したことか——それはそれで問題だけど。

 そうは言っても英語でしょ、英語のコメディなんか聴いて分かる訳ないよ、とおっしゃる方へ。大丈夫、英語のドラマを楽しく聴き続けるだけなら、「何を言っているのか」は分からなくてもいい。「誰が言っているのか」さえ分かればいい。つまり、出演者の声をきちんと聞き分けられるかどうかがポイントになる。

 主要キャスト4人のうち、キャロリン役のステファニー・コールは年配の女性なので、彼女に関しては問題なし。残る男性3人のうち、副操縦士のダグラス役のロジャー・アラムは年配の男性で、皮肉たっぷりにわざとゆっくり単語を区切って喋ることが多いから、こちらも分かりやすい。残るは30歳前後の男性2人、機長のマーティンとフライト・アテンダントのアーサーだが、この2人のうちの一人がベネディクト・カンバーバッチ——ということは、はい、もうお分かりですね。英語のリスニングにおぼつかない人間が、それでも「Cabin Pressure」を楽しく聴けるかどうかの鍵は、あなたがベネディクト・カンバーバッチの声をきちんと憶えているかどうかにかかっているのだ。

 ということで、テレビドラマ「Sherlock」を観てベネディクト・カンバーバッチのファンになった方、「スター・トレック・イントゥ・ダークネス」の予告映像を聴いて「きゃーー♡」と思った方、そういう方は是非一度 「Cabin Pressure」を聴いてみてください。

 そうは言っても、お金を払ってまで聴くのはどうもね、と、お悩みの方には更なる朗報です。「Cabin Pressure」待望の第4シリーズが、2013年1月9日午後6時半から、BBC Radio4で始まります(日本時間では、翌日10日の午前3時半)。こちらは、放送開始から1週間、BBCのiPlayerのサイト から無料で何度でも聴くことができます。基本的に1話完結のドラマなので、シリーズ途中からの参加でもほとんど問題はありません。

 このコメディ・ドラマが素晴らしいのは、ただ単におかしくて笑えるだけでなく、どのエピソードも聴き終わって不愉快な気持ちになることがない、それどころかすごく明るくて幸せな気分になれること。イギリスのコメディには珍しく(?)、下ネタもブラックジョークも一切なし。経営者のキャロリンは横柄な絶対権力者だし、副操縦士のダグラスは、若くて頼りなくて背が低いことを気にしている機長のマーティン(背の高いベネディクト・カンバーバッチが演じているので、「マーティンは背が低い」という設定になっていることに最初のうちは気付かなかったんだけど、でもこういうところがラジオドラマならではでおもしろい)をいたぶったり、アホのアーサー(このドラマを聴いているだけだとアホとしか思えないが、実はアーサー役のジョン・フィネモアがこのドラマの脚本を書いている。ケンブリッジ大学卒だっていうし、本当はすごいインテリなんですね)をおちょくることを生き甲斐にしているけれど、いざという時には助けの手をさしのべることを厭わない——というか、実際、多くのエピソードでダグラスはジーヴスのような役回りを果たしていて、「大丈夫、最後にはきっとダグラスが何か利口な手を思いついてくれる」とは、アホのアーサーの台詞だけど、ほんと、そんな感じ。

 こんなドラマ、英語に臆して聴かないなんて、もったいないよ?