百鬼どんどろ、岡本芳一さんの遺作映画『VEIN』渋谷アップリンクXで公開中 | 映画 ヘヴンズ ストーリー 公式ブログ ~ヘヴンズ一家10年日記~

百鬼どんどろ、岡本芳一さんの遺作映画『VEIN』渋谷アップリンクXで公開中


『ヘヴンズ ストーリー』に出演している人形遣い、百鬼どんどろ、岡本芳一さんが亡くなって一年が過ぎた。その岡本さんの遺作といってもいい映画『VEIN―静脈―』が今、渋谷のアップリンクXで公開されている。監督の渡邊世紀さんに請われ、昨日、トークショーに行ってきた。話しの前にはほぼ満席のお客さんと一緒に『VEIN』を観た。スクリーンに映る岡本さんの姿を見てるとまだ生きてるような感覚に陥った。当たり前のことだが皆と一緒に岡本さんの姿を見ている。それが何だか不思議であるようで、嬉しかった。

岡本さんの命日、76日には岡本さんの弟子であり『ヘヴンズ……』にも出てもらった飯田美千香さんが上映後に人形を使って舞台を披露したらしい。14日にはトークゲストとして『ヘヴンズ』に小道具として山崎ハコさんが作る人形を提供してくださり指導もしてくださった人形作家の安藤早苗さんが登壇とのこと。22日まで。是非、皆さん、岡本さんの最後の作品を見てやってください。

                      (瀬々)


アップリンクXの椅子は座椅子のようなソファー

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『VEIN』HP

http://vein-dondoro.jimdo.com/












『VEIN』の渡邊世紀監督




以下は『VEIN』パンフレットに寄せた拙文、参考まで。


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 百鬼どんどろの岡本芳一さんの人形芝居を初めて見たのは2006年の春先だった。長野の駒ヶ根の池のほとりで行われた野外公演だった。まだ雪の被さった南アルプスの山々を背景に桜の木の下で等身大の人形を使って舞踏とも人形劇ともとれる独特の表現、一発でやられた。人形が人間のように見える瞬間があるかと思えば、人形を扱う岡本さんが人形のように見えたりする。荘厳であり神秘的であり妖しさがある。同じ空間の中で変幻自在に生と死が行き交うのだ。僕たちは当時構想中だった『ヘヴンズ ストーリー』という映画の重要なモチーフとして岡本さんに出演をお願いした。岡本さんは心よく引き受けてくれた。

2年後、やっと撮影が始まる。その時、岡本さんの資料として見たのが渡邊世紀監督の映画『人形のいる風景~ドキュメント・オブ・百鬼どんどろ~』だった。2008年、冬の撮影では岡本さんに出ていただけたが、翌年には体調を崩され、お弟子の森田晋玄さんが代わりに出演した。その頃、よく岡本さんが話されていたのがこの『VEIN~静脈』という映画のことだ。監督の渡邊さんは岡本さんの公演に行くたびにビデオカメラを廻されていた。

『VEIN』という演目で岡本さんは新しい挑戦を始めたのだと僕は思っている。それまでの日本的な人形と違い明らかに西洋の、それも少女でありながら退廃とデカダンスが危うく存在している人形。人形師である岡本さんの衣装も白衣であったりとアングラっぽい。せっかく『小町』や『清姫』といった日本的な演目で世界的にも有名になられたのにどうして方向転換されるのか、僕は不思議でならなかった。でも、それが岡本さんの生き方なのだろうと思う。考えてみたら表現者というのは一つの場所に留まりたくないものだ。常に新しい表現に挑む。そしてもう一つ岡本さんの新しい挑戦が、渡邊監督との映画作りだった。僕らの場合は出演者としてのお願いだった。だが渡邊監督とは明らかに共同作業としての覚悟で、この映画を作られたのだと思う。

 2010年7月6日、岡本さんが亡くなられた。

僕が、映画『VEIN~静脈』を見たのは岡本さんが亡くなって以降のことだ。この映画にも岡本さん特有の生と死の狭間を常に行き来する瞬間がよく現れていた。ただ、今までの感じとは何かが違っていた。なんだろう。岡本さんが遊んでいる。そんな気がしたのだ。使われた少女の人形が今までの人形よりも小さいためもあるだろうが、何か人形と遊び、死と戯れているかのように思えた。考えてみたら恐ろしいことだ。そんなぎりぎりのところまで岡本さんは目指していたのだろうか。最早岡本さんの口から、そうだったのか聞くことは出来ない。だが映画『VEIN~静脈』は明らかに死と生の戯れが見られる。死と遊び、死生の狭間を行き来する。同じ演目なのに舞台で見たときは気づかなかった。映画となってはじめて岡本さんの狙いに気づかされた。自ら築き上げた表現と技法を捨て、また新たな地平に挑んだ。そこは危険で魅惑的な場所だ。そして岡本さんは死んだ。もう、あそこから岡本さんは帰ってこない。いまでも岡本さんは、あそこに留まり、生と死と戯れ続けているのだろうか。僕らは映画『VEIN~静脈』を見て、もう一度、そんな岡本さんと出会うことが出来るのだ。