つづきです。
カツヤの母親は,自分が働いている理由について こんなことを 言っていた。
「先生って,子ども産んでも働けるから いいですよね。
私なんて,産後3週間で 働きに 出たんですよ。
だから,カツヤの世話は 母に任せっぱなしで、いまだに おむつの付け方も 知らないんです。
こんなにまで苦労しても働くのは,生活レベルの問題なんです。
私ねぇ,生活レベル落としたくないんですよ。
夏には海外旅行。冬はスノボ。あとゴルフ。
買いたい物は買いたいし・・・。
ほら,バブリーな時代も経験しちゃってるでしょ。」
それらは,彼女を 見ただけでわかる。
ブランド物のバッグ,金ぴかのアクセサリー,日焼けした肌,真っ赤な口紅,歳の割に若作りな格好。
「でもね,反面 カツヤには 悪いことしてるなぁって 思うんですよ。
せめてもの罪滅ぼしに,欲しがる物は 何でも 買ってあげちゃうんですよねー。
ね,先生。その気持ちわかるでしょう?」
うーん,気持ちわかるけど 理解は できんなぁと 思いつつ,
『子どもを駄目にするのは 簡単だ。欲しがる物を 欲しがるだけ 与えればいい。』
という 格言を思い出した。
でも,私は 彼女に助言できるほどの人生経験もないし,年齢も若い。(当時 教職2年目)
「そ・・・そうですねぇ・・・。」
苦笑いするだけで 聞き流した。
「カツヤには,”勉強は,努力して それでも 出来ないのなら しょうがない。
でも,何もしないで出来ないのは許さない”ってよく言ってるんです。
先生も そう思いません?」
こんな言葉もくり返していた。
カツヤの 勉強時間は,母親が帰宅する 8時以降で ある。
1年生の子どもは もう寝る時間だと 思うのだが,
それから テストの復習・家庭学習用の問題集等の 学習を始める。
カツヤは 窮屈さを感じながらも,”ガンバッテ”いるらしい。
あるとき,算数の文章問題に 四苦八苦しながら、カツヤが こんなことを言った。
「できないのは,努力が少ないからなんだってー。
お母さんが言ってたよ。
先生,本当にそうなの?
おら 頭がパンクしちゃうぞ。」
…もう少し 続きます。