10月3日に第10代財務大臣の中川昭一氏が亡くなりました。アメリカのビジネス界で異彩を放つ現役コンサルタントが送る躍動感あふれるビジネス-Shochan 実をいうと、今から21年前に私は中川氏とお会いしたことがあります。その当時、ジョージタウン・フォーラムというジョージタウン大学と関係がある、自民党の若手国会議員を中心とした団体の立ち上げのアルバイトをしていたのですが、そのパーティー会場には多数の当時の自民党の若手議員が来られていて、中川氏はその中でもとても目立っていました。そういえば、今首相の鳩山由紀夫氏や、その弟の鳩山邦夫議員なども来ていました。当時は「国際化」というのがはやり言葉で、多くの国会議員が外国人の秘書なども抱えていました。そのPARTYもマンスフィールド元駐日大使や、ジョージタウン大学の教授で元国連大使も来ていました。私は八幡氏というその組織の発起人で、元外務省官僚の謎の人物の付き人をすることになっていたのですが、めちゃくちゃお腹がすいており、ついついお寿司食べ放題に惹かれ、国会議員のアメリカ人秘書たちと立ち話をしながらお寿司にむしゃぶりついてました。そこを上司に見つかり、会場の裏に連れて行かれ大激怒された話は確か以前ブログに書いたと思います。その時は耳を強くひっぱられたのでエジソンのように耳がしばらく聞こえなくなりました。今思えば懐かしい思い出です。


当時大学生だった私は政治に興味があったので、いろいろと話を聞いていたのですが、八幡氏に、「血筋がよくないと国会議員にはなれないし、日本の政治は動かせない」と言われ、そのPARTYではまさにそれと直面した感じでした。そういえば八幡氏は中川議員のことを「しょーちゃん」と親しげに呼んでいました。当時の若手国会議員は中川氏だけでなく、鳩山議員など、ほとんどが二世議員で、私から見ていても手が届かないような存在でした。でも当時、「それなら貴族政治と変わらないので、民主主義っていうのはそういうものなのかな…」と漠然と疑問を感じてアメリカ留学に出たのを覚えています。アメリカも確かにブッシュ家を代表するようにプロの政治家もいますが、今回オバマ氏のように、政治家とは無縁の家族から大統領が出てきたりするので、日本ほど閉鎖的でない印象を持ちました。ただこれは、国のカルチャーの違いもあると思います。日本は形が出来上がるとなかなか崩さないカルチャーがありますが、アメリカは常にスクラップ&ビルド(崩して作り直す)というカルチャーがあるので、ワークしなければ人でも体制でもどんどん変えていこうという伝統があります。前回のブログでアメリカの方が「やり直しが効く」と書いたのも、同じ理由です。確かに社会で活躍をするのには良い環境でエリートを育成する必要があります。但し、血族とかバックグラウンド以上にその人の「力」に対する正当な評価がアメリカではされるカルチャーがあります。中川氏は、家族の意向もあり、一度慶応大学に合格するも東大を受けなおし、東大を卒業しました。エリートの国会議員家族にとって東大を出るということが重要だというようなことを言われたというようなことがどこかに書かれていました。レールがひかれた社会では血筋、学歴が重要になりますが、世の中を変革させるためには、血筋や学歴以上のリーダーシップ力が必要になります。


さて、父親の中川一郎議員も札幌のホテルで怪死したのですが、中川昭一氏もまだ若く、しかも総選挙で落選し、失意の中で亡くなってしまわれたのではないでしょうか?G7でのインタビューに酔ったような姿で登場したことがスキャンダルになり、大臣辞任、選挙で落選、にまでつながります。政治経験豊富で血筋も良いエリート議員でもたった一回の失敗で崩れてしまったのです。良くリーダーになると全てが明らかにされるといいます。発言内容や行動が逐一チェックされます。これは当たり前のことであり、リーダーというのはそれだけ責任が大きなことなのです。以前ジェフリーアーチャーの小説で、エリート議員が気が緩んで女性関係で問題を起こしてしまう話がありました。リーダーになると誘惑も多いのですが、それ以上にその責任の重さを感じる必要があります。リーダーがそのIntegrityを保つには以下の3原則が重要だといわれます。

1)CONVICTION: 自分がリーダーである以上、その国や組織をビジョンした状態に持っていく責任があり、その責任の重さと自分自身のコミットメントの高さ故に必然的に行動に一貫性がでてきます。

2)CREDIBILITY:メンバー(国民)は自分を信頼したからリーダーにしたのであり、その責任と自分のキャラクターに対する信頼を壊すような行動は取らない。

3)CONNECTION:リーダーとは人と繋がる力が強い人であり、孤立しません。そしてモラルが高く同じビジョンを示す人たちと切磋琢磨するので、そのCONNECTIONを破るような行動はとりません。

こういったことはリーダーに成る人は良く知っているのですが、なかなか誘惑に勝てないといいうのが人間の弱さです。アメリカでも国会議員が毎年何らかのスキャンダルで消えていきます。Integrityを保つことは簡単ではないのです。


中川氏は、「日本を守るために日本人が考えておくこと」という本を出しています。色々と問題点の指摘などはるのですが、読者が自分のものとして能動的に動けるようなインスピレーションのある本ではないようです。中川氏は父親の一郎氏同様にタカ派といわれていますが、その割には明確な「強い日本」というビジョンを人々に示すことが出来なかったようです。このビジョン不足というのは鳩山首相が党首討論で麻生元首相がビジョンがないと指摘していましたが(鳩山さんの言うビジョンの「友愛」も概念的であり、ビジョンとして具体的に人々が答えられる水準になっていない気がしますが…)今の日本の問題はまさに魅力的なビジョンが立てにくいことではないかと思います。それは政治家の優秀さということではなく、難しい時代にきているということです。戦後であれば復興を目標にでき、次には経済成長(所得倍増計画など)など、人々を一丸にできる目標というのを掲げることができました。企業なら競合や売り上げなどを目標にできますが、政治の場合は非常に難しい状態だと思います。なので中川氏が唱えるやらなければならないことも、共感はされたにせよ、オウナーシップ(自分たちがそれを実現するのだという意欲)までは発展しないような気がします。内政が弱くなると戦争に走るということを以前聞いたことがありますが、国民を団結させる思想やビジョンというのは危機的な状況にでもならないと難しいのです。それ故、ビジョン力は重要になります。


日本も田中角栄氏など、エリート出身の議員でない人も過去はいました。とういうのも、目的が明確である場合は、誰もがその目的に向かって力を出すことができるので、具体的にアクションができるリーダーにもチャンスがまわってくるのです。危機的な状況の場合も同様に実力にあわせてステップアップできる状態になります。でも今の日本をみていると、環境の大きな変化は起きそうもないので、しばらくは「プロの政治家」が政治を動かす体制が続くような気がします。


このようなビジョン不足は日本の大企業や、個人レベルでも見え初めてきています。これからの時代はビジョン力が重要になります。なので、若いときからビジョン力を鍛えておくことはとても重要だと思います。ビジョン力を鍛えることに興味がある人はCVSの応募ミッションにトライしてみてください。

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