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 件のジャケットは、亡くなった祖父のものであった。
 祖父の荷物を整理していたときに、母親が
「これ、着たらいいんじゃない?」
 と引っ張り出したものだった。
「うん、いいんじゃない」
 と、僕もまんざらでもない顔で袖を通した。
 祖父が若い頃に着ていたというだけあって、美的価値はどうか知らないが、骨董品的価値は充分にあったようだ。
 その骨董品を、クラシックなおしゃれアイテムとして最大限に活用したつもりである。
 ウォークマンスクエアーを聞きはじめた僕には、周囲の女子高生の声が想像できるようだった。
「やだ、あの人、すごくカッコいい」
「本当! ジャニーズじゃないの」
「ナウーい!」
 せっかくの東京に来てまで、夢想していたのである。
 ともあれ、新宿で一度乗り換えて、とうとう僕は中野の駅に降り立った。
 無事アパートにたどり着き、契約も済ませることが出来た。

 つづく