『微酔なる君との戯れを』(番外編)と、題して…。


今回は、沖田さん目線で描いてみましたハート


しかし…もっと状況説明を上手く書けるようになりたいなぁ…ガクリ(黒背景用)


※この番外編は一幕の続きで、多少、二幕のネタバレになっているシーンもありますので、二幕を読み終えてからご覧ください汗



『微酔なる君との戯れを』

↑一幕、二幕はこちらから読むことが出来ます☆




【微酔なる君との戯れを】番外編~前編~



土方さんと共に屯所に戻って来た私は、すぐに金華糖を探し始めた。


――あの方に届ける為に。


(…この間頂いた金華糖は……確かここの棚に…)


と、その時。


「総司」


開け放たれた襖の向こうから私を呼ぶ声がして振り返ると、永倉さんがこちらに歩み寄って来るのが見えた。


「ちょっと前に、お前宛に届け物があった」

「届け物ですか?」

「何てったかな…なんとかってという陶芸家の弟子だというお客人が…」

「茶碗だ!」


永倉さんの言葉を遮るように言い返して、私は言いよどむ永倉さんを余所に自分の部屋へと急ぐ。


(もう、仕上がったんだ…)


息を弾ませながら自分の部屋へ戻ると、向かって右側の隅にちょこんと置かれた風呂敷包みを確認した。


「……こんなに早く出来上がるとは思わなかったな」


風呂敷包みを解くと、二つの桐箱に一つずつ納められたお茶碗を交互に見やり、急いで持参する分の桐箱のみを風呂敷で包み込む。


(気に入って貰えるだろうか…)


不安に駆られつつも、それを胸に抱えながら偶然廊下を通りかかった原田さんに出掛けることを告げ、屯所を後にしたのだった。



揚屋に辿り着いて間もなく。


置屋に戻られたことを確認した私は、彼女の元へと急いだ。


玄関付近に近づいた途端、中から言い合うような声がして思わず耳を傾ける。


「番頭はん!これ中身、何やったんどすか?」

「わてがこっそり飲もうと思うとった冷酒や…」


(何かあったのだろうか…)


それから間もなくして置屋の暖簾をくぐったその時、


「危ないっ!!」


番頭さんの叫び声とほぼ同時に抱えたままの風呂敷包みを花里さんに手渡し、倒れ込もうとしていた彼女の体を抱え込んだ。


「沖田はん!」

「ふぅ……間一髪でしたね」


後ろから抱きかかえるような格好で倒れ込んだままの彼女の態勢をゆっくりと動かして、胸に抱き寄せる。


「沖田はん、助かりましたわ!ほんまにおおきに…」

「いえ、間に合って良かった」

「大丈夫やろうか…」


心配そうに見下ろす花里さんと番頭さんを見やって、私は彼女をそっと抱き上げた。


「気を失っているようなので、このまま私が部屋まで運びましょう」

「そうしてくれはりますか、すんまへん…」


風呂敷包みを抱えたままの花里さんの後ろを歩き出し、これまでの経緯を語りだす花里さんの話に耳を傾ける。


「と、いうわけなんどす…」

「そうだったのですか…」

「お酒も飲めへんのに、結構飲ませてしもたさかい…心配や」


しばらくして部屋に辿り着くと、花里さんは風呂敷包みを足元に置いて行燈に火を灯し。次いで、布団を敷きながらまた口を開いた。


「沖田はんもご存じやと思われますが、今日はほんまに大変やったと思うんどす。それなのに、わてときたら…」

「仕方がありませんよ。間違いだったのですから…」


敷布団の上に彼女をそっと横たわらせると、花里さんがその上に掛け布団を被せながら言いづらそうに呟く。


「あの、沖田はん…」

「何でしょう?」

「失礼ついででなんどすけど…もう少しでええから看ていて貰えまへんか?」


その申し訳なさそうな瞳と目が合い、私は苦笑しながら頷いた。


「引き受けましょう」

「良かった。秋斉はんも番頭はんもまだ常客相手に忙しいし、わてもまだやることがおますさかい…」


そう言って花里さんはいったん部屋を後にして、再びお盆を持って戻って来ると、それを枕元に置いて言った。


「これ、酔い覚ましの薬なんどすが…意識が戻って具合が悪そうやったら飲ませてあげて下さい。ほな、あとは頼みましたえ。用事が済んだらすぐに戻りますさかい」

「はい。お任せ下さい」


こちらに一例してゆっくりと襖を閉める花里さんを見送って、再び彼女の寝顔を見つめる。


(…可愛いなぁ……)


当たり前だけれど、寝顔を見るのは初めてだった。その寝顔は、今まで私が想い描いていた以上に可憐で……。


いつの間にか見つめる視線は、艶やかな黒髪から、ほんのりと赤くなっている頬、柔らかそうな唇へと移りゆき……次いで、その可憐な唇に触れてみたくて無意識に手を伸ばしていた。


「……っ……」


(………!!)


次の瞬間、目を覚まし始めた彼女に驚き、掛け布団に落ちた手を誤魔化すように布団を掛け直す。


「あ、気が付かれましたか」

「えっ……?」


すぐ傍で薄らと目を開ける彼女を見つめながら苦笑していると、


「誰れすか?」

「……えっ?」


目を凝らしながら私の顔を覗き込もうとする彼女の顔が徐々に近づき、次の瞬間、その温かい手が私の頬に触れ、腕に触れた。


「あぁれ?」


指先が熱を帯び始めると同時に、彼女の吐息が私の前髪を揺らす…。


「――んん?」

「だ、大丈夫ですか…」

「お、おきた…さんっ??」


重たそうな目蓋を必死に開けようとする彼女と目が合って、思わず布団を掴む手が震え始めた。


「だいじょうぶれすぅぅ」
「大丈夫には見えませんけど…」


(まずいな…これは……)


「酔っておられるようですね…」

「あははっ、そんなことあるわけないれすぅよぉ~。ひっく…」

「思いっきり、酔っぱらっていますよ…」


(可愛過ぎる……)


そんな風に思いながらその色っぽい瞳を見つめていた次の瞬間、私は彼女に抱き寄せられていた。


「おきたさん…らいすきっ…」

「えっ…」


その柔らかな温もりと、不意に囁かれた言葉が私から理性を奪い始める。


「……参ったなぁ」


酔っておられるとはいえ、これがもしも彼女の本心ならば…。


――どんなに嬉しいか。


「沖田…さん…」

「……はい?」

「もう少ぉしだけ、こうしていてもいいれすか…」

「……………」


けれど、今の私にとって彼女は眩しすぎて。


いつも、この温もりに触れたいと思いながらも、そうすることに躊躇いを感じ。


私は、このまま彼女を奪いたい衝動に駆られながらも、ゆっくりと首に回されていた腕を絡め取った。


「それが貴女の本心なら、私は躊躇いませんが。今は――」

「え、なんれすぅて?」

「あ、いえ……何でもありません」


(やはり、酔っておいでだ…)


彼女の瞳を見下ろしながら、自分の欲求を必死に閉じ込めていると、急に顰め面をしながら彼女がゆっくりと上体を起こし始めた。


「うっ……」

「花里さんから受け取りました」


そう言って、先ほど花里さんから預かった薬と湯呑をお盆ごと手繰り寄せる。


「酔い覚ましの薬らしいです」

「酔いじゃまし?」


彼女は、何かを思い出すかのように眉間に皺を寄せて言った。


「花里さんは、貴女にお茶と間違ってお酒を飲ませてしまったと、仰っていました…」

「お酒を……」

「本当は、貴女を看ていたいと仰っていましたが、生憎まだ手伝いがあるとかで。それで代わりに私が……。それと、もし体調が優れない場合はこの薬を飲ませてやってくれと…」


言いながら薬の包を手渡すと、彼女は手の平の薬と私を交互に見やる。


「私、お酒を飲んじゃったんれすか」

「そういうことらしいですよ」
「じゃあ、その…つまり……私、もしかして酔っ払っちゃってたりしてるんでしょうか?!」

「さっきからそう、言っていたのに…」


思わず苦笑する私を見上げ、彼女は顔を真っ赤にさせながら瞳を潤ませた。


「うぅ……ごめんなさい…」

「いえ、貴女は何も悪くない。間違いで飲めないお酒を飲んでしまったのですから……それに、花里さんの代わりも立派にこなしていたと聞きましたよ…」


私は慰めるようにそう言って薬を飲むように促すと、彼女は少し眉を顰めながらも薬を口に含み白湯を飲み干した。


「でも、どおして…沖田さんがここに?」

「これを渡したくて。本当は、甘い物でも届けようと思っていたのですが、これが届いていたので…お菓子をそっちのけに急いで駆けつけました」


置屋を訪れてからのことを簡潔に説明すると、彼女はなおも恥ずかしそうに俯きながら静かに口を開く。


「沖田さんが私を…」

「はい。重くはありませんでしたよ」

「……っ……やっぱり、私にはまだ無理だったんです。彼女の代わりなんて…」

「そんなことはありませんよ、貴女はいつも頑張り過ぎるくらい頑張っておられる。それに私も…貴女の笑顔に何度も元気づけられています」


(…素直な気持ちとはいえ、正直に言い過ぎたかな……)


照れる私とは裏腹に、彼女の表情は曇ったまま。


やがて、涙を零しながら堰を切った様に言い放った。


「でも、でもっ!芸事に関しても、接客にしてもおんぶに抱っこ状態だし……酔ったお客さんから触れられた時も、」

「ええっ!?」

「菖蒲さんや花里ちゃんは、やんわりと跳ね除ける術を身につけているのに、私はどうしてもそれが出来なくてすぐ顔に出ちゃうし…」


(どこの不逞の輩がそのようなことを……)


「……そんな事があったのですか」


少し怒りを覚えながら驚愕する私に、彼女はなおも詰め寄ってきて。


「そうなんですっ!!どぉして男の人っていっつもああなんです?!」

「え、あ…その…まぁ、それは男の性というか。でも…」

「まさか、沖田さんも女の子の肌に触れたいとか思ってるんじゃっ…」


その迫力に気圧されながらも、間近に迫って来た彼女の下唇に触れてそれを押し止めた。


「……私は、好いた人以外に興味はありません」


彼女は我に返ったように息を吸って大きな溜息をつき、「すみません」と、呟く。


「……私、さっきから何をやっているんでしょうね」

「いえ、逆に嬉しいです…」

「えっ?」

「――貴女の弱い部分も知ることが出来たので」


きっと、日頃からいろいろな想いを抱えていたのだろう。


酔った勢いとはいえ、弱い部分も曝け出してくれていることがなんだか嬉しくて。私は落ち込んだ様子の彼女を見つめて、次に緊張する手で風呂敷を解き始めた。


「少し、酔いも覚めてきたようですね。顔色も良くなってきた」

「え、あ……はい。あの、それは?」

「いつだったか、二人で陶芸家のお店へ寄ったことがありましたよね」



――あの日。


非番中だった私は、お使い帰りの彼女と出会い、二人でとある陶芸家の店へと足を運んだことがあった。


私の隣で、数々の陶芸品に目を輝かせていた彼女がとても印象的で…。


中でも、変わった柄の茶碗や、花柄の茶碗を食い入るように見つめていたあの横顔が忘れられず……後日、彼女に内緒でその茶碗を手に入れようと考えていた。



それから、数日が経ったある日の午後。


あの茶碗を手に入れる為に、再び非番を利用して店を訪れた時のこと。


『あの、このお茶碗を頂きたいのですが…』

『へぇ、おおきに。お一つで?』

『え、あ……』


(どうせなら、自分の分も…)


そんなふうに思っていた時、店主が微笑みながら口を開いた。


『沖田様。宜しかったら、ご自分の手ぇで作ってみまへんか?』

『え、つまり…陶芸に挑戦しろと…』

『そうどす。お嫁はんの分と、ご自分の分と…』


(…お、お嫁はん…か…)


『手作りの夫婦茶碗、喜ばはると思いますえ』


店主は、この間訪れた私達を覚えていたらしく、彼女のことを私の女房だと勘違いしていた。


『……もしかして、嫁はんちゃいますのんか?』

『え、いえ………女房です』


(…言ってしまった……)


『ほなら、決まりでんな』


逸る気持ちを必死に抑えながらもはっきり答えると、店主はさらに満面の笑顔で私に微笑む。


『しかし、陶芸など…やったことがありませんし…』

『わてが手伝いますさかい、どないでっしゃろ』

『……そうですね。では、せっかくなので挑戦してみることにします』


それから私は、何度かその店に通って陶芸に挑戦し続けた。


そして、やっと形になってきたところでようやく本格的な茶碗作りに取り掛かり、あとは出来上がりを待つばかりとなっていたのだった。



(今夜、渡せるとは思ってもいなかったが…)


「開けてみて下さい」


彼女は差し出された桐箱を受け取ると、ぎこちない手で蓋を開け始める。私は、緊張と不安に駆られながらもその反応を待っていた。


「沖田さんの手作り…」

「……はい。初めて挑んだので、あまり上手に作れなかったけれど…」

「嬉しいです!とっても…」

「正直、刀以外の物に触れるなんて思ってもみませんでした…」

「……本当に、ありがとうございます」


桐箱の中からお茶碗を取り出して、顔を綻ばせる彼女の顔が可愛くて。喜んでくれていることが、嬉しくて。


「ずっと、大切にします…」


「……良かった」


安堵の息を漏らしながら胸を撫で下ろす。次いで、陶芸に挑戦した時のことを話し始めると、彼女はくすくすと笑いながら楽しそうに聞いてくれた。


時には、眉を顰めながら熱心に。


時には、お腹を抱えながら笑う顔も可愛くて。


穏やかな笑顔も、優しい声も…。


今は、私だけに向けられている。


私の作った茶碗を胸に抱えているその仕草も、嬉しそうに見つめる瞳も、微笑む唇も。



――全てが愛おしい。



(……いつの日か。この笑顔を独り占め出来る日が来るだろうか…)


私は時許す限り、その柔和な笑顔に包まれていた。




【後編へ続く】

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~あとがき~


お粗末さまどした涙


書いちゃった……思ったとおりに汗番外編だから、もう好きなように(笑)沖田さんの気持ち。あげな感じかどうかはもう、全くの私の妄想と願望でしかありまへんきらハート


後編は、屯所内での二人!!沖田さん目線で描くとどうなるやらキラキラ


んでもって…微酔イベが終わってしもて、ちと寂しいわたす。


微酔イベの感想も、たくさんいただけて…。「またやって!」とか、「沖田さんは一推しじゃないけど、良かったよぉ!」とか思って貰えたことも、ほんまに嬉しかったです。


(●´ω`●)ゞ


そして、この前の記事でも載せましたが!てふてふあげはさんのブログで、二幕のスチル以外に、沖田さんと主人公ちゃんの寄り添った新たなイラストもUPされています!むふふな二人も素敵でしたよ♪


『紙の上の喜・怒・哀・楽』

↑こちらをクリックして下さい。


そして、本家イベは三幕公開!!沖田さんはまだ来てくれへんけどなくあと、あと、二幕の慶喜さんと高杉さんが来ないよぉぉほろり高杉さんも読みたいし、慶喜さんが来てくれへんと、三幕も読めへんやんかぁ…。


皆はんはどないですか?三幕も素敵そうやもんねぇ~!


今回も、遊びに来て下さってありがとうでしたアオキラ