やっと、プレスリリースされました。

11月9日にイオンエンジンに異常が発生した「はやぶさ」を地球に帰還させる「裏技」運用が決定しました。詳細は下記を参照ください;

http://www.jaxa.jp/press/2009/11/20091119_hayabusa_j.html

何用あって月世界へ

何だかよくわからない人のために解説しよう。

「はやぶさ」はイオンエンジンをA,B,C,Dの4基搭載しています。Aは打ち上げ直後に不調になったため、ほとんど使用していません。B,C,Dはそれぞれ1万時間以上またはそれに近いぐらい運転され、中和器と呼ばれる部分が劣化してきています(自動車のエンジンオイルが汚れてきたという例えがいいかもしれません)。

この中和器の劣化のために3つのエンジンは地球帰還に必要なパワーが出せなくなってしまいました:前回のプレスリリースは最後の1基のCエンジンがとうとう劣化してしまった、というものでした。

でも「はやぶさ」運用チームは諦めませんでした。中和器劣化の原因は長い時間運用したことが原因です。まてよ、Aエンジンは不具合によってほとんど使用されていないではないか;つまりAエンジンの中和器は劣化していないはずです。イオンエンジン1つ1つでは完全ではないけれど、動かせるエンジンと使ってない中和器を組み合わせれば、必要なパワーが出せるのではないかということに気付いたのです。

早速、いくつかの組み合わせで実際に試験をしたところ、「Bエンジン」と「Aエンジンの中和器」で1つ分のエンジンの役目が果たせることが分かりました。この他にもパワーの出る組み合わせは残っていますが、Cエンジンはパワーは小さいけれど単体でも動かせるので「温存」することにしました。

すでに、12日ごろから帰還運用は始まっており、すでに1週間以上安定に運用が続いています。まだ、これから帰還まで2000時間は動いてもらわないといけないけれど、何が起こるかわかりませんので、慎重にエンジンの調子を監視しながら来年の6月まで運用を続けます。

記者会見の様子は下記レポートをご覧ください;

http://smatsu.air-nifty.com/lbyd/2009/11/post-1cd1.html

追記;試行錯誤でこのアクロバティックな運用が考えだされたと読めるように書いてしまいましたが、上記、記者会見の質疑応答を読んでいただけばわかるように、この運用は「想定内」の運用でした。設計段階から、まさかの場合にこの運用ができるような電気回路構成にして搭載してあったようです。