Banbi通信 VOL.289 | 初鹿明博オフィシャルブログ Powered by Ameba

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消費増税…与党は軽減税率を検討
軽減税率を導入してはいけないこれだけの理由!

 再来年の4月から消費税が10%に引き上げられることが決まっていることはご承知の通りですが、その引き上げに合わせて、一部の税率を低くする軽減税率の導入が与党内で議論されています。
 当初、財務省はもちろん自民党内も軽減税率の導入には否定的でありましたが、安倍執行部は、連立のパートナーの公明党の強い求めに屈するように国会閉会後の内閣改造による人事で、軽減税率導入に後ろ向きであった野田毅・自民党税制調査会長を更迭して、軽減税率導入に舵を切りました。
 この背景には、先の国会で成立したことになっている安保関連法制、特に、集団的自衛権行使容認に否定的だった公明党が、この安保法制に賛成することとバーターになっているのは明らか。このような政党間の思惑で間違った政策を進めることに強い憤りを感じます。
 私は民主党が消費税増税を決める議論をしている時から、我が国の制度では複数税率を導入してはいけないと主張し続け、その当時の民主党の決定でも、低所得者対策は軽減税率ではなく給付付き税額控除で行なうことになっていました。その決定もいつの間にか有耶無耶になり、給付付き税額控除の検討が政府与党内で行われた形跡もないまま、低所得者対策にならない軽減税率が進められることになっていますが、私は軽減税率の導入は安易で最も愚かな制度であると考えているので、導入には大きな声で反対を唱えます。
 以下、軽減税率を導入してはいけない理由を説明します。
 まずは導入の目的です。軽減税率は消費税の逆進性により、所得の高い人よりも所得の低い人の方が税金の負担割合が高くなるから、それを解消するための低所得者対策は取らないとならないということから始まっています。つまりは、低所得者対策として軽減税率を導入するのだという主張なのです。
 これは、対象品目をどうするかによって大きく異なりますが、どのような物品を対象にしようと逆進性を解消することにはつながりません。
 特に、現在、与党内で検討されている食料品、特に、生鮮食品に限ることになれば、逆進性の解消どころか逆進性を助長することに繋がってしまいます。
 なぜなら、税率が低くなる生鮮食品を食べる割合は所得の高い世帯の方が高く、所得の低い世帯ほど加工食品、例えば、インスタント食品や冷凍食品を使う比率が高いからです。
 また、一人暮らしの方など、家で料理をするよりもスーパーなどで売っている惣菜を買った方が無駄もないし、安上がりだと考える方が多いのが現状でしょう。これも、加工されているのですから当然低い税率の対象とはならないとなると全く逆進性対策にならないということはご理解いただけると思います。
 それなら対象品目を拡大して食品全部にすれば良いという主張もあると思いますが、対象品目を拡大すれば、減収となる金額も大きくなり、税率を上げる意味が薄れてしまうので、拡大には当然慎重にならざるを得ません。かといって、米や野菜が普通の税率なのにインスタントラーメンの税率が低いのは国民の理解を得られないと考えます。
 よって、低所得世帯の生活実態を考えた時に、軽減税率で逆進性解消は難しいのだと言わざるを得ません。
 そして、対象品目を何にするかを決めるに当たって、絶対に新たな利権が生まれてしまうという大きな問題もあります。
 どこの業界も自分達の扱っているものを低い税率にしてもらいたいと思うのは当然のことです。そうなると、対象に加えてもらえるように決定権のある政治家に政治献金などして働き掛けたり、財務省の官僚の天下りを受け入れたりするようになっていくことは目に見えています。現在の我が国の政治風土や政策決定の過程などを考えるとこの利権化は必ず起こると私は危惧をしています。
 この象徴的な業界は新聞業界で、新聞を軽減税率の対象に加えてもらいたい新聞業界が消費増税を批判する記事をほとんど書かないように、報道の中身まで手が加えられるようになってしまって良いのでしょうか。良いはずはありません。
 以上のように、導入目的の逆進性対策や低所得者対策には全くならずやってはいけないのです。むしろ、低所得者対策なら毎月食費に5万円かかることで計算して、3%増税分で1500円、12か月で18000円になるので、単純に年に2万円を現金で支給した方がよっぽど逆進性対策になると思います。(現金給付には別の問題点があるので積極的には進めたいと思っていませんが)
 さて、問題点はこれだけに留まりません。むしろ、私が軽減税率導入反対の際に言い続けてきたことは、現行の制度を前提とすると、税制の基本である公正性が大きく損なわれてしまい、消費税という制度によって得している人が更に得してしまい、損をしている人がより損をすることになってしまうからです。
 消費税は我々消費者が窓口で支払った税金が全てきちんと国庫に納付されている訳ではありません。GDPから試算した国内消費に対して税額を掛けた金額と実際に事業者から納税された税額との間に1兆円以上のかい離があります。
 なぜなら、現在の消費税の納税義務者は事業者であり、売り上げによって免税事業者がいたり、仕入れの際に支払った消費税の額と消費者から預かった消費税額を差し引いた額を事業者が納付することになっているのですが、簡易課税制度の対象となる事業者はあらかじめ決められたみなし仕入れ率が決められており、それに基づいて税額が決まるため、実際に消費者が支払った税額との間でかい離があるからです。
 このような制度が維持されたままで税率が上がれば、得する人はより得し、損する人はより損をする。しかも、税率が複数となってしまったら、実態に沿うようにみなし仕入れ率を決めることは不可能で、あくまでもこうであろうというフィクションを前提とした制度となってしまい、とても、公正性が保たれているとは言い難い制度になると考えます。
 それを解消するためには複数税率を導入している欧州諸国のようにインボイスを導入する必要があるのですが、中小業者や小売業者などは事務量が多く煩雑になり導入に反対しているため、その導入は難しく、結局、いい加減な制度が維持されたまま、軽減税率の導入となってしまいそうなのです。
 税は公平で公正でなければなりません。何となく税金が安くなるならいいかなと思うでしょうが、それによって公正性が損なわれてしまったら元も子もありません。
 そして、もっとも懸念しなくてはならないのは軽減税率を導入することによって減収となるのですから、元々想定していた税額を確保出来なくなるため、何らかの方法でその穴埋めはしなくてはなりません。結果、更なる増税につながる可能性が高くなるのです。軽減税率を導入したら、数年後にその穴埋めのために12%、15%への引き上げが必要だなどという議論が浮上しかねないということも忘れてはいけません。
 目先だけを考えて、軽減税率いいじゃんと騙されないようにしていただきたいと思います。