第32回 足唱コンサート | 孤独な音楽家の夢想

第32回 足唱コンサート

「第32回 足唱コンサート」市民プラザ音楽祭 2017

【日時】6月4日(日)開演14:00

【会場】足利市民プラザ・文化ホール

【出演】合唱:足利市民合唱団

    ピアノ:田部井美和子

    指揮:初谷敬史

◇オープニング

 森義八郎:「足利節」(野口雨情 作詩)

◇第一部

 飯沼信義・平吉毅州 編曲:混声合唱による日本の四季『朧月夜』より

 「夏は来ぬ」「茶摘」「椰子の実」「ずいずいずっころばし」「砂山」「ふるさと」

 演出:田部井美和子

 アナウンサー:小林豊・二宮美奈子

◇第二部

 パレストリーナ:『ミサ・ブレヴィス』より「キリエ」「グローリア」

◇第三部

 佐藤眞:混声合唱組曲『蔵王』(尾崎左永子 作詩)

 

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 僕のふるさと=足利で、パレストリーナが響くことは本当に嬉しい。しかも、僕の手によって・・・、そして、長年、僕と音楽を共にしている足利市民合唱団と一緒に・・・。上手く言えないが、これは僕にとって、バッハやモーツァルトを演奏したのでは感じ得ない喜びがある。

 それは、1998年12月、ヴォクスマーナの第1回定期演奏会(三鷹市芸術文化センター・風のホール)で、パレストリーナ「ミサ・ブレヴィス」を演奏したことと大いに関係している。僕の音楽人生は、ここから始まったと言ってもいい。ヴォクスマーナでは、ルネサンスから始まって、近代、現代と歩みを進めていった。中世、バロック、古典派、ロマン派は、大学や仕事で勉強した。しかし、僕の音楽の根底には、なぜかルネサンス音楽がある。

 

 僕は大学1年の時に、衝撃を受けたのだ。世の中に、こんな音楽があるのだということに・・・。音楽に対する価値観がガラッと代わった瞬間だった。・・・音はある一点から細胞が弾け生まれたかのように空間に立ち上がり、糸を抜くように引き延ばされ、広がっていく。やがて跳躍しエネルギーが世界に発散される。ゆるやかに節が閉じていくのと入れ替わって、別の善的エネルギーが発散され、流れは無限に引き継がれていく。ゆるやかな和声の中で、安心してそれぞれの声部が自由にたゆたっている・・・。やさしく、伸びやかに、華やかに、活き活きと、ある時は輝かしく、ある時は力強く、お互いに影響しあいながら、ゆっくりと時が進められていく。その響きの奥から、グレゴリオ聖歌の内省的でありながら、かつ世界のどこの文化でもない西洋の確固たる自信に満ちた響きが聴こえてくる。しかし、それは模倣され展開していくことで、外向きに開放されるのだ。いまや、自分たちの文化や信念に対する自信は節の芯から漲っており、まっすぐに天に向けられている。七色に変化する妙なるハーモニーが聖堂のドームに満ち、天使たちによってそれは変換される。人びとは、天上から神の栄光が降り注いでくるかのような体験をし、自分自身の存在を改めて実感し直すのである。

 ・・・僕はこの響きの中で、自分の居場所を見つけることができた。ここならば、安心して自分の個性を存分に発揮し、高めていくことができる。そしてそれが、ありがたいことに、全体の幸福のために役立つのである。僕はパレストリーナがなかったら、音楽の中に自分の存在意義を見出すことはできなかったかもしれないし、音楽の更なる奥義を知ることもできなかっただろう。それをいま、一緒に勉強してくれる仲間がいるということは、本当にありがたいことだ。しかも、ふるさとにおいて・・・。

 

 僕はいにしえの人びとの営みをこころから賞賛し、感謝する。400年という長い年月を経て、ローマから遠く離れたこの地で、彼らの魂の響きと空間を共有するのである。僕らはそこに、人間が人間を見つめる本当の眼差しというものを発見するだろう・・・。そして、世界のために、自分自身がどうあるべきか、自ずと理解することができるだろう・・・。

 

by.初谷敬史