全日本プロレス。
外国人控室にて、蝶野正洋やバーニングの秋山や潮崎と握手。
日本人控室では、武藤敬司や曙や諏訪魔や大森など、旧知の仲間と交流。
高山善廣&河野真幸
カズ・ハヤシ
諏訪魔
金丸
プロレス会場に来ると、急に試合をしたくなるのは、なぜ?
それも、控室で、試合モニターを見ながらたむろしている仲間を見ていると、無性に試合がしたくなる。
蝶野、武藤、秋山、カズ・ハヤシ、KENSO・・・
昔闘った仲間たちが、今でも頑張っている。
その姿に、元気をいただいた。
休憩明けにリングサイドに向かうと、そこにいたのは小橋健太。
永遠の若大将、ミスタープロレス。
「5月11日が引退試合だって?」
「そうなんですよ、今、一生懸命道場で練習してます!」
と、熱く語る小橋建太、44歳。
このまま引退するには惜しい逸材
しかし、
「今も、練習するには首がちょっと・・・・軽い受け身は取ってますけど・・・」
と、満身創痍。
でも、全日本プロレスの会場には、なくてはならない熱い男。
この男を、黙ってリングサイドに座らせておいていいのか、プロレス界は?
すぐにかねてから考えていた一件が頭に浮かぶ
「小橋さぁ、PWF会長ゆずるから、受けてくんない?」
「え~~っ、僕がですかぁ?」
「そう。引退したら、いいだろ?」
「ええええええええええ、そんな、いきなり言われても・・・・」
「だって、引退したらすることねぇだろ?お前がいてくれたら、プロレスファンも励みになるだろ!」
「そっすかねぇぇ・・・僕でいいんですかね?」
「お前だからお願いしてんだよ。頼むよ!」
「そうですね・・・いいっすよ・・・」
と小声で答える青春のこぶし。
そこで一計を案じ、控室に戻って、武藤ちゃんと相談。
「小橋はいいって言ってるけど、PWF会長交代を、この後にリング上から発表していいかな?!」
「えええええええええええええええ、今日?ノアに仁義切らなくて大丈夫かな?」
「もう小橋は、フリーだって言ってたよ。」
「小橋がいいっていうかな?」
「今口説いた。小橋は受けるって!」
「ええええええええええええええええ、じゃあ、いいよ!」
って、こういうアバウトなところが俺と武藤のいいところ?
とりあえず、内田社長にも確認し、この後リング上から発表することが決定。
リングサイドに舞い戻り、小橋に小声でつぶやく。
「三冠戦の認定書を読む前に、お前にPWF会長交代することを発表するから!」
「ええええええええええええええええええええええ、今日ですか?」
「そうだ。」
「僕でいいんっすかね?」
「お前しかいないんだ!」
「どうしよう・・・・」
「いいから、リング上から俺が、小橋、後は頼んだぞ!って叫んだら、この場で立ち上がって、お客さんに一礼してくれ!」
と強引に言うと、腹を決めたのか、
「わかりました!」
と、小さな声でつぶやいた。
小橋、相変わらず、リングの外では小声なのね。
セミファイナル。
世界タッグ選手権試合。
王者の大森&征矢。
チャレンジャーは、秋山&潮崎。
認定書を読む前に一言。
「日本レスリング協会の副会長としてお願いがあります。2020オリンピックにレスリングが復帰できますように、署名してください、お願いいたします!」
と。
試合は、すばらしい激闘。
最後は、潮崎の渾身のラリアットで、チャレンジャーの勝利。
この試合で光ったのは、征矢。
これで一皮むけたかな
勝利した潮崎は、もうちょっと体に厚みが出てきたら、3冠チャンピオンを狙える逸材。
メインは、船木と諏訪魔の3冠戦。
認定書を読む前に一言。
「長い間ありがとうございました。この認定書を読むのも今日で最後となりました。」
ここで、客席からは、え~~~!辞めるなよ!とありがたいお言葉でざわつく。
しかし、次に、
「5月11日、武道館での引退試合が終わりましたら、PWF会長は、小橋健太に代わります!」
と宣言すると、待ってましたの大歓声。
この大歓声こそが、ジャイアント馬場さんが求めていた、プロレスファンとの一体感ではなかったか。
リング上で、そう確信した。
リングから、
「小橋、後は頼んだぞ!」
と叫ぶと、小橋はきちんと立ち上がって一礼した。
良かった、受けてくれた
やっぱり、三冠ベルトが一番似合う男は、誰がどういおうと、小橋建太だ。
この男にこそ、PWF会長が一番ふさわしい。
青春の握りこぶしを、プロレス界に残してほしい。
思えば17年前、新日本プロレスから円満に移籍した俺が果たすべき役割は、今日をもって終わったように思う。
トップレスラーのうちに、武藤・橋本・蝶野・三沢・小橋・川田・田上の三銃士&四天王全員とシングルで戦えた。
馬場さんが亡くなり、三沢たちをサポートするために残った。
三沢たちがノアに分裂した時も、全日本プロレスの灯を消してはならないと残った。
武藤やカシンの移籍をサポートした。
猪木さんには黒幕とか言われたが、そういうこともあった。
自分の引退試合も、全日本プロレス両国大会でやっていただいた。
武藤の要請で、PWF会長のポジションも引き受けてきたが・・・
最高のプロレス人生だった。
もちろん、大臣となったらSPを連れてリングに上がる夢だけは持っているが・・・
でも、今日のほぼ満員の両国国技館の観客席を見渡していると、これでもう、全日本プロレスでの役割を終えたな、と直感した。
良い引き際だ。
バーニングの諸君も、新たな息吹を持ち込んでくれているし。
何よりも、リング上が充実している。
全日本プロレスは、プロレス界がどう混迷しようと、王道プロレスを貫いてきた。
それでよかった。
白石さんという新たなオーナーも決まったし。
馬場さんの遺伝子は、これからは小橋健太PWF会長の存在によって引き継がれていく。
それでいいのではないか。
最後に見届けた船木対諏訪魔の闘いこそ、王道プロレスの神髄だった。
船木のスタイルと、諏訪魔のスタイルと、水と油なのに、30分近くもリング上に魅きつけた。
激しい肉弾戦だった。
お互いの力と技を消耗し合うような戦いだった。
リング上こそがすべて。
それが馬場さんの教え。
メインには、純粋プロレスの王道が、確かにあった。
諏訪魔の勝利。
思えば、この男をアマレス界からスカウトし、デビュー戦の相手をしたのも俺だった。
アマレス合宿でスパーリングの相手をし、この馬力と風貌は、スターになるし、チャンピオンになれる素質だと直感し、スカウトした。
あれから10年以上が過ぎたが。
あの直観は、現実となったことがまた、うれしい。
少しは馳浩の遺伝子も、プロレス界に残せたように思う。
その諏訪魔に3冠ベルトを一本ずつ渡し、任務終了。
「船木相手によくがんばったな!」
と、ねぎらいの一言を添えて、ベルトを渡す。
一礼してリングを降り、控室へ。
武藤ちゃんと握手し、小橋と並んで記者会見し、思いのほどを吐露。
小橋は「5月11日の引退試合を終えてから、馳さんの思いを引き受ける」と、今日のところは会長就任明言を避けてくれた。
馳さんの決意は重い、とまで言ってくれた。
その慎重さがまた、馬場さんらしくていいではないか。
帰り際、通路で蝶野とばったり出くわして、お互いに笑顔で握手
天野秘書の運転で帰宅。
自宅近くのラーメン屋「麺酒論 嚆矢」にて、遅い晩御飯。
一人で酒を飲み、いつものワンタンラーメン。
つまみは、出汁巻卵と、いわしのみりん干しと、イカの塩辛、きゅうりの漬物。
至福のひと時。
22時36分帰宅し、ソファで寝る。