「さっきはゴメン!!」


むちゃくちゃ大きな声で彼は言い放つと、車のエンジンをかけた。

沈黙の中でかすかに聞こえてくるBGM代わりのラジオ放送。


さっきまで広く感じていた車内が僕には急にすっごく狭く感じてた。

自分が、、彼から女性として…性対象として見られてる…

この事実が僕の中では物凄く怖くて…不安で…ドキドキしてた。

かなりの圧迫感だった。


海までの道中とはうって変わって静まりかえる車の中。。


会話はまったくなく彼は黙々と運転。

僕は窓をちょびっとだけ開けて。外をずっと眺めて。

何かを考えてる余裕なんてなくって。

ただただ…その空間をやり過す事だけ考えてて。

そんな時に彼が明るい口調で喋りはじめた。


「なんか馬鹿だった俺。(笑)」

「思わず勢いでエッチとか抱きたいとか…最悪だよね…(苦笑)」

「今さらだけど、俺って最低な奴だなとか思っちゃったよ。」


「だけどさ、俺、真剣だから。」

「下心が無いなんて綺麗事は言わない。けど…俺、真剣だから。」

「真面目に付き合いてーって思ってるよ。迷惑かもしんないけど。」


「あのさ、俺にチャンスくんないかな?」

「もう最低な事はしないって約束するから!だから俺にチャンス頂戴!」

「最低な俺にはこんな事をいう資格ないかもしれないけどさ…(苦笑)」


「でも、このまま諦めるなんてしたくねーし。」

「今まで男と付き合った経験がないなら…この機会に冒険してみない?」

「俺と付き合ってみて嫌だったらすぐに別れればいいから。ね?」


「勿論、、軽率な行動は絶対にしない。誓う。(笑)」

「ごめん…笑うとこじゃないよね…。また最低さをアピールしてる俺。バカ…。」

「とにかく!俺と付き合ってよ!マジで!!」


一方的に自分の気持ちを伝えてくる彼。不思議と不快感はなかった。

でも、、僕の中には更なる混乱が渦巻いてた。


だって…

完全に女性としてアプローチを受けているのに違和感を感じていない僕。

これって一体どういうことなんだろって。凄く戸惑った。

自分自身のことなのに、、自分の気持ちがいまいち理解できない。

心の中は男としての自覚があるにもかからわず…彼の気持ちが嫌じゃない。


なんで?


なんでなのかな。女として愛されることに興味を抱いてるってことなの?


僕は混乱の渦巻きの中にどんどん引き込まれていくみたいだった。

愛する人はまーなただ一人。これは絶対なのに。間違いないのに。

僕が他の女性から男性として好意を持たれてるならある意味なっとく。

だけど…彼は僕を女性として見てて。好意を持ってて。なのに…僕は…。


「今すぐに決めなくていいからね。」

「無理は言わないから。だけどちょくちょく二人で会ってほしい。」


僕の混乱を全く知らない彼はひたすら話を続ける。

笑みを浮かべながらも真面目な顔で。僕の方をチラチラ見ながら。


気がつくと…待ち合わせをしたコンビニのそば。

あっという間。長く感じてた帰りの道のりなのに…。

僕はずっと無言のままだった。何を話したらいいのかわかんなくって。


「着いたよ。」


淋しそうな表情の彼は小声で僕に言った。


「今日は、なんか…ごめんね。」

「だけど…俺がさっき話した事、ちゃんと考えてほしい。」

「また連絡するから。ね。」


黙って微妙にうなずいちゃう僕。

今考えてみれば…「二度と連絡すんな!」って言えばよかったのに…。

そうすれば。そうすれば、あんな事にならなかったのにって。

また、、のちのちの後悔のはじまり。だった。

予期せぬことが起こって。そのことのせいでまた予期せぬが起こる。

まったく自分では予測不可能な事態になってしまうわけで。


僕は軽く会釈だけして車をあとにした。

とっても複雑な気持ちだった。


まーな。


ふとまーなが恋しくなった。ものすごく。恋しくなった。

早く会いたいって。今すぐに会いたいって。


急いでおうちへ向かった。まーな帰ってきてるかなとか思いながら。


「ただいま!」


さっきまでの複雑な心境を吹き飛ばす勢いでドアを開けた。

でも…まーなはまだ帰ってきてなくて。

急に淋しくなってく僕。頭の中は早くまーなに会いたいだけになってた。


すると、、、

この願いを神様が叶えてくれたかみたいに…


「たっだいま!!」


まーなだった。何かずーーーっと会ってなかったみたいに感じた。

満面の笑みのまーなが僕の目の前にいた。

もうとにかく嬉しくて。愛しくて。

思わず僕はまーなに抱きついちゃった。


「おかえりなさい…」


って。

安心したのか…嬉しすぎたのか…涙がボロボロ×100。


そんな僕をまーなは優しく抱きしめてくれて。

頭をいーこいーこしてくれて。

あたたかかった。すっごく。

とにかくやわらかい感触だった。

心が満たされてくのがハッキリわかるほどに。


僕は最高の至福にひたってた。酔ってた。


だけど…それがひとときの休息にしかならないなんて…。