チェ尚宮は至福のひと時を
過ごしていた

ミレ公主のお昼寝時間となり
王妃様も一緒に
お休みになられたので
タンを自分の部屋に
連れて行くと
密かに用意したおもちゃを
タンの目の前に置いた


おお〜あう〜〜


タンは驚いた声をあげ
すぐに興味を示した


そなたの父親もこれが
好きであった


マ〜マ〜


そうじゃ マル(馬)じゃ


チェ尚宮はうれしそうに
微笑んだ
それはずっと探していた
チェヨンの愛馬チュホンに
よく似た栗色に塗られた木馬

タンをひょいと座らせると
すぐにゆらゆらと揺れ始めた


あうあうあ〜〜
マ〜〜マ〜〜〜
よん


そうじゃ
父上の馬に似ているであろう?


マ〜〜マ〜〜


タンは喜んで何度も何度も
木馬を揺らて遊び
それからウンスが持たせた
菓子をおやつに食べた
寂しがる様子もなく
機嫌良く遊んでいる姿に
チェ尚宮はほっとした

そしてあっという間に
昼寝
チェ尚宮の寝台で眠ってしまった
見飽きることなく
そのかわいらしい顔を
存分に眺めた
甥のチェヨンは母親を早くに亡くし
それ以来ずっと気にかけて
母親がわりのつもりで来た
その甥の息子は自分の孫のような
愛しい存在
無条件にかわいくて
無条件に愛しかった


タンや
そなたが生まれてから
私も変わった
そなたが生きる張り合いを
くれたのじゃ
わかるか?


起こさないように
頬にそっと触れてみる
柔らかでぷにぷにの頬が
暖かだった


━─━─━─━─━─


インギュは馬を飛ばしていた


ったく 何をお考えなのだ
医仙様は!
よもや
上護軍も加担しているのか
いやきっとそうに違いない
あの夫婦で秘密などありえない

ヨルム殿も人が悪い
なぜに 
このような小賢しい手を
お使いになるのだ?
くそっ!随分遠く感じる


目的地はまだ先だった
だが本当にそこでよいのか
自信はない
もしも行っていなかったら
婚礼に間に合わない
インギュは胃をきりきり
痛めながら走り続けた


ウンスはチェヨンに手伝われ
無事に着替えを終えた
あでやかな婚礼衣装から
ぐっと大人の黒い衣
チェヨンは少しばかり
大胆な胸の開きが気になったが
美しい妻に見惚れた


これはこれでよいな


うふふ ほんと?


ああ


もう一度抱きしめて
唇を重ねた


きりがないわ
そろそろご挨拶にまわらなきゃ


面倒だ


だめよ 王様もいらしてるし
高官の皆さんもたくさんいるわ


ウンスに促され
渋々と控室を出て
使用人の控えの間にいた
ヘジャに荷物を預けた
それぞれの客人のお供の
下男や女中だけでも
たいそうな数だった


奥様 大変な賑わいですね


そうね


ヘジャたちにまで
料理が振る舞われるそうで


うふふ それはよかったわ
来月はタンのトルチャンチも
あるし 祝いの膳を
しっかり吟味しておいてね


ウンスは微笑んで
チェヨンと手をつなぐと
婚礼会場へと消えた


あれが噂の天女様?
あなた チェ家の使用人?


わらわらとヘジャのまわりに
人が押し寄せ
天界の女人と高麗一の武将
チェヨンの話を聞きたがった


口が堅いのが奥女中のつとめ
ですから 
何も申し上げることは
ありませんが・・・
高麗一
仲の良いご夫婦であることは
間違いないですね


ヘジャは胸を張ってそう言った


チェヨンは時々
視線を下に落とし
美しい妻を見つめた
胸の谷間がわずかに覗いている
喉元のくぼみが柔らかく
チェヨンを待っている気がした

先ほどまで重なっていた
紅い口元はつやつやと潤み
頬が上気している
まばたきをするたびに
長いまつ毛が揺れた

結い上げられた髪に
紫水晶の簪が挿してあり
揃いの紫水晶の腕輪が
ほっそりした手首に
輝いていた

いつも以上に大人の色香が
漂って
息苦しくなるくらいだ


誰にも見せとうない


え?


チェヨンの口元に
耳を寄せると
ふんわり優しい香りがした


桜の香り?


うふふ 
練り香水をつけたのよ
いい香りでしょう?


ますます 仕舞っておきたい
イムジャのこと


くだらぬ悋気とわかっていても
思わずにはいられない
チェヨンであった


それにしてもいつの間に
インギュの嫁御と会ったのだ?


チェヨンは挨拶にも
行ってないから面識がないはず
と 不思議そうに尋ねた


あれ〜言わなかったっけ?
市よ 
買い物に行った市で
偶然会ったの
あなたのこと随分恨んでたわよ


はあ?なにゆえ?
恨まれるようなことは
何もしておらん


それはそうなんだけど
巡り巡って
彼女にとっていろんなこと
あなたが因だったの


は?


それで
妻の私が彼女に
協力したってわけ


さっぱりわからぬ


彼女 もともと
インギュさんに
懸想していたの
それが王様の側室の話が出て
諦めたわけ
でも側室話がお流れになって
降って湧いたように
インギュさんとの婚礼が
決まったわ
ほら インギュさん許嫁が
いたじゃない?
でも縁が途切れて
ヨルムさんと縁を結ぶことに
なった
すごくうれしかったんですって
なのにインギュさんたら
彼女のこと まったく
気にもかけなくて
上官のことばかり
追い回しているから


あん?俺のことか?


そうよ
インギュさんにとって
あなたは憧れの君だもの


チェヨンはぶるると震えた


だからうれしさの反動で
すごく寂しかったのよ
嫌われているのかもって
思ったみたい
そんな気持ちのままじゃ
お嫁に行けないって
悩んでいたわ
もともと真面目なお嬢さん
なんじゃない?
ポムとそうかわらない年頃だし
一人で考え込んでしまったのね
それで無茶をしようと
していたから・・・
代わりに私が
ちょっと羽目を外して 
花嫁のまねごとを・・・


ウンスは舌を出した


そうであったか


うん
それにインギュさんも
あなたの大切な部下だし
これで二人が上手くいけば
側室にならなくて
よかったってことになるし
何より
二人には心底幸せに
なって欲しいじゃない?
私達みたいに・・・


微笑む姿は
生まれついての天女
だとチェヨンは思った


ぞろぞろと集まる招待客
中庭には婚儀の準備が整い
新郎新婦のお出ましを
待っている


インギュ 嫁御をつれて
早う戻って来いよ


チェヨンは優しい妻に
微笑み返した


*******


『今日よりも明日もっと』
恋し恋され 結ばれて
二人は縁を紡いでいく



☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


婚礼が始まる前に
九月が終わってしまいそう
(;^_^A

「トラジの花の如く」も
そろそろ終盤

ゆるゆる
おつき合いくださいませ


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