イサは身の振り方を
ずっと考えていた
半分は高麗の血が自分の体に
流れている
だが高麗軍の多くの兵士を
殺めたのも事実

死んだことになっている
自分が生きていることが
明るみに出れば
命を助けてくれたチェヨンにも
そしてオモニによく似た
あの天女にも迷惑がかかる

できれば ひっそりと
此処から
消えてしまいたかったが
それはそれで卑怯な気がして
できなかった
答えが見つからないままに
時間が過ぎて行く


オモニによく似た天女と
優しい目をした侍医は
暇を見つけては
病室に顔を見せた

侍医は脈診したり
傷の具合を診たり
時には
ずっと病室にいて退屈なイサの
話し相手になってくれたり
本当によく気がつく男だと
思った

天女はこっそり
お菓子を持って来たり
花を生け代えたり
香を焚いたりと
こちらもまた
甲斐甲斐しく面倒をみてくれた

病室の高い位置にある窓は
閉じられたまま
この先の自分の人生のような
気がする

倭冦討伐の報告会が終わり
自分はすでに死んだ身となって
幾日か経ったある日
天女は「そろそろ退院ね」
と 微笑んだ


退院?


ええ 傷の具合もいいし
チェ先生も太鼓判押してるし
それでね
これからのことなんだけど


イサはまだ考えがまとまらず
ウンスの言葉を無視するように
布団に潜り込んだ


イサがどうしたいのか
気持ちが固まるまで
しばらく此処にいたって
いいのよ
うちの人もね ウダルチで
鍛えるか?
それとも屋敷の私兵にするか?
なんて言ってるわ
この国に慣れるまでは
うちの屋敷にいたらいい
住み込みの部屋はまだあるし


イサは返事をしなかった


急がなくていいけど
考えてみてね


チェヨンもウンスも
温かかった
だが その温かさが
時に自分を苦しめた

倭冦の大将だった自分が
甘えてよい相手ではない
この苦しさが贖罪なのか
・・・と


━─━─━─━─━─


その日は穏やかな朝だった
秋晴れの空に
うろこ雲が浮かんでいる

典医寺は今まで
基本的に年中無休だったが
日中の診察に終われ
おまけに当直もある
ウンスは当直をしないので
そのしわ寄せは
どうしても他の医官に
向いてしまっていた

とくにチェ侍医は
このところ 
侍医の屋敷は典医寺では
ないのかと思うくらい
典医寺で過ごすことが
多くなっていた

だから休診日を設け
これにより
医官達の疲弊を防ごうと考えた
もちろん
入院患者や急患に
すぐに対応出来るように
当直の医官を配した


今日は診察のない日
チェ侍医に休みを取らせて
ウンスは坤成殿の回診後は
のんびりとしていた

サラは薬剤室でトギと
生薬の調合をしている
そして
患者がいないので
タンも診察室で遊んでいた

好奇心おう盛なタンは
なんでも触りたがる
なので
触ると危険な医療器具や
薬草はすべて
手の届かない高い棚の上にあげ
ウンスはタンを
自由にさせていた


タン 患者さんがいない
診察室ってのも
なんだか不思議ね〜


ネ〜〜


タンは返事をすると
物珍しそうに
うろうろうろうろ
その後を
コハクが追いかけている


若様 危ないです


うふふ
コハクはいいお兄ちゃんだわ
でも ジュヒ
私は助かるけど
預かっている
赤ん坊ならヒョンジュ一人で
大丈夫だから
今日は育児室をお休みしても
よかったのに


ウンスは
お茶を運んで来たジュヒに
言った


いえ コハクも
典医寺に来るのを
楽しみにしていたんです


そお?


はい お医者様に
憧れているみたいで


まあ そうなの?
私はてっきりウダルチに
憧れているとばかり・・・


トルベによく似たコハクに
ウンスは微笑みかけた


コハクはお医者様に
なりたいの?


まだよくわかんない
けど・・・
医仙様もチェ先生も
かっこいいから


うふふ
それは光栄だわ
医者になるならいつでも
鍛えてあげるからね


ウンスは笑った


私はコハクが
医者になれたらいいなと
思っているんです


そうなの?
トルベさんと同じウダルチに
ならなくても?


ウダルチとして亡くなった
彼の意志をコハクに
継がせたい気持ちも
もちろんありますが・・・
でもそれ以上に
戦に送り出すのが不安で
この子までいなくなったらと


そっか・・・そうよね
私もタンが父親のあとを継いで
武士になるのは
やっぱり心配よ


医仙様もですか?


ええ 子供を危険な目に
遭わせたくないのは
母親の本能だもの


はい・・・


でも母親は
見守ることしか出来ないわ
その子の人生だもの
まだコハクは小さいし
コハクがこれからどう考えるか
楽しみに待ちましょう


ウンスは笑ってみせたが
タンの行く末を思うと
時々胸が痛む
父親と同じ高麗の武士
それが周りが望むタンの未来
人を殺める苦しみを
背負わせることになるのかと
あどけない笑顔を見ると
心が苦しい

そんな表情を読み取ってか
ジュヒが言った


若様の将来も楽しみです
父上様は高麗一の武士
そして今は文官としての
名声も欲しいままですし
それに
母上様は天界から来た医仙様
ですもの


そう?
何になるのかな?
ねぇ タン


あうあうあ


タンはウンスに駆け寄ると
抱きついた


うふふ いい子ね
さあて 
この書をまとめちゃうわね
タンはコハクとお外で
遊んでいらっしゃい
ジュヒ お願いね


はい 医仙様


タン達が出て行って間もなく
典医寺に急患が運ばれて来た
サラとトギも駆けつけた


朝餉のあとに
急に苦しみ出して


付き添いの家族が言った
それは先日の検診で
逆子の診断を受けた
高齢の張夫人だった


*******


『今日よりも明日もっと』
杞憂だとわかっていても
心配になるのが親心




にほんブログ村 小説ブログ 韓ドラ二次小説へ
にほんブログ村