倭冦討伐の一切が終わり
久しぶりに早めに
屋敷に戻ったチュンソクは
寝たり起きたりの
ポムのもとを見舞った

ポムは産後の肥立ちもよく
たいそう元気であったが
奥女中や
ポムの実家から来た
古参の乳母に
まだ起き上がってはいけないと
言われていた

夜はもちろんチュンソクと
別の寝所で
ポムには女中達が交代で
付きっきり
赤ん坊は乳母に預けられ
ひたすら体力の回復に
務めるようにと言われた


これが
代々のパク家のやり方です


様子を見に来た
実家の母親にも言われ
ウンスとは全然違う
産後の日々を送っていた


さみしいでする〜
早く一緒のお布団に
入りたいのに
あのゲファと古参の乳母が
許してくれぬのでする


ぷうとふくれて
ポムはチュンソクに言った


まあ 仕方ない
まずはポムの回復が一番


次の子作りに向けて
体を休ませるのだそうでする


生んだばかりのポムが言う
言葉にチュンソクは目を白黒


そ そうなのか?


次の子こそ
おなごを生んで若様の許婚に
してもらうでする
旦那様も協力してくだされ


不屈の精神のポムは
チュンソクにそう言った
チュンソクは曖昧に笑うと
乳母が連れて来た
息子ミョンを腕に抱いた
武骨な手で 
そっと頬に触れてみる
柔らかで温かい


このたれ目のとことか
八の字まゆとか くふっ
旦那様にそっくりでする


チュンソクが抱いた
チュンソクに似た
穏やかな顔立ちのミョンを
愛しそうに見つめ
ポムは幸せそうに笑った

医仙様も若様を
産んだ時は
きっとこんな気持ちだったん
だろうと思った

あの頃は
チェヨンもチュンソクも
戦に出ていて
ひと月も戻らず
ポムは王宮の邸の離れで
寝泊まりしていた
ふっとそんなことを考え
チュンソクにウンスのことを
尋ねた


王宮はお変わりないですか
医仙様はお元気でしょうか?


数日会っていないだけなのに
ポムはウンスを気にかけていた


ああ そういえば
これを預かった


ポムの好きな油菓子


食い過ぎぬようにと
おっしゃられていたぞ
腹の周りが
ぽってりしているではないか


チュンソクはポムの
腹をつまんでからかった


もう!旦那様ったら


チュンソクは笑った
それから 
ミョンの顔を見ながら
ポムに話しかけた


義兄上は子供の頃から
そのぅ
負けん気が強いお方か?


え?インギュお兄様?
そりゃあ   もちろん
ポムは末っ子で
たった一人のおなごなのに
インギュお兄様は
お母様にうまく取り入って
お兄様ばかり贔屓されてた
でする〜〜
頭がいいから
ポムをすぐ馬鹿にしたし
幼き頃は
ポムがお母様の膝の上にいたら
必ず横取りしたでする


そうなのか?
なんだか俺のことも
敵対している
気がするのだが


あああああ
それはそうでする
旦那様は
上護軍様の信頼が厚いから
お兄様にしてみたら
ヤキモチでするね


ヤキモチ?
餓鬼でもあるまいし
しかも俺にか?


上護軍様との絆が
羨ましいんでする
だから悔しいんでする 


ポムは笑った


まったくかなわぬなあ
のう   ミョン


ミョンはのんびり
口を開けて
あくびをしながら
チュンソクを見て
また目を閉じて眠った


━─━─━─━─━─


ひと足先に帰ったウンスを
追うように屋敷に急いだ
チェヨンの耳に
奥の間から賑やかな声が
聞こえてきた

夕餉もまだのようで
何やらいい匂いが
厨房から漂う


お似合いでございます


ネ〜〜


ヘジャとタンの声がする


帰ったぞ


チェヨンは奥の間を覗いて
はっと息を止めた


お帰りなさい
お迎えに行かなくてごめんね


頬を赤らめ少し上目遣いに
チェヨンを見上げた


どお?似合う?


上品な黒地の絹織りの
チマの裾には
艶やかな薄紅色の牡丹(モラン)
さらには硝子細工なのか
きらきら光る装飾が
散りばめられていた


如何したのだ?
それ


うふふ
ほらインギュさんの
婚礼に立ち会うじゃない?
だから仕立ててみたの
それが夕方届いたから
待ちきれなくて
試着してみたのよ
ごめんね    勝手に買って


いや
いや   それは構わぬ
だがイムジャ
そんなに綺麗にして
花嫁が霞むぞ


チェヨンは真顔で
ウンスに言った


やだ〜〜
ヨンたら
お世辞でもうれしい


ウンスは鼻歌まじり
タンは綺麗な母上のそばに
行きたくて
近寄ろうとするが
大切なチマチョゴリが
汚れては大変と
ヘジャに抱きかかえられ
さっきまでの上機嫌から
すっかり
口をへの字に曲げた


婚礼に黒地はまずいのかな?
天界ではありなんだけど
此処ではどうかしら?


構わぬ
天界式でよい
それに
よう似合うておるゆえ


そお?
あなたには内緒にして
驚かす予定だったのに
やっぱり隠しごとは
出来ないわね


ふふっと笑った


じゃあ
着替えてくるわ


イムジャ待て


ウンスの後を
すかさずチェヨンは追った


まるで後追いする
若様みたいですね〜
旦那様も


置いてけぼりのタンは
あーんあーんと泣き出し
チェ家は相変わらず
賑やかな夜


ウンスは衣を片付けに
自分の衣装部屋に入った
当然チェヨンも付いてきて
ウンスが着替えるそばに
じっと佇む


脱ぎにくいわ
恥ずかしいじゃない
見ないで
向こう向いててよ


紐にかけた手を止めて
ウンスは言った


今更
何が恥ずかしいのだ?


だってぇ


甘えるようなウンスの声に
チェヨンは誘われるように
腕の中に抱きしめた


よう似合うておる
誰にも見せとうない
俺だけのウンスなのに


あっ
待って


唇が首筋を這うごとに
息が荒くなるチェヨンが
上手に紐をほどくと
はらりと脱ぎ落ちる
漆黒のチマチョゴリ

真っ白な柔肌が星明かりに
照らされて見えた


まだだめ
夕餉もまだなのに
ほらタンも泣いてる


構わぬ
ヘジャがなんとか
するであろう?


ヨンたらぁ


とどまることを知らない
夫の情熱に
ウンスはやがて翻弄されて
短な吐息が
部屋に漏れ聞こえ始めた


奥の間で
派手に泣いていたタンは
しょうがなく諦めた様子で
大好きなチャメ(瓜)を
口に頬張り
ぷいとふくれていた


若様
今しばらく
お待ちくださいませ
仕方ないのでございます
いっときも
離れられないご両親様
なのです


ガタガタ聞こえる
ウンスの衣装部屋を
ちらりと見やり
ふうとため息をついてから
ヘジャはタンの口に
またチャメを運んだ


やあや〜〜
あうあうあ〜〜


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『今日よりも明日もっと』
それぞれの夫婦の形
それぞれの幸せな夜