「エイリアン、故郷に帰る」の巻(3)
パスポートセンターから帰宅した後、
子供たちに事情を説明した。
「今日、台湾から電話がかかってきてんけど、パパが入院したらしい。
母ちゃん、台湾まで行って、パパの様子見てくるから。」
「いつ行くん?」
「とりあえず、明日チケット探して、なるべく早く行こうと思っとる。」
「パパ、大丈夫なん?」
「様子見てみな分からんけど、きっと大丈夫やと思う。
母ちゃん、しばらく留守にしなならんけど、大丈夫?」
「うん。」
「悪いけど、お願いね。」
「わかった。」
危篤だなんて、とても言えなかった。
土曜日の朝。
チケットを探し始める。
石川県にある小松空港からは、
当時、台北便が毎日運行していた。
毎日夕方6時30分頃の出発だった。
このタイムスケジュールは有難い。
当日分を買うことができれば、
その日の夕方、台北に発てる。
朝早い時間や午後早い時間の便だと、
早くても次の日まで待つことになる。
有難いことに、
当日分のチケットはあった。
何本か電話をかけて、
一番安いところから購入した。
本来なら、購入の手続きは
お店でとのことだったが、
金沢にある店舗まで
出向いていく時間の余裕がない。
そう話すと、お店の人は
とても力になってくれた。
まずは支払いだ。
土曜日で銀行決済はできないから、
クレジットカード払いにする。
私が買った往復券は2週間有効だったから、
帰国はちょうど2週間後のフライトにしてもらった。
その後、メールでチケット詳細の書面を
送ってもらい、自宅でプリントアウト。
それを持って空港に行けば、
カウンターでチケットを発券してもらえる。
これで飛行機の手配も整った。
あとは具体的な準備だ。
バッグを引っ張り出してきて、
衣類や下着を詰める。
何かの役に立つかもれないと
思った漢方も入れる。
師匠が台湾から買ってきたものだ。
そして、最後に鍼も入れた。
ショルダーバッグには、
大騒ぎして取ったパスポート。
チケットの書面。財布。
何がなくとも、この3つさえあれば渡航できる。
そして、洪さんからファックスして
もらった病院の名前と住所。
これを忘れていくわけにいかない。
大丈夫。
ちゃんと入っていることを確認。
私が留守にする間の子供たちのことを
両親にお願いして、午後3時半頃、家を出た。
小松空港までは2時間くらいかかる。
今日もまた、のと里山海道に乗る。
この日は、走りながら涙が出た。
次第に、師匠が危篤だという
状況を現実として受け入れ始める。
午後5時半過ぎ。
小松空港に着くと、すぐ実家に電話して
無事に着いたことを報告し、子供たちの様子を訊いた。
「今からお風呂やよ。」
母が明るく答えてくれる。
「ああそう。悪いけど、子供たちのことお願いします。」
「はい。分かったよ。気を付けていってらっしゃい。」
さあ。
ここから先は私一人だ。
後戻りはできない。
逃げていくところもない。
これまでの人生で、
最大の正念場が始まった。

