◎始まったばかりの人生を語る ★青春グラフィティ その9  | 明日は こっちだ!

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◎始まったばかりの人生を語る ★青春グラフィティ その9  
                     (ネット検索+ケンチ)

  その1~http://ameblo.jp/harenkenchi/entry-11494955640.html


この出来事があったのが秋のこと
それから俺達は修学旅行へ行ったり色々とあったけど
毎日楽しくそれなりに過ごしていた
何もかもが普通だった
授業もけっこうサボるがそれなりに出席はして
成績は相変わらず相当悪いものだったけど
学校には順調に毎日通って楽しくやっていたんだ
冬休みに入った頃
忘れかけていたTから突然メールがあった
「年明けに吹奏楽の演奏会と合同で軽音部のライブがあります。
良かったら見に来てみてくださいね。」
というものだった
そういえば、Tはライブをする時は見に来てくださいって言ってた
俺はこの時忘れかけていたものを突然思い出したような気持ちになった
正直、最初はあまり乗り気ではなかった
音楽はそこまで好きじゃないし
吹奏楽の定演なんて俺がいっても浮くだけだ
でも、せっかくTがメールまでしてくれて誘ってくれたから
どうせ暇でやることないんだし見に行ってみようと思った
Tがどんな風に軽音部でやっているのか見てみたい
そんな好奇心だった
でも、この軽い気持ちが良くなかった
一人で行って友達がいない奴だと思われたくなかったので
俺は嫌がる若林を強引に連れて行った
この時礼二は何故か寝込んでいて来なかったんだと思う
高校近くの市民ホール的な場所で
吹奏楽と軽音の合同演奏会が行われていた
駐車場も沢山の車でうまっていて
中に入るとホールは思ってたよりも大きくて
人も保護者やら他校の生徒やらで随分とうまっていた
入り口でパンフレットをもらって若林と一緒にしげしげと眺めた
プログラムは吹奏楽→軽音の順番だった
若林「俺こんなん初めてだぞ なんかすごいもんだな」
俺「思ってたよりかなり本気だよね…なんかすごいわ…」
ホールの中はなんというか厳かな雰囲気に包まれていて
ステージは照明が強く当たっていて凄くまぶしく見えた
とても高校生の演奏会には思えなかった
なんかプロが出てきてもおかしくないような雰囲気に思えた
若林「お前の愛しのTのちゃんはいつだよ?」
俺「なんだよそれ さーいつだろうな…」
なんて話してるうちに吹奏楽の演奏が始まった
ステージ上に楽器を持った一団が現れると
場内は凄まじい拍手に包まれた
俺は驚いて思わずまわりをキョロキョロ見渡してしまった
若林に「ばか、きょろきょろすんな」って注意されたのがしゃくだった
吹奏楽の演奏が始まって、俺は唖然とした
正直、高校生ごときの演奏が…となめていたのだけど
初めて生でブラスバンドというものの演奏を聴いて
俺はめっちゃ感動したんだ
音の束が俺の腹に突き刺さってくるような不思議な感じだ
ステージ上で光を浴びて演奏してる人たちが
いつも学校で一緒にいる連中に思えなかった
俺も若林もただ「すげ…」とか「うわ…」とかつぶやくだけだった
吹奏楽の演奏が終わって
軽い休憩時間になっても、俺達はあっけにとられてた
「なにか打ち込むってのは凄いことだわ…」
二人でそんな事を大真面目に話してた
Tも頑張ってるんだろうか
軽音の演奏になってTが出てくるのが
怖いような楽しみなような、なんとも言えない気持ちになった

休憩時間にホールの中が明るくなって
俺たちは後ろの席のほうで何もすることなく座っていた
沢山の人が座ったり立ったりを繰り返していて、場内は慌ただしかった
「先輩!」
声のする方を見ると、通路の方でTがピョンピョン跳ねて手を振っていた
T「来てくれたんですか!」
俺「来たよー!」
T「私もうすぐなんです…緊張します」
俺「頑張ってね~楽しくやればいいよー」
俺がそう言うとTは笑って頷いて、ホールの外へ駆けていった
Tのその姿がとても微笑ましく思えた
若林「可愛いもんだな」
俺「そうだね」
若林「…なんでふったの?」
俺は若林のその質問に黙るだけで、答えられなかった
軽音部の仲間に囲まれて楽しそうに話しているTが
なんだか遠くに行ってしまったように感じた
そしてホールが暗転し、軽音部のライブが始まる
どうやら1,2年生のライブから始まるようだ
いくつかのバンドの演奏が終わってから
とうとうその時がきた
照明が照りつけるステージの真ん中にTのバンドが現れた
Tはボーカルのようで、緊張した様子で真ん中のマイクの前に立った
ホールの前の方では友達だろうか、数人の人だかりがTに熱心に手を振ってた
大勢の人が見つめるステージの真ん中にTが立っている
あの小さなTが、いつもの様子とは違う真剣な顔だった
Tたちのバンドの演奏が始まる
「車輪の唄」だった
もちろん、俺もよく知っていた歌だ
真ん中に立つ小さなTが歌い出す
「錆びついた車輪…」初めて聴くTの歌声だった
恥ずかしい話、俺はこの時まで「女子の歌声」を聴いた事がなかった
それも今聴いているのはよく知っているTの熱唱だ
Tが歌い出した瞬間、俺は鳥肌が立った
この時のTが歌った5分間は、今でも本当によく覚えてる
とても楽しそうに懸命に歌うTの姿が、俺の目に焼き付いて離れない
俺のTのイメージは、真面目で優しくておとなしい、そんな感じの子だ
それが、目の前にいるTはどうだろうか
とても楽しそうに情熱的に、大声を出して歌を歌っている
熱い、本当に熱かった
バンドが凄く好き好きでたまらない、Tのそんな気持ちが伝わってくるようだった
演奏が終わってTが笑顔で「ありがとうございました!」
と言った瞬間場内から割れんばかりの拍手が溢れた
俺も無意識のうちに思い切り拍手をしていた
すごい、すごすぎる、あれが本当にTか?
俺は演奏が終わった後もドキドキが収まらなかった
「Tはどこだ?Tはどこに行った?」
俺は溢れる気持ちが抑えきれなくなり
そのまま若林と二人でホールを出て、Tを探しに行った
必死だった。何か自分の中で小さく収まっていたものが大きく羽ばたいたかのような
とにかく、猛烈に「Tに会いたい」という気持ちが込み上げた
Tに会って、話したい
すごく良かったよ、すごく素敵だったよ、と伝えたかった。
でも、見つからない。
ホール中を駆けまわっても、軽音部が溜まってる所を見ても、見つからない。
Tどこだ、会いたい、ただそう思った
この時、俺は本当にTのことが好きになったんだと思う
本当に、きっかけなんて何処にあるか分からない
この時俺は本当に必死だったんだと思う
演奏会が終わって、関係者が出てくるまで出口で待とうって決めた
早く帰りたがる若林を強引に引き止めて、外が暗くなるまでTを待った
吹奏楽の部員、軽音部っぽい人たち
段々とそれっぽい人たちは出てくるのだが
待っても待ってもなかなかTは出て来なかった
1月の夕暮れ時だ
外で待つのは寒くて辛かったな…
しばらくすると、Tがホールの出口から出てきた
俺らは出口の脇にいたから、遠くから声をかけようとした
でも、Tは男と2人でいた
男と、向い合って手を握って何かを話している
俺「あれ…?あそこにいるのTだよな…」
若林「うん…Tちゃんじゃないの?」
俺、猛烈に焦る
そして、その男と手を繋いで2人で歩き出した
あれ?一体どういう事なんだろう
俺はもうただただ呆然とした
何が起きてるんだ?もう訳が分からなくなって、走ってすぐにTを追いかけた
気まずいとかKYとか言ってられない、声をかけずにいられなかった
俺「T、お疲れー」
たまらず、2人が歩く後ろから声をかけた
T「先輩?」
Tは不意をつかれたようにくるっと後ろを向いた
俺「いきなりごめんね…今日の演奏、本当に良かったよ」
T「いえいえ…今日はわざわざ見に来てくれて、嬉しかったです」
その間、隣の男は黙って俺の方を見ていた でもニコニコしてた
話さなくても、その雰囲気で全てが伝わってくる気がした
ああ、ここは俺がいていい場所じゃない
俺「またいつか、演奏会あったら教えてね」
T「はい、もちろんです それじゃ、先輩も気をつけて帰ってください」
隣にいた男も笑って俺に会釈して、2人はそのまま歩いていってしまった
どんどん小さくなっていく2人 とてもむなしかった
俺が呆然と立ち尽くしていると、後ろから若林
若林「ふられたか」
俺「ふらてねーよ…」
若林「ま…どんまい。こうなるのは分かってた事だな」
俺「そうだね」
若林「あの男、俺らとタメの理系の神ちゃんだな」
俺「神ちゃん?
若林「ま、知らねーよな。良い奴だぞ、明るくて人気もんだな」
俺「そうなんだ…」
俺があからさまに落ち込んでたので、しばらく若林も黙る
そのまま2人で駐輪場へ行って、自転車に乗っていつもの駅への道を走る
もうすっかり真っ暗だった
若林「これからどうすんの」
俺「何を」
若林「何って、Tちゃんだろ」
俺「正直言っていい?」
若林「いいよ」
俺「俺、今日行かなきゃ良かった」
若林「誘ったのはお前だけどな…」
若林が笑う
俺「俺、Tの事好きだって分かったんだよ」
若林「まあ、気持ちは分かるけどな。俺もあのステージ見てたし」
若林「今更どうしようもないんだけどな…」
そして、再び俺が黙ってあからさまに落ち込む
若林「ラーメンでも食って帰ろうぜ」
話題に困ったのか、若林はラーメンを提案 そのまま2人でラーメン屋へ
この時、若林に言われたことは本当に印象的だった
「ちゃんとTちゃんと向き合わなかったお前が悪い」
「Tちゃんがお前にフラれた時は今のお前よりずっと悲しかったはずだ」
「仕方ない」
その全てが正論で、もっともすぎて何も反論できなかった
ただ、若林と話せた事は大きかった
その日、俺は家に帰ってからひたすら泣いた

この一件以来、俺はTへの気持ちを引きずり続けた
Tの事を、本当に好きになってしまった
冬休みが終わって学校が始まっても、ずっと腑抜けだった
礼二と失恋同盟という悲しい同盟を組んだ
そしてそれを見ると若林は
「俺は絶対入らないようにしよっと…」
と言うのが定番だった
辛いことも三人一緒にいれば笑いになる
それだけが本当に俺の救いだったように思う
その後Tとメールして「実は彼氏できちゃったんです」
という報告を受けさらにダメージを受け
それから、春までは特に変わった事もなく
辛い想いと共に俺の高校2年ライフは幕を閉じた

年度が変わって4月になれば、いよいよ高校3年生
もう、今までのようにヘラヘラもしていられない
今までひたすら向こう見ずに暮らしてきた俺達も、色々考えださなければならない時期に入る
新入生の一年生が入学してきて、学校内は再び活気あふれる
2年前に自分が入学した時の事が、もう遠い昔のように感じられた
クラス分けも、もちろんケツクラ。
俺と礼二は文系の、若林は理系のケツクラだった
3年になってからも、帰り道でたまにTが例の彼氏と一緒に帰る所を目撃して
それを見る度に吐きそうになるくらい辛くなった
時間はあっという間に過ぎた
というより、1,2年の頃のエネルギーと無鉄砲さが凄まじかっただけだろうか
時たま、高校に来てから初めてTと会った時の事を思い出して
死にたくなる時がある以外、元気に普通に過ごした
進路就職ガイダンス
進路希望調査、志望校の決定
模試、模試、模試…
そんな字面の行事が俺たちを取り巻いた
高校3年生という立場の一学期はあっという間に消えた
気づけば夏休みに入っていて、流石の俺達も前のようなテンションで遊べなくなっていた
一緒にいても
「進路どうしよっか」
という話題になることが増えていた
周りが自分の目標、進路をしっかりと見据え勉強に打ち込む中
俺達は今までのツケがまわって、何も出来ずにいた
そりゃ、散々サボって授業すらまともに受けなかった落ちこぼれの三人組だったしね
夏は受験の天王山、なんてどこ吹く風…
毎日三人で集まって遊ぶか、家でアイス食ってゲームしてるのがいいとこの夏休み
でもみんなどこか落ち着かなかったんだと思う
若林は特に「まずいよなぁ…」って心配してることが増えた


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