犬のしつけを教えてくれたのは、幼馴染のKentaだった。
Kentaは、本当に沢山の知識がある。
それも、誰も知らないような、それでいて、人にとって特に重要な知識。
それが、人体の仕組みであり、健康でいるための食事に関する知識である。
それを、独学で手に入れ、自分の体験に基づいた独自の素晴らしいデータと検証を持っていた。
それを信用できたのも、彼自身が見るからにとても健康体で、強くたくましい身体と精神を持っている事であった。そして何より、羨ましいくらい真っ直ぐな目をしていた。
6年間という長い期間ずっとうつ病と闘ってきた私から見ると、彼は強すぎて、私は彼のようには到底なれないと思ったし、別の世界の人間とさえ思えて、とてもうらやましかった。
そして、私ももういい加減、抗うつ薬から抜け出したかった。こんな自分にはもううんざりしていた。藁にもすがる思いで、病院に通い、食事にも気を使っていたつもりだった。
だから、Kentaが教えてくれる人体や健康に関する話は、とても貴重で驚くことばかりであった。
お医者さんのような知識の豊富さにも、正直とても驚いた。
Kentaは、私にできそうな事を、1つだけアドバイスしてくれて、それを一日だけ試しにやってみるといいと言った。
これはとても助かった。一日に一個。無理はしなくても良かった。あくまで自分のペースで取り組めばいいことだった。そして、無理強いはされなかった。
試しにやって見ると、意外に簡単にできるもので、少し気を付けるだけで、みるみる体調がよくなっていくのが体験できた。一日が三日になり、三日が五日になり、五日が一週間になり。
一週間もすると、体質が変わっていってるような感覚があった。
いつもだるくて重い体が、少し軽くなった。
これは、精神や自律神経にも大きくかかわっていて、私の思考や感情をも変えていった。
犬のしつけと同時進行に、私もまた大きく変化していったのである。
ある時、私は、自分らしさを取り戻していく自分に気付かされた。
一般常識や、周りの空気に合わせる事が、生きていくためには必要な事と思い込んでいて、それが大人になるということだすら思っていた。
だけど、そうすることでどんどん精神を病んでいったことにも、気付くことが出来たし、今まで主張したくてもできない、弱い自分が、意見をぶつけられるようになってきたのである。
これは、これからの人生を大きく左右する、分岐点となった。
自分らしく生きていきたい。
これから先、ずっと自分に嘘をついて生きるのか?
自分にとっての幸せって何だろう?
今まで感じていた幸せは、今も私を幸せにしてくれているのだろうか?
こんな自問自答を毎日のように繰り返すようになった。
Kentaに教えてもらった食事方法は、確実に私を正常な精神状態に導いていた。
私はそれを、身体と心で実感していた。
これは、凄いとしか言いようがなかった。
そして、今までの自分に終止符を打つ事が出来たのも、この食事による、正常な精神状態と体環境の変化によるものであった。
もう、自分を壊してまで守るものなど、今後授かるであろう子供以外には何もない。
こうして、食べ物の力による私の体内環境の変化が、また一歩、私自身を前に進めさせたのである。