毎日連載小説「2月14日の嘘」 第99話 〜ダメ男、クリアする〜
玉じゃダメなんだよ……札じゃないと!
僕は鯉川の手の平を凝視してその場で固まった。
「いや……」「どうした?」
鯉川が片眉を上げて、首を傾げる。
「カートンで買いたい」
「何? 今日は一箱でいいだろうが」
「ダメなんだ」
「わけがわからん。自分の家に戻ってから、カートンで購入しろ」
鯉川の言う通りだ。だが、ここまで来て引くことはできない。
「ゲン担ぎなんだよ。カートンで買ってるときにベストセラーが書けて、それから続けてるんだよ」
「占いを信じない人間なのに?」
ますます、怪しまれている。
「頼む。次の本が売れなかったら、アンタのせいだからな」
「おいおい……人のせいにするなよ」
納得できない表情で、鯉川が再び財布を開き、一万円札を取り出した。
「恩に切る」
僕は鯉川の手から一万円札を奪うようにして、リビングから脱出した。
何とか、クリアできた。
僕はエレベーターの中で、自分の一万円札とすり替え、鯉川の金をズボンの後ろポケットに隠した。