毎日連載小説「2月14日の嘘」 第38話 〜ダメ男、呑む〜 | 木下半太オフィシャルブログ「どんなときも、ロマンチックに生きろ」Powered by Ameba

毎日連載小説「2月14日の嘘」 第38話 〜ダメ男、呑む〜

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  午後8時。僕は赤坂にある居酒屋に呼び出された。
「ここの店、葉山の朝網の魚を直送してるねんて」
  亜紀が、カウンター席で早くも盛り上がっている。僕を呼び出した張本人だ。
「どうして、わざわざ赤坂なんだ?」
  たしか、亜紀は新宿のホテルに宿泊してたはずだった。
「この店に来たかったからやん。日本酒もええの揃えてるみたいやし」
  店は満席だった。たしかに各テーブルに並んでいる料理はどれも美味そうだ。
「日本酒が好きなのか?」
「日本人やから当たり前やん」
  ハーフの亜紀は店でも浮いている。抜群のプローポーションで冷酒を飲む姿は女優がCMの撮影をしているみたいだ。さっきから、サラリーマンの集団が釘付けになっている。
「じゃあ、飲むか」
  腹は減っていないが、酒は欲しい。
  僕は亜紀の飲んでいた冷酒で乾杯した。
「美味いな。いい酒だ」
「福島の『飛露喜』よ」
  亜紀がご機嫌で声を弾ませる。相当な酒好きのようだ。
  刺身も抜群に美味かった。値段も手頃だし、満席なのも頷ける。近所にあれば通いたくなる店だ。
「歌舞伎町の件はどうなった?」
  亜紀に調べてもらっているつむぎが会っていた初老のアウトローのことだ。亜紀は三日で結果を出すと言ったが、かなり手こずっていたのだ。
「やっと奴の正体がわかったで」
  亜紀がお猪口をカウンターに置き、真剣な目でメニューを見た。
「おい、まだ食うのか」
「当たり前やん。ここはどの料理も美味いねんて」
  この探偵で大丈夫か?
  僕は、早くも後悔してきた。